空飛ぶ道中下駄
「おい、開けろ!」
ドンドンドン
衛兵隊長のロベルトとギルドマスターのギムロが奴隷商会のドアをたたく。
ドンドンドン
「開けろって」
すると、奴隷商会の玄関が開かれた。
「えっと、なんです?」
奴隷商会の従業員が顔だけ出してロベルトとギムロに尋ねる。
「俺はギルマスのギムロだ。店主に聞きたいことがある」
「衛兵隊長のロベルトだ。同じく、店主に聞きたいことがある」
二人がむりやり玄関扉を開けて従業員につめ寄る。
当然、従業員はその二人に詰め寄られればおびえざるを得ない。
「ひいー、で、ですが、まだ、開店前でしてー」
「俺達は客じゃない。店主を出せ」
そう、ギムロ達と従業員のやり取りが続く中、その脇をミシェルが通って行く。
(お、ちゃんと助けに来てくれたのね、ギルマス。こっちの人は誰かしら。まあいいけど)
ミシェルは開いている玄関から外へ出て行く。
(後はよろしくねー)
しばらくギルマス達と従業員が騒いでいると、店主、会長のデーブが出てきた。
「一体何事だ」
「あ、会長、なんだかこの二人が早く店を開けろってうるさくって」
デーブが玄関に出てくる。
「いらっしゃいませ、お客様。ですが、まだ開店時間前です」
「いや、客じゃない。聞きたいことがある。中に入れてもらえるか?」
ギムロが前に出て会長デーブに詰め寄る。
だが、デーブがギムロに断りを入れる。
「あの、女性の奴隷をご所望かと思うのですが、まだ、化粧も終わっていませんし」
「だから、客じゃない」
そこへロベルトがギムロの肩を引いて言う。
「ギムロ、もてない君が前に出るから奴隷商が勘違いするんだ」
「な、なにを? 独身で悪かったな。出合いなんてなー……」
「あの、こんなところで喧嘩されると迷惑なんです。外でやってもらえます?」
デーブが耳をほじりながら二人に言う。
「喧嘩じゃねぇ」
「まあまあ、僕が話すよ。で、会長、デーブと言ったか。ちょっと地下室を見せてもらいたいんだが」
「地下室? うちには地下室なんてありませんが」
「うそを言うんじゃない。お前、ある子供を攫って、金を要求しただろう」
「??????」
さらったことはさらったが、まだ金の要求はしていない。
というより、これから売り払うのだ。
身代金の要求なんてするはずがない。
「えっと、何のことをおっしゃっておられるのか」
デーブは首をかしげる。
そこへギムロも声を上げる。
「おい、デーブ、女神を開放しないと、この店を中心にこの街が無くなるんだぞ?」
「あの、一体何をおっしゃっているので?」
デーブは本当に、そこまでの事態に陥るなんて想像もできていない。
「いいから、地下室へ案内しろ」
「だから、地下室なんてありません」
「神様を開放しろ」
「神様って何ですか」
という押し問答をしていると、その横をぽよぽよと浮かんで移動していくもの。
道中下駄。
三人の目がその下駄にくぎ付けになる。
そして、その下駄の移動を目で追っていく。
「「「……」」」
「なんだあれは?」
ロベルトの疑問。
それにギムロが答える。
「神様の靴だ」
ギムロは強行的に奴隷商会に飛び込む。
「「あ、待て!」」
ロベルトとデーブがはもる。
(あ、気づかれた! すーちゃんの靴、急がないと取られちゃうかな)
ミシェルはスピードを上げる。
そして、地下への扉がある部屋まで来て、地下への扉をすり抜ける。
ガン!
ミシェルはいい。
精霊だから扉をすり抜ける。
しかし、下駄は違う。
扉にぶつかった下駄は、部屋の中にコロコロと転がった。
(あ、しまった)
ミシェルがもう一度扉の外に戻るがもう遅い。
ギムロがその下駄を抱え上げた。
「おい、なんだこの扉は!」
下駄を抱えたギムロが叫ぶ。
「地下への階段!?」
ロベルトが想像で答える。
「よし!」
ガン!
ギムロは、ドアを蹴り破った。
が、その先は想像どおり階段。
ゴロゴロゴロ
ギムロは転がり落ちる。
「ぐへぇ」
「おーい、大丈夫かい」
ロベルトが階段をゆっくり降りていく。
そのすきにデーブは従業員たちに声をかける。
「おい、お前ら、あの二人も一緒に地下に閉じ込めるぞ。二人が入った扉を閉め、閂をかけろ」
「はい、会長。ですが、玄関先に、まだ衛兵達が」
「話し合いをするから帰って待ってろと伝えろ」
デーブ達は階段の扉も、倉庫の扉も硬く閉じる。
そのため、外に音が漏れることもないだろうと。
ガンガンガン
「おーい、開けろ」
ロベルトが扉を内側からたたく。
しかし、誰の反応もない。
ギムロは、すみれ姫の道中下駄を持って通路を歩く。
両側には鉄格子が並んでいる。
地下全体が暗いうえに、檻の奥はよく見ることができない。
が、しばらくしていると目も慣れてくる。
檻の奥にいるのは子供。
「おい、そこの子供、何でここにいる」
ギムロが声をかける。
しかし、反応はない。
いや、顔はこちらを向けているが、声を発しない。
「おい、どうした。返事できないのか?」
その言いっぷりに、子供は余計に身を縮める。
ギムロは、次の檻に、そしてその次の檻にと声をかけるが、どこの檻も無反応なのは同じである。
「うーん。どういうことだ?」
と、頭をかきながら悩んでいると、一人の子供が返事をした。
「おじちゃん、ここの人じゃないの?」
「ん? ようやく返事をしてくれたか。おじちゃんはギルドマスターだ。ギルドのマスターだから、偉いし強いんだぞ。で、どうしてなかなか返事をしてくれなかったのかな?」
「ここの会長、僕らがしゃべると怒って、ご飯抜きにするんだ。だから、しゃべらないようにしてたんだ」
「あいつ……」
ギムロの額に血管が浮く。
しかし、子供を威圧してはいけない。
あくまでも優しく声をかける。
「お前達は、どうしてここにいるんだ?」
「捕まって。森で捕まって」
ギムロが目を凝らすと、見えた。
その子供の頭の上の耳。
「獣人か?」
「……」




