奴隷商の地下で
「なんてことだ。こんなこと、領主が知ったらどうなることか」
子供は十二歳までは就学だと、初代国王が決めた。
その王族であるローゼンシュタインの領内で子供を奴隷にしているなど、領主が知ったらどうなるであろうか。
そう、ロベルトは心配する。
一方のギムロは、そう言えばと、ここに来た理由を思い出し、子供に尋ねる。
「そう言えば、ここに変わった服を着た女の子が来なかったか?」
「昨日? 昨日なら奥の檻だと思うけど」
「ありがとよ」
ギムロは奥へと歩いて行く。
だが、向かった檻から逆に声をかけられる。
すみれ姫だ。
「おい、ギルマス」
「お、おおう。えっと、すみれ姫様?」
「手に持っているのは私の下駄か? それをこっちにくれ」
「さすがは神様。下駄を持ってきたのに、その態度」
ギムロがそう独り言のようにつぶやくと、すみれ姫が答える。
「下駄を持ってきたのはお前ではなく、ミシェ……もごもごもご」
ミシェルが体を消したまま、すみれ姫の口に自分の体を押し付けて黙らせた。
(自分で持ってきたって言って。風魔法でちょちょいとって)
「それは私が自分で持ってきたのだ。風魔法でちょちょいだ」
「さすが神様。で、あの手紙も同じように遠隔で?」
(そうだって言って)
「そうだ。だが、私は字が書けない……もごもごもご」
「字が書けないのに手紙を書いたのか?」
ギムロは呆れて、もう敬語がうやむやになる。
(書いたって)
「いや書いたぞ。というか、下駄を」
「はいはい」
ギムロはすみれ姫の要求に、鉄格子の間から道中下駄を中に入れた。
「こっちに持ってきてくれ」
すみれ姫はベッドの上で足をぶらぶらさせながらミシェルに言う。
「中に入れないのだが?」
すみれ姫の要求ににはギムロが答えた。
自分が持ってこいと言われたと思ったのだ。
(すーちゃんも風属性魔法使えるでしょ?)
「できるぞ、そんなものは気合いだ」
すみれ姫はミシェルとギムロに同時に答える。
「気合で入れるわけないだろう」
あっけにとられるギムロを無視して、すみれ姫は下駄を風で浮かせて足元まで持ってきた。
そして、すみれ姫は下駄を履いて、立ち上がった。
「で、どうする」
(うーんどうしようか)
そこへロベルトがやって来た。
「完全に閉じ込められたらしい」
「では出るか」
すみれ姫のその一言に、ギムロもロベルトも目を点にする。
「閉じ込められたと言ったはずだが?」
「そもそもすみれ姫、おまえ、鉄格子の中だが?」
ロベルトもギムロもすでに神様に対して敬語はない。
敬う気も失せた。
もう会話につかれたのだ。
(すーちゃん、暗いからちょっと明かりをつけていいか聞いて?)
「おい、お前達、明かりをつけていいか?」
「火魔法が使えるのか? では頼む」
ギムロがそう言うと、すみれ姫も頼む。
「では頼む」
「いや、お前が言っただろう。お前がやるんじゃないのか?」
ギムロが突っ込む。
だがその次の瞬間、
ぽわんぽわん
と、金と銀の光が灯り、ふわふわと浮いて地下室を照らした。
「「おおー」」
ギムロとロベルトが感心する。
火魔法じゃなかった。
いったいなんだこれ。
「すみれ姫、これなんだ?」
「れー……もごもごもご」
金の光がすみれ姫の顔に飛び込んだ。
「「……」」
ギムロとロベルトの目が点になる。
「な、なにを……」
すみれ姫がレーナに苦情を言いかけるが、レーナが先にすみれ姫に言う。
(操作、誤ったって言って)
「おい、おまえ、ソウサというのか。ごめん」
すみれ姫は、ロベルトをソウサという名の男として謝った。
そんな男はここにはいない。
(違……なんでもない)
レーナがあきらめた。
「いや、ロベルトだ。で、なんで謝った?」
ソウサとして謝られたロベルトはわけがわからない。
「で、どうする?」
すみれ姫はマイペース。
「いや、聞けよ……まあいいけど」
(うーん、どうしようか)
(この鉄格子、切れると思う?)
「風の刃でか。切っていいか?」
「ちょっとまて、誰を切るって?」
ギムロが焦る。
「どいてろ」
ギムロとロベルトが左右に下がり、正面からよけたのを見計らい、すみれ姫は風の刃を展開する。
スパパパパン
鉄格子が何本も切れていく。
そして、
ゴトン、バタン
幅一メートル分の鉄格子が落ちて倒れた。
「「……」」
ギムロは目を見開く。
これが神様の風属性魔法か、と。
風で金属が切れるのかと。
もちろん、古くなっていたことと、何の抵抗もしない鉄格子だからだが。
(他の檻も切って欲しいんだけど)
「なぜだ?」
「何か疑問な点でも?」
すみれ姫が何を疑問に思っているのかと、ギムロが聞くが、すみれ姫は無視だ。
(他の子供達も出してあげたいから)
「わかった」
「疑問が解決したんだな、自分で……」
ギルマスはすみれ姫のマイペース加減にほとほとあきれる。
すみれ姫は切った鉄格子の間から通路に出ると、ギムロとロベルトに声をかける。
「お前達、邪魔だから檻に入っていろ」
「……」
「なんでだよ」
「鉄格子を全部切る」
「全部……」
ギムロとロベルトはあきらめてすみれ姫が入っていた檻に入る。
「子供達、下がっていろ」
そうすみれ姫が言うと、
スパパパパン……、ガタンガタンガタン……、ゴトンゴトンゴトン……
鉄格子が人が通れるほどに切れ倒れていく。
「これが神様の力か……」
ロベルトが息をのむ。
「お前、子供達を全員出せ」
すみれ姫の命令に、お前が子供だろうに、とロベルトは思っても言わない。
「ギムロ、子供達を出すぞ」
「わかってる」
二人は、各檻に入って行き、子供達を連れ出した。




