グレイスの言い訳
リーゼロッテは無関心である。
だが、リノは続ける。
「あの、悪魔族の話を聞く限り、魔力の多い人族を探しているとのことで」
「それが?」
「悪魔族は、いろいろな(リーゼロッテの)話からこう考えているようです。『魔力量の多い人族と交わることにより、より強い悪魔が生まれる』と」
リーゼロッテとライラがリノに視線を向ける。
視線を向けられたリノが確認する。
「それって、リーゼロッテ様とライラ様の事ですよね」
ごくん。
リーゼロッテとライラが果実酒を飲み込んだ。
「そ、それはだな、旦那様が特殊な事例で」
「そうです。そうですよ。そんなものは例外中の例外です」
と、リーゼロッテとライラは顔を染める。
「それでしたら、もし悪魔が来た場合、そのように説明してよろしいでしょうか。悪魔達が考えているようなことはない、と」
グレイスはすでに目を背けている。
関わってはいけない。
左右のソフィリアとシャルロッテも優雅に、興味なさそうに果実酒を飲んでいる。
レイにいたっては、ラミとルミと日本酒を開けている。
ラミとルミはグレイスの妻ではない。
レイの飲み友達だ。
「そうだ。そもそも、かいせいは人族との子、というより、神の子だからな」
かいせいは、グレイスとリーゼロッテの子。
「しんじゅは確かに強大な力を持っていますが、単純な力で言うと、みずき達には勝てませんし、魔法だってみのり達にはかないません。しんじゅの強みは頭脳と統率力だと思います。そういう意味では、強い悪魔かというと、違うような気がします」
しんじゅは、グレイスとライラの子である。
どちらも悪魔の血が濃い。
みずき達というのは、グレイスとドラゴン族の子。
みのり達は、グレイスと高位精霊(現大精霊)との子である。
「可能なら、リーゼロッテ様からそのあたりを、第二階層の悪魔族にお伝えして欲しいのですが」
「だから好きにしてよいと」
「ですが、悪魔族がこの階層で暴れたら、この階層の人族は滅亡します」
「だからリノ達がいるんだろう?」
リーゼロッテはあくまでもリノ達に任せるつもりだ。
リノ達なら悪魔に対抗できる。
だが、対抗できるのはリノ達三人とキルリスだけだ。
グレイスや妻達、その一族が対処するわけではない。
対応しろとリーゼロッテに言われたとして、リノ達は天使としてどこまでこの世界に介入していいのか……。
しかたない、と、リノはグレイスにとって都合の悪い事実を口にする。
「グレイス様。狙われていますよ」
ガキン!
部屋が凍り付いた。
言いたくはなかった。
言うと妻達が反応し、こうなることはわかっていた。
しかし、リノは間違っていない。
効果的な方法には違いない。
妻達が動けばグレイスが動くのだ。
「リーゼ、頼む」
無関心を貫こうとしていたグレイスが動いた。
リーゼロッテに命じたのだ。
「わかりました、旦那様。明日、行ってまいります」
これで、この部屋が極寒から解放される。
リノもホッとする。
悪魔の件はこれで落ち着くかもしれないと。
「リノ、まだなにかある?」
グレイスが恐る恐る聞く。
「はい、もう一つだけですが」
「何かなぁ」
グレイスは嫌な予感をしながら聞く。
「グレイス様。強大な力を持つ野良の低位精霊二人について、ご存じないですか?」
グレイスは目をそらす。
「グレイス様?」
「えっと、あのね。君達、知りたくはないかな」
グレイスは早速言い訳を始める。
「何をですか?」
「精霊の進化の過程だ」
知りたがりのラナとルナが目を輝かしている。
「だから意思ある低位精霊を野に放ったと?」
「う、うん」
グレイスは目をそらしたまま答える。
「僕はさ、精霊の進化って、ドライアとディーネが大精霊になった事例しか知らないんだ。しかも、二人ともいつの間にって感じだったし、二人とも自覚がない。だけど、進化が起こった以上、じゃあ、どうして? どうやって? って、気になるじゃないか」
ラナとルナが頷いている。
「精霊は低位精霊から中位精霊になる。でも、これはどの高位精霊も覚えていない。おそらく、低位精霊も中位精霊も自我があいまいだから。だから、高位精霊になったとしても、何がきっかけで、どう進化したかなんて、誰も知らない。これは、れーちゃんですら」
レイはイカゲソを加えながら頷く。
「だからさ、意思ある低位精霊がいれば、その過程を覚えていてくれないかなって」
「そんな興味のために、意思ある低位精霊を作り出したのですか?」
「まあ、それだけじゃないけど」
「その低位精霊の意思はどうしたのですか? どこから持ってきたのですか? まさかですが」
「リノ、そのまさか。二人とも転生者だ」
「それで、なぜ精霊に? 二人とも精霊になることに納得していたのですか?」
「それが意思ある精霊にしたもう一つの理由だ」
グレイスがリノの目を見つめる。
真顔で。
「なんです? 二人とも、精霊になりたがったと?」
「ああ。二人とも、う〇こをしたくないと」
ブフー!
果実酒を吹き出す妻達。そしてラノ達。
顔にかかった果実酒をコルベットに拭かれるグレイス。
「だから精霊にするしかなかった」
そう、グレイスは結論付ける。
「でも、意思のある低位精霊……」
「そうはいってもさ、じゃあ、高位精霊にする? どうやって? 僕は高位精霊を生み出す方法って……今はその手段を持たない。大精霊なら、れーちゃんやドライア、ディーネに子供を産んでもらうっていう方法があるけど、その子供に転生者の魂を移すなんてこと、僕にはできない。というかやりたくない。だから、自我のない低位精霊なんだ」
グレイスはシャルロッテを見て続ける。
「シャルは受精卵を作り出し、そこに魂を入れることができる。だけど、じゃあ、その卵を誰に入れるのか、っていうのもこれまた問題だしね。それにこの方法だと、う〇こをすることになる。だから、低位精霊が二人の要望に合っているんだ」
「しょ、承知しました。では、最後ですが、その低位精霊達、訓練は受けています?」
「ああ、しらゆきとみゆきに頼んだ」
ブフー!
ラノ、レノが噴き出した。
最強大精霊じゃないかと。




