雨
ラテは、目が点になる。
すーちゃんはいったい何を聞いてくるのだ。
本当は見た目通り、子供なんじゃないだろうか。
そもそも……
「すーちゃんだってするでしょう? そういうのは聞いちゃだめよ」
ラテは、ごまかすようにすみれ姫に言う。
「そうか。じゃ、もう一つ。ご飯を二人で食べた。嬉しかった?」
やはり思いがけない質問に、ラテが一瞬固まる。
もしかしたらこの子は、ずっと一人でいたのではないだろうか、と。
「すーちゃん、ありがとう。すーちゃんが一緒にご飯を食べてくれて、うれしかったわよ」
ラテがすみれ姫に笑顔を向ける。
「楽しかった?」
「楽しかったわよ。それに、今も二人でいることが楽しい。おかしい?」
「おかしい?」
「ううん。こうやって、誰かといるってことが楽しい。うれしい」
「好き?」
ラテは、そっとすみれ姫に寄り添う。
そして、小さなすみれ姫を抱き抱える。
「ええ。大好き」
すみれ姫は、ラテを抱き返してみる。
「あったかい。好き。大好き」
すみれ姫は、口に『大好き』と言う言葉を出してみる。
なぜか、自然に口元が笑う。
「すーちゃんも温かいわよ。大好き」
すみれ姫は、目を閉じた。
キラン!
しばらくして、すみれ姫を抱いていたラテが気づく。
「あら、すーちゃん寝ちゃったかしら。疲れたのかもね。全くいくつかわからないけど、でも、体が小さいし、疲れちゃうのかもね」
そうつぶやいて、ラテは、馬車の中に敷いた毛布の上にすみれ姫を寝かせた。
翌朝、ザザー、という音ですみれ姫は目を覚ます。
「ん、んん」
すみれ姫は上半身を起こして見回す。
(おはよ、すーちゃん)
レーナがすみれ姫に声をかける。
次いでミシェルも。
(おはよう、すーちゃん)
「おはよ」
「んんー、あ、すーちゃん起きたの? おはよう」
「おはよ」
目をこするラテ。
外は雨だ。
「あーあ、降っちゃった」
「雨、嫌い?」
「好きじゃないわ。それに、この荷物、急ぎなのよね」
ラテは、寝ている場所のその脇に積み重なっている箱を見上げる。
「すーちゃん、ご飯、パンと干し肉でいい?」
「なくても問題ない」
「そんなわけにはいかないでしょ。力が出ないわよ」
ゴソゴソゴソ、と、ラテは荷物をあさり、パンと干し肉を一つずつ出してくる。
そして、それぞれナイフで半分に切って、すみれ姫に渡す。
「はい、どうぞ」
「これ、ラテの……」
「あら、心配してくれるの? ありがとう。嬉しい。でも、いいのよ。昨日言ったでしょ。一緒に食べる。それが楽しい、嬉しい、好き、って」
「う、うん」
すみれ姫は、決しておいしいわけではないパンを、干し肉を、楽しく、うれしく思いながら、いただいた。
「はい、水」
ラテは水筒もすみれ姫に渡す。
「昨日のうちに汲んでおけばよかった。川の水、濁っちゃったものね、きっと」
「水、飲んでよかったのか?」
「もちろん、いいわよ。どこかできっと汲めるから」
すみれ姫が空を見つめる。
そこにはレーナとミシェルがいる。
(はいはい、わかってるわよ)
そして、水がなくなりかけ、しぼんでいた革の水筒が、ふっと、膨らんだ。
「え?」
急に膨らみ、重さを増した水筒。
それを目にしてラテが驚く。
「もしかして、すーちゃん、水を入れてくれたの? 魔法? 水属性魔法まで?」
(うん、って言って)
「うん」
「ありがとう!」
そう言って、水筒ごとすみれ姫を抱きしめるラテ。
「嬉しい?」
「うん。嬉しい! ありがとう」
「へへ」
(あ、すーちゃんが声を出して笑った)
(ほんとだ。びっくり。初めてじゃない!?)
キラン!
「???」
レーナとミシェルがそう言った瞬間、すみれ姫自身は、疑問に思った。
なぜ、声が出たのかと。
(いいんだよ、すーちゃん。嬉しいときは、声が出ちゃうものだよ)
(そうよ。普通よ)
すみれ姫が固まっていると、ラテが声をかけてきた。
「ちょっと早いけど、出ようか。すーちゃん、一緒に行くでしょ、雨だし」
「う、うん」
「それじゃ、このまま幌の中に入っていてね」
そう言って、ラテは、フードのついたポンチョを着て、外に出て行った。
「それじゃ、馬車を出すね」
そうすみれ姫に声をかけ、馬車を出すラテ。
まだ、夜が明けたばかり。
誰も移動を開始していない。
馬車の無い冒険者たちは、雨が降った時点で木の下にでも入りに行ったのだろうか、そこにはいなかった。
馬車は進む。
雨の中を。
幌の前側の隙間から、すみれ姫は顔を出す。
そこには、手綱を持ったラテがいる。
「すーちゃん、顔を出すと濡れるよ。入っていなよ」
「ラテも濡れてる」
「私はこれ着ているから大丈夫。すーちゃん、持ってないでしょ」
「うん」
「心配してくれたの? ありがとう。うれしい。だけど、大丈夫だからね」
「うん」
そうか。
私は心配しているのか。
すみれ姫は幌の中に戻って行った。
すみれ姫は考えようとする。
だが、何を考えていいかもわからない。
私は何がしたいのか。
それに気づくレーナとミシェル。
(すーちゃん、歌おう)
(そうよ。歌おう)
(すーちゃん、メインボーカルお願い)
(私達、合わせるから。ほら、パパンがパンって)
すみれ姫は手を打つ。
パパン、パン。パパン、パン。
何が起こったかと、ラテが後ろを気にする。
しかし、馬車を止めてみるわけにもいかない。
それに、まあ、ほおっておいてもいいだろう。
すーちゃんが何かをしているだけだ、と。
「はるーのーあめーはー、つめたいー」((うーはい!))
「だけーどーおうまはー、すすーむよー」((うーはい!)
「にーもつーをつんでーー、((まえへーまえへー))」
「ぼーくらーのゆめもーつんでーー、((まえへーまえへー))」
「まーけるなー、まーけるーーーなーーー」
「((きいっとーまあってるー、あーーおーーいーーーぃぃ、そぉらぁあーーーーーぁぁぁ))」




