崖の崩落と強大な魔法
「あはははは。すーちゃん、励ましてくれるの? ありがとう。嬉しい。頑張るよ。お馬さんも頑張るってさ」
急ぎの荷物だからと、無理を承知で馬車を進めて来た。
自分の足で歩いているわけではないが、ちょっと心が軽くなったラテ。
冷たい雨に打たれても、打たれたとしても、ほほを緩める。
緩めてしまう。
二人の旅がこんなに楽しいものとは。
ソロでいるのには、当然理由がある。
だけど、二人でいるのもいいなと思う。
それがすーちゃんだからかもしれなけど。
見た目、ちっちゃな少女。
実際はいくつかわからない。
成長が止まってしまう何らかの理由があったのかもしれない。
それに、感情表現がへたくそすぎる。
だけど、それでも自分には、何とか感情を出そうとしてくれているように見える。
嬉しいな。
楽しいな。
馬車は進む。
雨の中を。
街道は、次第に山脈に近づいていく。
川沿いの街道のため、山を登る必要はない。
だが、崖は見えてくる。
道も曲がりくねってくる。
昔は船でしか移動が出来なかったらしい。
それに比べればずいぶんと楽になったのであろう。
雨は止む気配がない。
川は左の崖の下へと移動した。
というより、道が高くなった。
川は雨のせいか、濁流と言っていいほどに、濁り、流れも速くなっている。
その一方、右側も崖だ。
上空へと切り立っている崖。
どうせ壁なら、雨よけになってくれればいいのに。
しかし、雨は左から降ってくる。
大きな右へのカーブを曲がる。
すると、その先にそれが見えた。
落石。
一メートルを超えるような大きな岩がいくつも道を塞いでいる。
ラテは馬車を止める。
「ラテ?」
すみれ姫が幌の中から声をかけた。
なぜ止まったのかと。
「すーちゃん、ちょっと待っていてね。様子見てくる」
すみれ姫が幌の隙間から外を見ると、ラテが前方向へ走って行くところだった。
すみれ姫も、馬車から飛び降りる。
すみれ姫は雨をよける物を何も持っていない。
濡れながらラテを追いかけた。
それに気づくラテ。
「すーちゃん、濡れるじゃない」
そう言って、ラテは近づいて来たすみれ姫をポンチョの裾に入れた。
「どうしたのだ?」
「見ての通り。岩が道を塞いじゃった」
ラテは渋い顔をする。
ここまで来たのに、これ以上進めない。
かといって、この道幅では、馬車を回転させることもできない。
荷物は急ぎ。
どうしたものか。
とはいっても、戻るしかないのだが。
馬を後ろ側につなぐか……。
ラテが馬車に引き返そうと体を向けた。
「すーちゃん、馬車にもどろ……」
「あれをどければいいのか?」
「え?」
ラテが驚く。
すーちゃんは何を言っているのかと。
巨大な岩々をどかす?
すみれ姫は、右手を落石に向かって伸ばす。
そして言葉にする。
「みな、力を」
ラテには見えていないが、すみれ姫の周りを低位精霊、中位精霊が舞う。
「突風!」
ゴオオォン!
小さな風がいくつもいくつも集まって、とてつもなく強い突風となり、岩にぶつかった。
ズズズ、ゴロッ!
落石が動く。
「え?」
ラテは、驚愕の瞬間を目にする。
一メートルを超えるような岩がいくつも、それが、突風に押され、川の中に落ちていくのだ。
バッシャーン、バッシャーン、バッシャーン……
それだけ大きな岩がいくつも動き、川に落ちて行けば、当然地面も揺れる。
ゴゴゴゴゴゴ
「えっと、すーちゃん、すーちゃん、すーちゃん……?」
ラテはあまりの光景に声にならない。
何が起こったのかわかっている。
すみれ姫が風属性魔法で岩を川に落としたのだ。
そんなすごいことが目の前で起こった。
「すーちゃん、すごい! ありがとう! 岩をどかしてくれて……!?」
ラテが気づく。
上空方向からの音。
ガラ、ガラガラ!
小石が降ってくる。
「あれ?」
ラテが上空を見上げる。
ガコン!
「きゃぁ! あぶない!」
崖がえぐれた。
えぐれた崖が巨大な岩となって崩れて落ちて来たのだ。
ラテは、足元のすみれ姫を抱え上げ、馬車へと駆けだす。
だが、落ちてくる岩はあまりにも大きい。
走っても間に合わないかもしれない。
だめだ、危ない。
このままじゃ、すーちゃんが……。
ラテは覚悟を決めた。
「ごめん。すーちゃん!」
ラテが、ゴールドランク冒険者の全力を持ってすみれ姫を馬車に向かって投げ飛ばした。
当然、反動で、ラテ自身は動きが止まってしまう。
すみれ姫は、その光景を見ていた。
投げ飛ばされた自分。
ラテから離れていく自分。
そして、そのラテの上に落ちてくる大岩。
魔法、間に合わない!
ラテ、ラテ、ラテ、
「ラテーーーーー!」
すみれ姫が叫んだ。
((突風!))
落ちてくる大岩を見ながら、死を覚悟したラテが見たもの。
ありえない現象が起こった。
“崖から”突風が吹いた。
ドッゴーーーーン!
大岩も含め、落ちて来たすべての岩が吹き飛ばされた。
すみれ姫が落とした岩とは違う。
落ちたのではない。
吹き飛んだ。
ドォン! ドォン! ドォン!……
いくつもいくつも、岩が川の“向こう側へ”飛んでいって落ちた。
ラテは、その光景を動けないままに見ていた。




