干物のスープ
((……))
レーナとミシェルは初耳の病気に首をかしげる。
首はないが。
「長寿のエルフかとも思いきや、耳も普通だって言うし」
レーナが気づいた。
ロッテロッテのことかと。
(ロッテロッテ、精霊だった?)
(いえ、人だったわ)
(あの人たち、歳をとらないの? 歳をとらない病なの?)
(じゃあ、ずっとアイドルなのね)
(ってことは、私達がアイドルになったら、まさに永遠のライバルね)
(そ、そうね。レーナ、いつまで働くのよ)
(アイドルでいられるうちはアイドルでいるわよ)
(精霊……)
精霊はおそらく死なない。
寿命がない。
ということは……精霊も歳をとらない。
レイ、ドライアやディーネも永遠のアイドルなのだ。
つまり、アイドルでいられるうち、というのは永遠ということだ。
「歳をとらない病の人、初めて見たけど、誤解されちゃうから気を付けてね」
ラテがすみれ姫にそう忠告した。
「心配?」
「もしかしたら私より年上かもしれないけど、その姿から、心配よ」
「心配、うれしい。ありがとう」
「どういたしまして」
とはいえ、ラナは思う。
私よりランクが上の冒険者なのよね。
と。
「ところで、ラテはどうして?」
「ん? 荷物を運ぶ依頼を受けたの」
「お金をもらう?」
「そうよ。お金がないと暮らしていけないからね」
「荷物?」
「干物よ。魚の。商会の人がね、仕入れを間違っちゃったらしくて。足りない分を注文してきたみたいだから、急いで運んでいるの」
「干物……」
「ローゼンシュタインの特産品の一つよ。魚やイカを干したもの。保存食として最適なの」
「保存食?」
「ええ、今年は十五年バッタの発生年らしくてね。シューンシュタットに食材を集めているらしいの。だから、旅をするのはいいけど、秋口にシューンシュタットあたりにはいない方がいいかもね」
日が暮れ始め、暗くなってくると、ラテはカンテラに火をともし、馬車を進める。
「もうちょっと先に野営場があるから。今日はそこまでね」
暗くなり、カンテラが道を照らす。
馬は気にするそぶりもなく、かぽかぽ歩いて行く。
しばらくすると、川沿いの河川敷に広いスペースが広がり、いくつかたき火がともされているのが見えてきた。
馬車も何台も見える。
馬車が無くても火を囲んでいる冒険者パーティらしき集まりも見えてくる。
みんな、食事をしたり、歓談をしたりだ。
「私達も空いているところに馬車を止めて、火を起こそうか」
ラテは、開いているスペースに馬車を止め、そして、
「ちょっと待っててね、馬に水を飲ませてくるから」
そう言って、馬を川へと連れて行った。
(なんか、一緒にいるっていう雰囲気になっちゃったね)
(そうだね。ラテさん、悪い人じゃなさそうだけど)
「どうする?」
(もし、ラテさんがよかったら、山脈を越えた湖まで一緒に行こうか)
「湖まで?」
(山脈と山脈のあいだにある湖。その奥に森があるって)
(そっちへ行ってみるの?)
(すーちゃんの他の高位精霊がいるかもしれないよ?)
(でも、すーちゃんがいれば、私達困らなくない?)
(そっか。じゃあ、ラテさんと一緒に山脈を越えて街まで行く? 確かに森より街の方がいろいろありそう)
(何をか何がかわからないけど、街の方が刺激が多そうじゃない?)
(ミシェルー、刺激って、何求めてんのよー)
レーナが笑う。
(いや、えっと、そういう意味じゃないから)
(あ、ラテさん帰って来た)
「お待たせ。今、火をつけるね」
ラテは馬車からおろした薪を重ねて置いていく。
そして火をつけようとする。
火打石で。
薪の下に置いた細い繊維状にした木くずにまず、火をつけようとして、カチカチと。
(すーちゃん、ちょっと離れてって言って)
「ちょっと離れて」
「ん? もうちょっと待って、火がつきそうだから」
「でも、離れて」
「んー」
ラテは、すみれ姫に言われるがままに一歩下がる。
その瞬間、
(うりゃ)
と、レーナが薪に火魔法で火をつけた。
「おー、おー?」
ラテが目を点にする。
「すーちゃん、火魔法使えるんだね……でも、詠唱しなかったね。杖も使わなきゃ手もかざさなかった。えっと、もしかしてすーちゃん、すごい魔法使い?」
「火魔法? 使えないぞ」
「???」
(気にしないでって言っておいて。もしくはすーちゃんがつけたことにしてよ)
「きにしないで。私がつけたことでいい」
((……))
すーちゃん、相変わらず、と、レーナは思う。
「まあいいわ。スキルは詮索禁止だものね」
ラテは鍋をかけ、そこへ野菜と魚の干物を投入する。
「はい、どうぞ」
ラテがすみれ姫にお椀を渡してくる。
「干物って、そのまま焼いてもいいけど、煮ると出汁が出ておいしいのよ」
「うん。ありがとう」
すみれ姫は受け取ったスープをいただく。
「おいしい」
「でしょ!」
ラテは嬉しそうに笑い、自分もスープを食べた。
おいしくスープをいただいた後、レーナがすみれ姫に声をかける。
すみれ姫の扱いがだいぶわかってきた。
(すーちゃん、おいしかった?)
「おいしかった」
「お粗末様」
ラテは微笑み、すみれ姫からお椀を受け取った。
食事の後始末をして、火を囲んで二人で座る。
「ねえ」
「なあ」
二人がかぶる。
「すーちゃん、なあに、いいわよ」
すみれ姫はラテに尋ねる。
「ご飯、おいしく食べた」
「そうね。ありがとう。何度もお礼言わなくていいわよ。私も二人で食べた方が楽しいし」
すみれ姫は、聞くことが一つ増えた。
が、最初の疑問を聞く。
「ラテもう〇こするのか?」
((ぶふっ!))
「え?」
シューンシュタットは、グリュンデール王国になる前のマイリスブルグ王国の王都です。グレイスがリノに街を任せた時に『シューンシュタット』と名付けました。グリュンデールの北にある街になります。




