キリエとラキア
「最強大精霊レイ様のお子様の最強大精霊に習ったのですか?」
リノがグレイスに確認する。
そしてその問いに、顔にかかった果実酒を拭かれながらグレイスが答える。
「ま、そうだね。だけど、高位精霊と違って低位精霊を使役できないから、単発の魔法しか撃てないよ。連続はできると思うけど」
「そ、それはどこまで?」
リノはレイを見る。レイはやれやれと答える。
「ん? ありとあらゆるだ。各属性はもとより治癒魔法もな。あとは二人の妄想力しだいだろう」
「想像力ね」
グレイスはレイの発言を訂正する。
「そんな例外中の例外の低位精霊が、中位精霊になり、高位精霊になったら、どんな高位精霊になると思われます?」
「楽しみだねー」
グレイスが笑う。
ラナとルナが、さすがは旦那様、と、頷く。
「確かに楽しみです」
リノが本音を漏らす。
そのリノの同意にグレイスは興奮を隠せない。
「そうでしょ! でも、僕の予想では、精霊としての能力はさほど進化しないと思うよ。だってさ、魔法の行使はれーちゃんの言う妄想力によるんだしさ。つまり個体の能力依存だ」
「なるほど、妄想力でグレイス様を上回る者などいないと」
リノがグレイスを落とす。
「……納得はしたくないけど、そういうこと。わかってくれたならさ、飲もう」
グレイスが果実酒の瓶を差し出した。
一通り酔っぱらった後、リノ達はグリュンデールへと帰ることにする。
四人はクジラへと乗り込んだ。
しかし、乗り込んだと同時に、キルリスが叫ぶ。
酔ったらしい。
「ラノ様、リノ様、レノ様ー。お嫁に言ってはダメですー。お三方はいつまでも私の姫なのですからー!」
「「「はいはい」」」
三人は、キルリスの頭を順番にポンポンとして、キルリスをなだめた。
これは、グリュンデールに着くまで続く。
「えへっ。三人の姫様を独り占めなのですー」
翌日。
リーゼロッテは第二階層、ピエートル辺境伯邸へとわざわざ出向く。
「リーゼロッテ姫様。このような辺境にまでお越しいただき、恐悦至極に存じます」
「よい。とりあえず、異世界進出の担当を呼べ」
「な、なぜそれを……」
「いいから呼べ」
「ハッ」
リーゼロッテの前に辺境伯とその後ろに軍団長サクレ、今回の異世界進出部隊長のシモンが並び立つ。
シモンは外見上すでに怪我が癒えたように見える。
「異世界に手を出すな」
リーゼロッテが簡潔に命じる。
「で、ですが」
辺境伯は納得はできない。
悪魔の進化がかかっているのだ。
「異世界人と交われば悪魔が種として進化するとか、強化されるとか、そんなことを信じておるのか?」
「な、なぜそれを」
「結論から言う。そんなことはない。この世の生物で悪魔はほぼ最強だ。ドラゴン族を除いてな」
「ですが、このままでは」
「このままではなんだ? 平和な世界が嫌いか?」
「いえ、そうではありません。争いなどは無い方がいい。その通りだと思います」
「なら、異世界に行って知らないことを知るべきではない」
「それはなぜですか? 異世界の方が優れていると、進化していると?」
「目標の問題だ。人族も悪魔も好きなものを発展させてきた。だから、こちらが優れている物、あちらが優れている物、どちらもある。だが、知らなくてよい」
「ですが、我が国の軍事力はより強化すべきかと。抑止力は平和にもつながります」
「だからより強い悪魔をと?」
「はい。そうです」
「そんなものを作り出したら、お前、真っ先に殺されるぞ? 力ある者がその力の使い方を間違えば、悲劇が生まれてしまうだろう」
「では、なぜ姫はあちらとこちらを行き来しておられるのですか?」
「私はあちらの世界で育ったし、旦那様があちらの世界の人だからな。というわけで、転移の魔法陣を使って異世界に行くのはもうやめろ。いいな」
「「はっ」」
辺境伯とサクレは返事をして頭を下げる。
シモンは、歯を食いしばって頭を下げた。
異世界人にやられっぱなしで終れるか。
シモンはそう、こぶしを握る。
後日。
「シモン隊長が部隊とともに消えました」
「ほえー、でっかい船」
キリエはイングラシアの港で巨大な客船を見上げる。
その船にはキザクラ商会の紋章が大きく描かれている。
キザクラ商会運営の船である。
この船は、キザクラ商会のエンジンが積まれており、大陸の国アエオンまで二泊三日で着く。
といっても、夕方に出港し、二日後の朝に到着してしまう。
キリエは船に乗り込んでいる人達を見つけ、その列に並ぶ。
タダで乗れないことくらいは想像がつくが、どこでチケットを買ったらいいかもわかっていない。
順番に従ってタラップを登って行くと、船に足を踏み入れる手前で、チケットの提示を求められた。
「申し訳ないのですが、どこでチケットを買ったらいいか……」
「お嬢ちゃん、お父さんかお母さんは?」
「一人で旅をしているのです」
「そうなんだね。えっと、お金持ってる?」
「は、はい」
と、先ほどキザクラ商会からもらったポーチを開ける。
中にはキザクラ商会の紋章のボタンがついた財布が入っていた。
キリエはその財布を取り出す。
お金入っているかな、と、事前に確認しなかった自分を責めつつ、財布を開ける。
が、その手が止められる。
キリエは前を向くと、
白い帽子、白いジャケット、白いタイトスカートをはいた女性エルフ、ラキアがキリエの手に手を重ねていた。
「お客様、その財布は、キザクラ商会からの支援を受けている方が持つものです。キザクラ商会でもらったものですね」
「は、はい」
「でしたら、どうぞ。お部屋へご案内いたします」
ラキアは、キリエが財布をポーチにしまうのを確認し、「お手を」と言ってキリエの手を取り、歩き始めた。




