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素敵な神様

 その反応を見てギムロとロベルトは穴から覗き込んでいるデーブをにらみ、声を上げる。


「あいつが、そう言ったのだな」

「デーブ、あいつ、絶対に許さん!」

「団長、ギルマス、趣味をばらされて怒るのはわかるのですが、その前に罪を償ってください!」


 衛士が捕らわれていた獣人の子供を見ながらさらに叫ぶ。


「男の子もいるじゃないですか!」

「うるさい!」


 ゴンゴン!


 ロベルトが切れた。

 衛士達の頭に拳骨を落とす。


「あいつ、絶対に許さん」

「同意する。この商会、潰す」


 ロベルトとギムロが決意する。


「あははははは。ギルマスだろうが、衛士団長だろうが、そこから出てから言ってもらおうか」


 デーブがあざ笑う。


「きさま、降りてこい!」

「降りるわけないだろう。おい、お前達、この穴、塞ぐぞ」


 デーブはこの穴がどうやってあけられたのか、わかっていない。


「なあ、旅に出ていいか?」


 すみれ姫がデーブに声をかけた。


「何を言ってやがる。貴様が一番の商品じゃないか。そこでおとなしくしていろ」

「それは、旅に出るなと言っているのか?」

「買い手がついたら、そこまでの旅は責任を持って連れて行ってやろう」

「ならいいのか」

「「いいのかよ!」」


 ギムロとロベルトが疑問を呈する。


((よくないわよ))


 レーナとミシェルが声を上げる。

 すみれ姫以外には聞こえていないが。


「では、どうする?」

(こんな小さな子達を売るつもりだったんでしょ。しかも、ご飯で脅して)


 レーナが憤る。


(レーナ、今? もうずいぶん前からわかってたことだけど)

(……ギルマスと衛士団長の変な趣味が気になって……)

「ギルマス、衛士団長、お前達の趣味は何だったのだ?」


 すみれ姫はギムロとロベルトに気になったことを聞いただけだ。


「いや、違うから!」

「絶対に誤解だ!」


 二人は、すみれ姫の質問に、必死で答える。


「ふわー」


 そのすみれ姫達のやり取りに、デーブがあくびをして言った。


「そろそろいいかな。お前達、しばらくそこにいろ」

「くそ、てめえ、デーブ、降りてこい!」

「あいつを降ろせばいいのか?」


 穴を覗いているデーブと従業員たち。

 その後ろから


 ぶわっ!


 と、風が吹いた。


「「「「「えっ?」」」」」


 ドスンドスンドスン……


 デーブと従業員たちが地下に落ちて来た。

 ギムロとロベルトは落ちて腰をさすっているデーブの前に立つ。


「ようやく手の届くところに来たな」


 ギムロは手をぽきぽきと鳴らす。


「きさま、一刀両断にしてやりたいところだが、それでは気が済まん。私もこぶしで語ってやろう」


 ロベルトまで手をぽきぽきと鳴らす。


「ま、待て。話せばわかる」


 デーブが腰を落としたまま後ずさる。


「「わかるかー!」」


 結論として、デーブも商会従業員もギムロとロベルトによりぼこぼこにされる。

 そして、ギムロもロベルトも、誤解を解く、という名の口止めを衛士達に行った。





「さて、出るか」


 ひと段落ついたな、と、すみれ姫が提案する。

 しかし、


「どうやって?」


 と、ギムロとロベルトが首をかしげた。


「子供達も出してやらないとな」

「だからどうやって?」

(すーちゃん、出してあげるって言って)

「うむ。私が出してやるぞ」

「「……」」


 ギムロとロベルトは嫌な予感がして怪訝な顔をする。


「人間扱いしてくれるんだよな」


 ブオン!


 ギムロが返事をもらう前に吹き飛ばされ、穴から飛び出して行く。


「……まさか、俺も?」


 ブオン!


 ロベルトも飛んでいく。

 そして、衛士達も。


(すーちゃん、子供達は丁寧に運んであげて)

「わかった。子供達、来い」


 獣人の子供達は皆で固まって震えている。


 ぴくっ!


(すーちゃん、怒っちゃダメ。子供達、飛ぶのが怖いんだよ)


 すみれ姫は、震えている子供達の一人の腕を手に取った。


「キャァ、助けて、こわいこわい」


 獣人の女の子が叫ぶ。


 すみれ姫は、


「うるさい!」


 と言って、女の子を無理やり引っ張りだし、そして、抱きしめる。

 すみれ姫も女の子も同じような大きさだ。

 そして、すみれ姫は、


 すぅっ!


 と、女の子を抱きしめたまま浮き、ゆっくり穴から出て行って、女の子を床に降ろした。

 そして、すみれ姫はまた地下に戻ってくる。


「次は?」


 最初の子がそっと連れていかれたのを見て、獣人の子供達は、小さい子から順番にすみれ姫に歩み寄り、外に出してもらった。

 




 子供達は、自分達を囲むギムロとロベルト、衛士達に尋ねる。


「私達はどうなるのですか?」

「領主様に正直に話して、国に返してもらう。それでいいか」

「帰れるの?」

「お家に帰れるの?」

「パパとママに会えるの?」


 と、子供達は、涙を流す。

 その子達の頭を撫でてやるギムロ達。


「ありがとう、ありがとうおじちゃん達」

「「おじちゃん……」」


 ギムロとロベルトは、子供から見たらおじちゃんなのだ。


 ロベルトはあきらめて子供達に教える。


「君達を助けてくれたのは、あの女の子、神様だ」

「「「「「神様?」」」」」

「そうだ。あの神様がここに来なければ、君達に会わなければ、君達は助かっていない。私達も、神様に呼ばれてここに来たんだ」


 ロベルトの言葉に続けてギムロも言う。


「だから、感謝するなら神様にしな」

「はい!」

「「「「「神様! ありがとうございました!」」」」」


 子供達は跪いて手を合わせて祈る。

 すみれ姫に向かって。

 すみれ姫は固まる。


「何をしているのだ?」

(感謝しているのよ、すーちゃんに)


 レーナがすみれ姫の疑問に答える。


「感謝?」

(そうよ、助けてもらって嬉しい。だからありがとうって)

「うれしい? うれしかったのか? 助けてもらってうれしかったのか? 歌を歌うのと同じように、うれしいのか?」

(うん、助けてもらってうれしかったの。故郷に帰ってパパやママに会えるって希望が湧いてうれしかったの。だからすーちゃんに感謝してるんだよ)

「むぅ」

(すーちゃんも素直に喜んでいいんだよ)

「喜ぶ? うれしい? 助けて?」

(そうよ。すーちゃんは喜ばれることをしたんだから)

「そうか。うれしかったのか。だから私もうれしいのか」


 すみれ姫は、ふっと、微笑んだ。

 レーナとミシェルがそっと輝く。





(それじゃすーちゃん、行こうか)

「ん。わかった」

(すーちゃん、ギルマスに旅に出るって言って)

「ギルマス、旅に出る」

「おう。今回は、助かった。それに悪いな、ちょっと、後処理が大変そうでかまってやれん。ギルドに寄って行ってくれ。冒険者カードを用意してある」

「わかった。ありがとう」


 すみれ姫は、奴隷商会を後にした。

 レーナとミシェルも姿を消したまま、ぽよぽよとついて行った。





「たのもう」


 すみれ姫はギルドに入る。


「か、神様!」


 セリーヌが受付から飛び出す。


「無事だったのですか? 大丈夫ですか? お怪我は?」


 矢継ぎ早に質問をしてくるセリーヌに、すみれ姫は自分の体をくるくると見回して答えた。


「うむ。私は何もないぞ。ただ」


 セリーヌが怪訝な顔をする。


「ただ? ま、まさか、ギルマスが?」


 セリーヌが開いた口に手を当てて驚愕の表情を浮かべる。

 ギルマスに何かあったのではないか、と。


「ギルマスは、幼女が好きらしいぞ。のこって幼女ともふもふするって言ってた」


 ビシッ!


 ギルド中の空気が固まった。


「私は歌を歌うのが好きだ」


 バビュン!


 セリーヌがすみれ姫との話を無視するかのように、ギルドを飛び出した。


「ん、どうしたのだ?」


 すみれ姫が疑問を声に出す。


(もしかして、セリーヌさん、ギルマスのことが好きなのかも)

(それで心配して飛び出したんじゃない!? いいね。青春だ)

「そうか、セリーヌは、ギルマスが好きなんだ」


 すみれ姫は声に出して言ってしまう。


 ビシッ!


 再びギルド内の空気が固まる。

 だが、すみれ姫は、そんなことは無視して、いや、空気を読むことなく言う。

 笑顔で。


「好きなものがあるって良いな」


 キラン!





 後日、獣王共和国に子供達が届けられる。


「よかった、よかった……」


 泣きながら子供達を抱きしめる親達。

 だが、子供達は笑って言う。


「お母さん、私、神様に助けてもらったんだ。神様に会ったよ。神様に会えたんだよ。神様、素敵だった!」




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