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自責

(レーナ、ラテを)


 炎を見続けるレーナにミシェルが声をかけた。


(ラテ……)


 レーナが我に返る。

 そして、二人は馬車に近づいて行く。


 その御者台には、希望の一つもなく、ただ、血に濡れたラテの下半身があった。

 その脇には、上半身を再生したすみれ姫が気を失い、倒れていた。


(ラテ……)

(ラテ……)

(ラテー! うわーーーー!)


 レーナが状況を理解し、大声を上げる。

 ミシェルは下半身だけのラテを見て何も考えられず、固まっている。


(ラテが死んじゃった、ラテが死んじゃった、ラテがぁ!)


 レーナは我を忘れて叫び続ける、


(何で、何で、何で!)


 レーナは光を灯す。


(何なのこの体は! ラテを守ることもできない! ラテを抱きしめる手もない! ラテの死を悲しんで涙を流す目もない! 何なの、この体はぁ!)


 レーナはラテを守れなかった自分を、ラテのために涙を流せない自分を、非難し始める。

 自分が求めた精霊の体なのに。


 自身の無力さ、自身のできないことの多さを責め始めたレーナに、ミシェルが光を灯して、そっと寄り添う。


(レーナ、レーナ。お願い、少し落ち着いて)

(ミシェル、ミシェル、落ち着いてなんていられないよ、ミシェルは落ち着いていられるの?)

(レーナ、私も落ち着いていられない。私も悔しい。何もできなかった自分が許せない。でも、でもね)


 ミシェルはレーナに寄り添いながら言う。


(すーちゃんが目を覚ます前に、ラテを埋めてあげたい)


 すみれ姫が初めてなついた人。

 すみれ姫が初めて笑顔を向けた人。

 すみれ姫が初めて心を許した人。

 その人が亡くなった。

 上半身を失って。

 すみれ姫がそれを知ったら。

 それ以前に、上半身の無いラテを見たら……。


(……わかった。ミシェル)


 レーナとミシェルは光を灯したままぽよぽよと湖畔を移動し、少し小高くなった地盤の固そうなところを見つける。


(ここでいい?)

(うん。いいと思う)

(それじゃ、穴を掘るね)

(お願い)


 レーナは、土魔法で、地面に穴を掘った。

 二人は、風魔法を使ってラテの下半身を運ぶ。

 そして、その穴にそっと降ろして足をそろえた。


(このまま埋めていい?)

(魔物や野生動物に掘られても嫌だから火葬にする?)

(そうだね。そうしようか)

((ラテ、ありがとう))


 二人は小さなファイアトルネードでラテを焼いた。

 そして、土魔法で土をかぶせ、穴を埋めた。


 二人は目を閉じ祈る。

 これまでの感謝と、守れなかったことに対する謝罪と……。





 二人は馬車に戻る。

 すみれ姫は未だ御者台で気を失っている。


(馬車とすーちゃん、きれいにしなきゃ)

(そうだね)

((リムーブ))


 馬車に、すみれ姫についていたラテの血がすべて消える。

 二人はすみれ姫の左右にその丸い体を降ろした。

 すると、再びラテを失った悲しみの感情がわいてくる。


(ラテ……)

(ラテ……)

(うわーーーー!)


 レーナは自分を責める。

 ラテを守れなかった悔しさ。ラテを失った悲しみ。

 そして、悲しくても悲しくても、涙を流す目はない。

 馬車や地面に八つ当たりするための腕も足もないことのふがいなさ。


 一方でミシェルは考える。

 確かに自分達はラテとすみれ姫のほほえましい光景に目を奪われていた。

 だから悪魔の接近に気づかなかった?

 警戒を怠らなければ気づけた?

 悪魔は速かった。

 ほぼゼロ距離のファイアランスを、アイスランスを高速で移動しながらよけた、はじいた。

 接近に気づいてもラテを守れたかどうか……。


 はっ!


 ミシェルは気づく。


 悪魔を倒したのか?

 まだ油断してはいけないのではないか?


 ミシェルは鎮火したレーナのファイアトルネードの痕に視線を向ける。

 暗闇で何も見えない。

 おそらく、見えたとしても何もない。

 逃げられたとしても、倒せたとしてもその場には骨も残っていないだろう。

 レーナのファイアトルネードとミシェルのエクスプロージョンだ。


(レーナ、悲しんでいるところ悪いんだけど、先に光を消して)

(グスッ、う、うん……)


 二人が光を消すと、暗闇が訪れた。

 空を見上げると、ラテとすみれ姫が見ていた月、そして星が変わらず輝いていた。


(ラテ……)





 そのころ、森の中を行く全身やけどを負った悪魔。


「ち、この世界最高の魔力を誇ると言われるグリュンデール王国女王を見に来たはずが、その途中でこれとはな」


 悪魔は愚痴る。

 すでに翼も焼かれ、飛ぶことすらできない。

 それに、今は、生きていることを察知されないように気配を最小限に抑えることに気を遣う。


「しかし、あれだけの魔法を連発できる魔力量の持ち主が、この辺りにいたということ。しかも、全くの気配を察知させることもなく……」


 悪魔は考える。

 魔法を発動する時には少なからず声を発する。

 それをしないのはよっぽどの上級者。

 しかも、気配を完全に消して。

 そんな魔導士が人族にいるのか……。


 実際には、気配を完全に消す人族はいた。

 悪魔は知らないが、例えばシャルロッテ、ソフィリア、そして、バニーとその配下のチームパール。

 彼女らは人族ではあるがすでに天使だ。


 それに悪魔は忘れている。

 精霊。

 エルフのように精霊を敬っている種族は精霊を感じることができる。

 しかし、姿を隠した精霊を感知することなど、他の種族にはできない。


「今は情報を持ち帰ることを優先する」


 悪魔は自分を納得させ、イングラシアへと向かった。




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