仇
翌朝、すみれ姫が目を覚ました。
「ん、んん」
すみれ姫が起きてもレーナもミシェルも声をかけない。
かけることができない。
何と声をかけたらいいのかわからない。
普段なら、(おはよ)の挨拶くらいしたのだが。
「あ、あれ? ラテは?」
すみれ姫は自分の左右にいるレーナとミシェルに尋ねる。
一緒にいたラテがいない。
一緒に星を見たラテがいない。
レーナは姿を消したまますみれ姫に答える。
姿を消していても、悲しみに震えていることがその声ですみれ姫に伝わる。
(ラテね、昨日、雨上がりで空気が澄んでたじゃん。月がきれいだったじゃん。星もきれいだったじゃん。ラテ、そんな空が好きだって言ってたじゃん。だからね、ラテ、お空にかえっちゃった……)
レーナは涙声だ。
涙は出ずとも、声は震える。
「え、うそだよ。一緒にいて嬉しいって言った。私と星を見ることができて嬉しいって言った。だから、一人でどこかに行くなんてことない」
すみれ姫は断定する。
ラテは一緒にいるのだと。
そして、続けて尋ねる。
「それでなんでレーナもミシェルも震えている?」
(うわーーーー!)
レーナが耐え切れなくなり、大声を上げた。
「レーナ? ミシェル?」
すみれ姫は、取り乱したレーナを見て、ミシェルに声をかける。
「ミシェル、ラテはどこ?」
ミシェルはあきらめたように、御者台から飛び降りた。
姿を消したまま。
そして、すみれ姫を待つ。
すみれ姫は、何も言わないミシェルの意図を汲み、ミシェルについて行くこととし、御者台から飛び降りた。
すみれ姫はミシェルの後をついて、湖畔を歩き、そして、湖が見渡せる小山の上に立った。
そこには盛り土があり、そして、ラテの短剣が刺さっていた。
短剣は、ラテの腰に刺さっていたものを、ミシェルが刺した。
風魔法で。
「ミシェル、ラテはここ?」
(……)
ミシェルは無言をもって肯定する。
「ミシェル、ラテは何でここにいる?」
(……)
ミシェルは無言を返す。
ミシェルのその対応に、その態度に、すみれ姫の声に怒気が混ざる。
「誰がここに埋めた!」
(私達が)
ミシェルがそう答えた瞬間、無数の魔法陣がミシェルを取り囲んだ。
ミシェルは全く抵抗をしようとしない。
「なんで!」
すみれ姫は声を荒げる。
(……)
「言え!」
ミシェルは答えない。
すみれ姫はミシェルをにらみつける。
しかし、ミシェルは答えようとも動こうともしない。
どれくらい時間がたっただろうか。
一瞬かもしれないし、数十分かも知れない。
すみれ姫は魔法陣を消し、そして、小山にしゃがみこみ、素手で土を掘りだした。
すみれ姫は土魔法を使えない。
だから素手で。
「ラテ、出してあげるから。ラテ……」
すみれ姫は掘り続ける。
ミシェルはそれを見ていることしかできなかった。
だが、
(すーちゃんやめてー!)
と、レーナがすみれ姫を突き飛ばした。
(すーちゃん、ラテは空に行った。大好きな空に。それでいいじゃん。それでいいじゃない!)
「よくない! ラテは私と一緒に星を見れて嬉しいって言ってくれた。また見るんだ。一緒に星を見るんだ」
すみれ姫は、再び地面を掘り続ける。
(お願いすーちゃん、ラテ、眠らせてあげて!)
「この中で眠っているのか? ちゃんと馬車で寝かしてあげたい」
すみれ姫は土を掘りながら続ける。
「なんで、なんでレーナとミシェルはラテをこんな土の中で眠らせた!?」
レーナが耐えられなくなって叫ぶ。
(私が! 私が、ラテを守れなかったからだよ! だからラテが死んじゃった。私の、私のせい……うわーーーー!)
(すーちゃん。私も、私もだよ。私もラテを守れなかった)
ミシェルもレーナに続く。
すみれ姫がようやく気付く。
「守れなかった? 死んじゃった? ラテは……死んでしまった?」
(うわーーーー!)
(……)
レーナはすみれ姫の疑問に答えることが出来ず、ひたすら泣く。
ミシェルは無言で肯定する。
「何で……」
すみれ姫は思い出そうとする。
気を失う前に何があったのか。
ラテと星を見ていた。
ラテに肩を抱きかかえられて。
ラテは、暖かかった。
ラテは、優しかった。
ラテは、一緒に星を見ることができて嬉しいと言ってくれた。
私もうれしかった!
叫び声を上げそうになったその瞬間、何かを思い出した。
……星が消えた?
……そして……。
「レーナ、ミシェル、何があった……」
すみれ姫の問いにミシェルが答える。
(悪魔が来た。私達も来たことに気が付かなかった。突然、すーちゃんとラテの上半身が消えた。一瞬だった)
「……」
すみれ姫が驚愕の顔を浮かべる。
それで自分は意識を失ったのか……。
ならば、自分も気づかなかった。
レーナがラテを守れなかったと言った。
それは、それは自分も同じではないか。
私が、私がラテを守れなかった。
それに気づいてしまったすみれ姫。
「うわーーーーーー!」
叫び声を上げた。
「悪魔はどこ! 悪魔は!」
すみれ姫が怒りをまき散らしながら周りを見回す。
(悪魔は、私達のファイアランスでもアイスランスでも倒せなかった。最後は、レーナのファイアトルネードで囲って私のエクスプロージョンで爆破した。でも、結局倒せたかどうかはわからなかった)
「悪魔め! 悪魔め!」
涙し、地団駄を踏み続けるすみれ姫にミシェルが追加情報を出す。
(悪魔は強大な魔法を使った痕跡を追ってきたみたい。ラテがその使い手だと思って悪魔はラテに攻撃を仕掛けたんだと思う)
「魔法?」
(強大な魔法。多分、私達の突風)
すみれ姫が地団駄を踏むのをやめ、涙を拭きながら聞く。
「突風? 私も撃った。私のせい? 私のせいでラテが狙われて死んだ?」
(違うよ。すーちゃんのせいじゃない。私達のせいでもない。悪魔が、悪魔がやったこと)
すみれ姫は、ラテが眠る盛り土の前に膝を落とす。
「ラテ、守れなくてごめん。私が弱くてごめん」
すみれ姫は、こぶしを握り締める。
「私が必ず仇を取る!」




