チェルシーとミルキー
「さて、旅に出るか」
すみれ姫がギルドの玄関に体を向け、歩き出した。
だが、ミシェルがそれを止める。
(ちょっと、すーちゃん、待ってくれる)
「ん?」
ミシェルの声にすみれ姫が振り返った。
(冒険者カード、もらっていないわ)
(あー、セリーヌさん、出てっちゃったもんね)
「どうしたらいい?」
(待ってる?)
(それしかないよね)
すみれ姫が独り言のような会話をし、立ち止まっていると、声をかけてくる女性がいた。
チェルシーだ。
「あの、神様」
「ん? すみれ姫だ」
「あ、申し訳ありません」
神様は神様って呼ばれるのが苦手なのかな?
チェルシーはそう思う。
「すみれ姫様、あの、あの時は、私の命を救ってくださり、ありがとうございました」
「ん?」
「え、えっと、森で、ホーンベアーが……」
「思い出した。森で私を押し倒した……」
ビシッ!
神様とチェルシーとの会話に耳を傾けていた冒険者が固まる。
森で押し倒した?
子供を?
「ち、違います、あの、違わないけど、違います」
チェルシーが顔を真っ赤にして肯定も否定もする。
だが、こうしていても話が進まないと、チェルシーは話を進める。
「私は、冒険者パーティ、甘味の虜のリーダー、チェルシーです」
(なんか、すごい名前よね)
(チョコミント好きかなー)
すみれ姫がレーナの疑問を拾う。
「チョコミント好きか?」
「??? チョコミント?」
突然のすみれ姫からの問いに、チェルシーが疑問の顔を浮かべる。
この世界にチョコミントなんてものはない。
「チョコミントってなんだ?」
すみれ姫が単純な疑問を口にした。
自分が口にした言葉なのに。
「……」
((……))
(すーちゃん、チョコミントのことはちょっと置いておいて)
「チョコミントのことはちょっと置いておいて」
すみれ姫はレーナの言う通り、声をかけて来た目的をチェルシーに尋ねる。
「チェルシーとやら、何の用だ?」
「助けていただいたお礼を言いたかったのです。セリーヌを待つのであれば、こちらのテーブルに一緒に座りませんか?」
チェルシーは、パーティメンバーが陣取っているテーブルを指さす。
すみれ姫は首をかしげる。
(すーちゃん、どうせセリーヌさんを待つから、椅子に座ろう)
(そうね、座って待ちましょう)
レーナとミシェルがすみれ姫にそう提案する。
「わかった。座ろう」
すみれ姫はチェルシーに勧められて椅子に座る。
そこへ、ミルキー、チェルシーのパーティのもう一人の女性冒険者が果実水を持ってきた。
「これは?」
すみれ姫が聞く。
「果実水です。お飲みになられませんか」
「うん。もらう」
すみれ姫は果実水に手を付ける。
「うまいな」
「よかったです。神さ、すみれ姫様のお口に合って。私はミルキー、チェルシーの妹です」
(チェルシーにミルキー、食べたらおいしそうな名前ね)
「チェルシーもミルキーも食べたらうまいのか? うまいものなのか? 食べられるのか?」
すみれ姫がチェルシーとミルキーの頭から足までを眺め、そして二人が顔を赤くする。
すみれ姫のその発言と視線の動きに、レーナが焦ってすみれ姫にお願いをする。
(ごめん、すーちゃん。何でもないって言って)
「何でもない」
「あの、神様には生贄、いや、貢物が、必要なのです?」
チェルシーが恐る恐る聞く。
「うまいなら食ってみたい」
ぼふん!
顔を赤くしたミルキーがすみれ姫に聞く。
「か、すみれ姫様、すみれ姫様はおいくつなのです?」
「私か? 知らない」
「と、ところで」
チェルシーが話を変えていく。
話がかみ合わない。
つながらない、進まない。
「すみれ姫様は、冒険者カードをってことは、冒険者になるのですよね」
「うん。街に入るのに必要だと言われた」
「ということは、旅に出られるのですか?」
「うん」
「その理由をお聞かせいただいても?」
「理由?……」
すみれ姫が考え込んでしまう。
歌が好き。
教えてもらって好きになった。
だが、もっともっと好きになれそうな予感。
それにはレーナとミシェルの体が必要。
それで、えっと、なんだっけ。
「体が必要なのだ」
「「……」」
チェルシーとミルキーがもしかしてと、それぞれ自分の体を抱きしめる。
「そ、それは、女性の体ですか?」
「うん。二つ」
チェルシーとミルキーはさらに自分自身を強く抱く。
(すーちゃん、間違ってないけど、ちょっと誤解しているみたいだから。でも、私達のことは言っちゃだめだよ)
「で、どうするのだ?」
すみれ姫のその言葉に、チェルシーとミルキーは顔を青くする。
もしかして、体を要求されているのではないかと。
(二人に二人の体じゃないって言って)
「お前達の体ではない」
あからさまにほっとするチェルシーとミルキー。
「ど、どちらへ向かわれるのです?」
「北へ行くつもりだ。あっているか?」
「「……」」
(あってるよ)
「あ、あの、すみれ姫様の実力なら必要ないかも知れませんが、護衛とかは……」
チェルシーは、自分達が狙われているわけではないと理解し、お礼がてら護衛でもと、提案する。
すみれ姫はどう見ても子供なのだ。
(ミシェル、護衛だって)
(でも、私達、すーちゃんも含めて精霊だし、時には消えたりするし、ばれるのもめんどくさいわよね。いらないんじゃないかしら?)
「護衛? いらない」
「ですよね。私達では、足手まといになりそうですものね」
(そんなことはないって言って。でもいらないけど)
「そんなことはない。だが、いらない」
体を要求されそうになったからといって、それでもチェルシーは残念がる。
相手は神様なのだ。
神様には仕えてみたいと、ちょっとだけ思う。
「心配してくれたのか?」
すみれ姫は少しだけ影を落としたチェルシーに聞く。
「は、はい。神様にはご迷惑でしたね」
「心配してくれた。うれしい。ありがとう」
すみれ姫はチェルシーに対して素直にお礼を言った。




