新たな任務を得たリスベルと任務を放りだすアシュリー
アシュリーとリスベルは、この日もグリュンデール王城へやってきた。
会議室に案内された二人は、テーブルについて、この国の女王を待つ。
しばらく待っていると、女王、リノ・ヴンダーシューンとキルリス・バタフライがやって来た。
アシュリーとリスベルの二人は立ち上がって挨拶をする。
「リノ・ヴンダーシューン陛下……」
「いいです、挨拶は抜きで」
「はい」
「とりあえず、座ってください」
リノは、アシュリーとリスベルを椅子に座らせた。
「昨日の提案でしたね」
「はい。我が聖王国と平和条約を結んでいただきたいのです」
「我が国としては、貴国とは平和条約は結べません」
「え?」
アシュリーは目を見開く。
この世界に悪魔の危機が迫っているのに。
狙われるのはおそらくリノ・ヴンダーシューン、その人なのに。
「ですが」
と、リノはアシュリーに願う。
「悪魔に会うことがあったら、伝えるようにして欲しいのです。この世界で一番強大な魔力を持つのはこのリノ・ヴンダーシューンである、と。魔力の多い者を求めるのであれば、グリュンデールまで来い、と」
「陛下!」
アシュリーが立ち上がる。
リノは自分をおとりにするつもりか?
「陛下は悪魔に勝てるのですか? 悪魔はこの世界など簡単に滅ぼしてしまうと伝えられています。そのような危険に、御自らをさらすなど、貴国騎士団、国民が黙っていないのではないですか!」
「アシュリー王女殿下は言ったではないですか。私の魔力が最も強大だと。ならば、悪魔の狙いは私です。いずれ狙われる。なら、初めから狙われた方が被害が少なくなると思います。それに、我が国が襲われたとしたら、貴国では救援には間に合わないですよね。逆もしかりです」
アシュリーはうつむく。
「殿下はこの後、各国を巡って帰るのでしょう?」
「はい。行きは、各国ともグリュンデール王国の様子を見てからと、話しを聞いてもらえませんでした。ですので、各国を通って帰りたいと思いますが、我が国との平和条約は受け入れてもらえないでしょう」
「そうなるでしょうね。もしよかったら、私がおとりになると、各国に伝えて行ってほしいです」
「はい……。承知しました」
アシュリーが立ち上がる。同時にリスベルも。
「失礼いた……」
アシュリーが退室をしようとしたとき、リスベルがリノに頭を下げた。
「キザクラ商会統括、会長代理、リノ・ヴンダーシューン様。お願いがございます」
「はい? なんでしょう」
「私、リスベルはキザクラ商会イングラシア支店長を務めておりますが、一身上の都合により、休職とさせていただきたいのです」
アシュリーが目を丸くする。
「それでどうするのです?」
「支店長の方は、現代理のリコリスを推薦します。私は、お休みをいただき、野良精霊様の旅に同行いたしたく思っております」
「野良精霊? エルフは確かに精霊を崇める種族ですが、野良とは? 旅をする?」
「はい。ローゼンシュタインからこちらへ向かう途中、二人の野良の低位精霊様に出会いました。低位精霊とはいえ、そのお姿は金と銀に輝き、三十センチほどと大きく、しかも、意思を持って魔法を行使なさいます。このような低位精霊様は見たことがございません。将来、必ずや高名な精霊様になられると信じています。ですので、この二人の低位精霊様の旅に同行したく思っております」
リノは口に手を当てて考える。
何を言っているのだこのエルフは、と。
低位精霊が金や銀に輝く?
三十センチもある?
意思を持っている?
自身の意思で魔法を行使する?
何を言っている。
そんな低位精霊がいるわけがない。
それは、実体のない高位精霊だ。
いや、実体化していない高位精霊ではないか。
「リスベル、それは高位精霊ですよね? 実体化していない……」
「いえ、低位精霊様です。ご本人様達も、そうおっしゃっておりました」
「……」
おっしゃっていた?
本当に規格外の低位精霊?
この生きて来た長い間、そのような精霊は見たことも聞いたこともない。
とはいえ、可能性が無いとは言えない。
現にリスベルが出会っている。
どうしても引っかかるのは、“ローゼンシュタインからこちらへ……”。
ありうる。
神が関わった低位精霊。
それなら……。
「わかりました。リスベル。貴方に休暇を取らせましょう。いえ、休暇ではなく、新たな任務を与えましょう。その低位精霊を連れてきてください」
リスベルは頭を下げる。
「ありがとうございます。リノ様」
「給料は、貴方の冒険者カードに紐づけさせますね」
「はい。必ずや任務を遂行いたします」
そう言って、リスベルは再び深く頭を下げると、退出した。
「待ってよー」
と、小声でついてくるアシュリーのことを気にすることなく、リスベルは拳を握る。
目にやる気を満ちさせて。
二人が出て行った会議室。
「キルリス、今の話、どう思う?」
「はい、どう考えてもグレイス様のいたずらですよね」
「いたずらね。そうね、いたずらというより、気まぐれ、もしくは、ただ単に面白がっているだけかもしれないわね。ですけど、悪魔との関連性があるのかしら?」
「それはわかりませんね」
リノは決意する。
「クジラの用意を」
「はっ。お供します」
グリュンデール王城から出たアシュリーとリスベル。
「ちょっとまってよ、リスベル。キザクラ商会の支店長を辞めちゃうってどういうことよ」
「アシュリー様、そのままですが?」
「ここまで一緒に来てもらったけど、私、どうするのよ」
「私は、ここで新たな任を得ました。よって、アシュリー様にお付き合いするのはここまでとなります。元々、グリュンデールでリノ様に謁見するまで、というお約束でしたし」
「一緒に帰ろうよ」
「言いましたよね? 新たな任を得たと。私はもう支店長ではありません」
リスベルはニヤリと笑う。
「私はキザクラ商会統括・会長代理直属としての任を得たのです。大出世です!」
「喜んでいるところ悪いんだけど、だから、私は?」
「護衛の騎士がいるじゃないですか。連れて帰ってもらってください」
「いやよ。だって、女の子いないのよ? 体を拭くときとかお花摘みとかどうするのよ」
「王女にプライベートなんてありませんとも」
「いやー! 絶対に嫌」
「まあそうですね。私達はレーナ様とミシェル様より先にグリュンデール入りしています。ローゼンシュタイン方面へお二人を捜しに行く必要があります。ですから、そこまでは同行できます」
「嫌よ。それ以降は一人じゃない」
「だから騎士達がいると」
アシュリーは悩む。悩んだ末に出した答え。
「リスベル、冒険者ギルドに行きましょう」
「なぜです?」
「私も冒険者登録をします。それで、私もついてきます」
「どうするんですか、誰が情報を持って帰るんです?」
「それこそ騎士達でいいでしょう」
「説得はご自身でお願いします」
「はーい」




