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リノとグレイス

「ねえ、支店長代理、あの子、今話題の悪魔でしょ。いいの? ほっといて」

「いいんじゃないかしら。あの子からは悪意は全く感じられなかったし。それに、何かされるより、うちの商会の手のひらの中にいてもらった方が安心でしょ」

「おお怖っ」

「「あははははは」」





 ローゼンシュタイン家のクジラ離発着場に、グリュンデール王家の紋章が入ったクジラが到着した。

 クジラからはリノ・ヴンダーシューンとキルリス・バタフライ、そして、仮面をつけた二人のエルフが降り立った。


「ようこそローゼンシュタイン領へ。本日のご用件は」


 離発着場を警備する黒薔薇騎士団団員がリノに声をかける。

 普通にとらえれば、女王陛下に対する口の利き方ではない。

 だが、ローゼンシュタインにいる黒薔薇騎士団はレフトと呼ばれ、リーゼロッテ直轄だ。

 そのリーゼロッテはグレイスの妻。つまり、ここにいる黒薔薇の騎士はリノにへりくだる必要は感じていない。

 グレイスの直属かリーゼロッテの直属かくらいの違いなのだ。

 序列をあえて考えるなら横並び。


「グレイス様とリーゼロッテ様にお会いしたいのだが」


 一方のリノも黒薔薇騎士団に対して敬語を使ったりしない。


「グレイス様にリーゼロッテ様でしょうか」

「そうだ」

「承知した。それでは、グレイス様のお屋敷までご案内します」


 黒薔薇騎士団員が手を上げると、黒塗りの馬車が到着する。

 リノ達四人はその馬車に乗り込んだ。

 騎士団員は、御者台に乗り、御者へ行先を指示した。


 リノ達は、グレイスの屋敷の会議室に通される。

 リノ達はグレイスの片腕である。

 謁見ではない。


 しばらく待っていると、ノックもなしに会議室のドアが開く。


「リノ、ラノにレノ、久しぶりじゃない」


 入ってきたのはグレイスの妻、ラナとルナ。

 二人はキザクラ商会ではリノたちの上司にあたる。

 しかも、エルフが敬うハイエルフである。


 リノ達が一斉に膝をつく。


「リノ、いいのよ。楽にしてください」


 ラナがリノ達を立たせる。


「椅子に座って頂戴」


 ルナもリノ達に楽にするように言う。


「コルベットさん、お茶を」

「はい」


 ラナの指示でメイドのコルベットが配下のメイドに指示を出していく。

 リノ達の前にお茶が用意される。

 リノ達の目の前に座ったラナとルナがリノ達に話しかける


 「リノ、それにラノとレノ、リュンデール王国の運営、それにキザクラ商会の統括もの役割もありがとうございます」

「いえ、国の方はほぼキザクラ商会の運営の延長のような感じですので、大したことは。しかも、大きな事件も今のところありませんし」

「あら、そう?」


 ルナが首をかしげる。


「何かあったからアポもなしに来たのではなくて?」

「いえ、本当に、問題はないのです。しかし、お聞きしたいことがありまして」

「それは、グレイス様にですか?」

「はい。それと、リーゼロッテ様にです」

「リーゼにもですか」

「はい」


 そこへコルベットが口を挟む。


「ラナ様、ルナ様」

「なあに?」

「旦那様が、旦那様の部屋へお越しいただくようにと」

「あら、そう。それはそれは」

「リノ、貴方達、やっぱり旦那様に愛されているのね」


 ラナとルナが笑う。


「滅相もありません」


 ラナとルナはグレイスの妻である。

 その妻の前で、当然だ、なんて言えない。

 思っていても。


「それでは行きましょう」


 ラナとルナが立ち上がり、部屋を出ていく。

 それにリノ達も従った。





「失礼します」


 ラナとルナがグレイスの部屋へと入って行く。


「失礼いたします」


 リノ達も入る。

 そこは、グレイスの部屋。

 と言っても、ずらりとソファが並び、ローテーブルを囲んでいる。

 すなわち、グレイスが妻達と時間を共にする空間である。


「あ、リノ、ラノ、レノ、久しぶり。ラノもレノも仮面獲りなよ。それから、キルリスも久しぶりだね。みんな、こっちへ来て座って」


 と、グレイスは、真ん中のソファに座り、その対面に座るようにと勧めてくる。


「はい、ありがとうございます」


 と、リノはグレイスの正面に座る。

 その左右にラノとレノ、ラノの隣にキルリスが座る。

 すると、その左右と、グレイスの左右を妻達が埋めていく。

 リノ達はある意味冷や汗をかく。

 最強のナンバーズに囲まれたのだ。

 これは包囲された状態。

 これから先は、言葉を間違えてはいけない。

 禁句は当然ある。


 グレイスが手を叩くと、コルベット達メイドがそれぞれの前に果実酒を用意していく。

 さらに、おつまみも。


「リノ達、よく来てくれた。グリュンデールをいつもありがとう」


 グレイスがグラスを差し出してくるので、リノ達もグラスを持って、それを合わせる。


「ねぎらいの言葉、ありがとうございます。グレイス様のため、我らは職務に専念いたします。それができるのもグレイス様のおかげ」

「リノ、硬いよ。君達には感謝してるんだ」


 こほんこほん


 グレイスの両サイドにいるソフィリアとシャルロッテがそろってわざとらしい咳払いをする。


「そうだね、酔っぱらう前に、用件を聞こうか」

「はい」


 リノが背筋を伸ばす。


「まず一つ目ですが、リーゼロッテ様にお聞きしたいです」

「ん? 私にか? 何だ」


 リーゼロッテは、すでに果実酒のお代わりをもらっているところだ。


「この階層に悪魔が来ておりますが、その件について、何か、理由とか」

「知らん。好きにしろ」

「「「「……」」」」


 リノ以下、三名も目を点にする。




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