ラテ
(すーちゃん、これからどうする?)
ミシェルがすみれ姫に尋ねた。
ラテと一緒にグリュンデールまで旅をする予定だった。
そのラテがいなくなってしまった。
旅を続けること自体はすみれ姫の目標でもある。
しかし、一緒に旅をするラテがいない。
すみれ姫はどうするのか。
もしかしたら、目標を見失ったすみれ姫は、旅をすることをやめてしまうかもしれない。
「どうするとは……」
すみれ姫たミシェルに問い返す。
(このままここにいても……)
ミシェルはすみれ姫に先に進むことを提案する。
だが。
「私は精霊。いつまでもここにいられる。ラテのそばにいられる」
(そうなの……)
ミシェルはすっかり沈黙してしまったレーナを視線をいったん送り、再びすみれ姫に声をかける。
(ラテは私の中にいるよ)
と。
すみれ姫に伝わるだろうか。
「え? 何を言ってるのミシェル。ラテは、ラテはミシェルがここに埋めたんじゃないか」
(ううん。すーちゃんの中にもいる)
「……」
ミシェルは何を言っているのだろうか。
ラテは、レーナとミシェルがここに埋めた。
そのことは忘れない。
(ほら、思い出して。ラテとの会話。ラテのぬくもり。ラテの笑顔。ね。ほら、目を閉じて思い出せばそこにラテはいる)
「ラテはいない!」
すみれ姫は言い張る。
すみれ姫の言うことは確かに正しいのだ。
(すーちゃんは周りに亡くなった人はいなかったの? 私達は、亡くなった人の事、そうやってずっと覚えているんだよ。それがその人がこの世で生きたっていう証だし、これからも記憶の中で生きているってことだと思う。その人のことを覚えている人がみんな死んじゃった時に初めて、その人は本当に死んじゃうんだと思う。だから、ラテは、私の中でずっと生きてる。すーちゃんの中でもね。私はそう思う)
すみれ姫は胸に手を当てる。
ラテの顔、ラテと話したこと、食事をしたこと、一緒に星空を見上げたこと、一つ一つ思い出してみる。
「私、ずっと覚えているから。ラテの事、ずっと覚えているから。忘れないから」
すみれ姫は涙を流した。
キラン!
落ち着いて来たレーナがすみれ姫にお願いをする。
(すーちゃん。すーちゃんがここに残るかどうかはすーちゃんが決めることだと思うんだけど、お願いを聞いてほしい)
何? と言う顔でレーナを見るすみれ姫。
(ラテは荷物を運ぶっていうお仕事をしている途中だった。私、それを途中で投げ出したくない。ラテの仕事を終わらせたい。ラテは受けた仕事をちゃんと遂行できるゴールドランク冒険者だったって、そうしたい。だから、すーちゃん、この馬車を、目的地まで運んでほしい)
「馬車を運ぶ。それはいい。私もラテがやってきたことをちゃんと終わらせたい」
すみれ姫はレーナに問う。
「運んだあと、レーナとミシェルはどうする?」
レーナはきっぱりと答える。
(旅を続けるよ。私、アイドルになりたいから、体が欲しい。歌うための口、踊るための体、みんなに笑顔を届けるための表情。全部欲しい。だから高位精霊になりたい。でもね、今は悲しんでるすーちゃんを抱きしめるための体が欲しい。すーちゃん、ごめんね。こんな体で。ラテの様にすーちゃんを抱きしめれられなくて)
すみれ姫はおもむろに立ち上がり、レーナに近づくと、そっとレーナを抱きしめた。
「レーナも悲しい。だから、今は私がレーナを抱きしめる。でも、私もレーナに抱きしめてほしい。だから、レーナが体を持つまで、一緒に旅をする」
すみれ姫はレーナを抱きしめていた右手をミシェルに伸ばす。
「ミシェルも」
そう言って、すみれ姫はレーナとミシェルを抱きしめた。
「レーナ、ミシェル、ありがとう」
キラン!
しばらくレーナとミシェルを抱きしめていたすみれ姫は二人を開放する。
「行くか?」
(いいの?)
「ここにラテはいるんでしょ?」
すみれ姫は胸を押さえる。
(うん)
「なら行こう」
すみれ姫は見よう見まねで馬車に馬をつなぐ。
そして、御者台に座ったすみれ姫は、手綱を握るでもなく、馬にお願いをした。
「お願い。街まで連れて行って」
すると、馬はそれを理解したのか、歩き始めた。
(ラテー、あなたがーわたしにーくーれたもの)
(それはやさしさーぬくもりーそしてーえみ)
(ラテー、あなたがーわたしにーきづかせーてーくれたー)
(ひーとーのぉーーーーあたたかぁーーーーさーーーー)
(ラテー、あなたがーおしえーてーくれたー)
(あなたーが、すきーな、けしきー、ほしぞらー)
(あなたが、いなぁく、なぁあっても)
((わたしは、ぜぇたい、あなたをーわすーーーーーーーーれない))
(わたーしのー、ここーろと、あなたーーぁの、まりーーーあぁじゅー)
(わたーしのー、なかぁあで、あなたぁーはぁ、いきてーーーーーーー)
((らぁぁぁーーーーてーーーーー))
((わたーしのー、なかぁあで、いきぃてーーーーーー))
((らぁぁぁーーーーてーーーーー))
(レーナ、ちょっと演歌から外れて来たんじゃない?)
(うん。ラテって、演歌っぽくないって言うか)
(それで昭和歌謡?)
(しょうがないじゃない。この世界、打ち込みやシンセって感じじゃないんだもの)
「レーナ、後でラテの歌、教えて欲しい」
(いつでもいいよ。っていうか、すーちゃん、自分の気持ちを歌っちゃっていいんだよ)
「……」
(すぐになんて無理よ。のんびりやりましょ、ね、すーちゃん)
ミシェルが締める。
「ん」
こうして、さらに一日して、三人は山脈を抜けた。
三人は、食事をする必要はない。だが、寝る。
よって、馬も休める。
移動し続けるわけではない。
三人は、さらに二日間の移動をして、グリュンデールの入り口の街にたどり着いた。




