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キリエとドラゴン

 キリエは第三階層の転移陣に現れた。

 転移陣が発動すれば、そこの警備兵も気づき、集まってくる。


「あ、あれ? キリエ様?」


 警備兵が、転移してきた人物が辺境伯の娘、キリエと気づく。


「ん? どうしたのかしら?」

「あの、キリエ様がなぜここに?」


 キリエは同じ回答を繰り返す。


「だって、私の旦那様になる人が、待っていてくれるかもしれないじゃない」


 と、両手を組んでくねって照れる。

 照れて見せる。


 ほわんほわんと、警備兵が頬を緩めたのをみるや、


「それじゃ、お仕事よろしくね」


 そう言って、キリエは神殿を出て、全力で空に向かって飛びだした。


「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」


 手を振る警備兵。


 シュワン!


 誰かがまた転移してきた。

 その音に警備兵たちが気づいた。


「あれ、今度は誰かな?」


 警備兵達は、出迎えのため、再び転移陣にまで戻る。


「……って、サクレ様!」


 サクレの目は吊り上がり、その表情は険しい。


「おい、キリエ様は来たか?」

「は、はい。自分の旦那様に会いに行くと。相変わらず、愛らしいお姿で」


 パシン!


 ほほを染める警備兵の頭部をはたくサクレ。


「ちっ、逃がしたか」


 サクレはキリエのことを良く知っている。

 小さな時には面倒を見ていたこともある。


 キリエは頭が回る。

 しかも好奇心が強く行動力がある。

 思い立ったら吉日のその性格を、何とか辺境伯閣下が押さえていたというのに。


「どっちへ向かった?」

「はい。東へ。しかも、ものすごい勢いで」

「わかった」


 サクレは悩む。

 この一瞬の迷いが、キリエを大きく遠ざけてしまうとしても。

 正直、キリエを追いかけるのはめんどくさい。

 かつてキリエと遊んだような、屋敷の敷地内に限った鬼ごっこではない。

 この異世界(第三階層)全域を使った鬼ごっこだ。

 正直、キリエを捕まえるのは不可能に近い。

 屋敷に戻って辺境伯に報告するか?

 それとも、知らなかったことにしてしまおうか?

 後者はだめだ。

 仕える者として、報連相は基本だ。


「よし、戻ろう」


 サクレは元の世界(第二階層)へと転移陣で戻って行った。

 当然のごとく、辺境伯は取り乱したが、後の祭り。





 空へと飛びだしたキリエではあったが、しばらくすると、空中でドラゴン族に囲まれる。


 さすがはドラゴン族。


 キリエは内心そう思う。


「あら、ごきげんよう、ドラゴン族の皆さま。私に何か御用ですか?」

「神殿から出てきたのはお前か?」

「はい、そうですが?」

「目的はなんだ?」


 キリエは一瞬だけジト目をする。

 なんでまあ、目的が無いと来てはいけないのかと。

 だが、すぐに顔に笑みを浮かべ、これまでの調子で説明する。


「えー、将来のぉ、旦那様に会に行くのですぅ」

「……」


 あれ?

 キリエはドラゴン族の反応に少し疑問を覚える。

 私がかわい子ぶれば、誰もが頬を染めたはず。

 ちょっと、調子に乗りすぎたか?


 ドラゴンはキリエに確認を取る。


「では、この階層に害をなそうとしているわけではないのだな」

「ええ、もちろんです。旦那様の住む世界ですもの」

「ならば、一つだけ忠告する。この階層には悪魔はいない。つまり、ここの住人はその姿になじみがない。へたをすると、恐怖を感じるかもしれない。できるのであれば、人族の姿に変化することをお勧めする」

「ん? どんな感じ?」


 ドラゴン族の一人は、人型になって見せ、別のドラゴンの背に立つ。


「このような感じだ」

「なるほどね。服とかはどうなの?」


 キリエは、小さなシルクハットを頭に乗せ、フリフリのブラウスにフリフリのワンピース、ニーハイの黒いソックスに黒のブーツ。

 ご丁寧に、レースのついた黒い日傘まで持っている。


「服装はいいと思うぞ」

「じゃあ、こんな感じ?」


 ぼふん!


 キリエが姿を変える。

 髪は両サイドのツノのあったところに、それを隠すようにお団子。

 指の先からとがった爪は無くなる。

 顔は、人族の子供そのもの。

 人族と違うのは黒い翼と細長いしっぽ。


「その翼は消せないのか?」

「消したら落ちちゃうじゃない」

「では、地面に降りたら消しておけ。で、その尾は?」

「……消えないわ」

「では、それは服装の一部としておけ」

「ありがとう。それじゃ、行っていい?」

「最後に一つだけ」

「何?」

「ちょっと前に、悪魔がこの階層で騒ぎを起こした。だから、人族達はお前達に対して警戒をしていると思う。これ以上、敵対してくれるな」

「ん。わかっているわ。そんなつもりはないもの。旦那様を捕まえに行くだけよ」

「あてはあるのか?」

「んー。ないけど、うちの隊長がやられたって聞いたから、そっちの方を探してみようかなって」

「火の中に飛び込むのか?」

「やられに行くわけじゃないわ。求婚よ」

「そういう意味じゃない。それこそ、悪魔が攻撃をして警戒をしているその中心に飛び込むのか? と、言っているんだ」

「恋を妨げるものなんて、なにもないわ。あっても乗り越えるだけよ」

「はぁ。わかった。行け」

「あ、こっちからも聞いていい?」

「なんだ?」

「私が“世界”って言ったのに、あなた、“階層”って言いなおしたわよね?」

「お前達悪魔が住んでいる世界、この人族が住んでいる世界、そのほかにも世界がある。それらをまとめて一つの世界なのだ。それぞれを世界と呼ぶのはややこしいから、一つにまとめたものを世界と、そして、それぞれの世界を階層と、我々は呼んでいる」

「そうなんだ。じゃ、私がいたのは悪魔が住む階層。ここは人族が住む階層、と言うわけね」

「そうだ」

「他にも階層はあるの?」

「そういうのは、自分で見ろ」

「そうね。楽しみは取っておくわ。ありがとう。行っていい?」

「ああ。良き相手が見つかるといいな」


 キリエは、それでは、と、東に向かって飛んで行った。


 ドラゴン族は、


「あ、忘れていたが……」


 と、振り返ったがもう遅い。


「この階層で飛べるのは我らドラゴン族と妖精と鳥人族だけだぞ、と。言ってもいないか。空から降り立ったら驚かれると思うのだが。仕方ない」


 あとは、天使や死神、グレイスの乗り物、クジラくらいであろう。


 まあいいかと、ドラゴン族は、山へと戻って行った。





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