ここ、どこ?
「な、なんだってー」
と、ギルマスは目を見開いて驚きの声を上げるが、それも一瞬。
「冗談も休み休み言え」
そう言って目を閉じる。
「ギルマス! 見て下さい!」
と、今度はギルマスの瞼を指で上げにかかるセリーヌ。
「いたたたたた。わかった。わかった。見るから」
ギルマスは起き上がって、セリーヌからメモを受け取り、目に通す。
ギルマスは、ガバッと立ち上がり、そのまま走り出した。
ギルドの外へ。
この街は冒険者の街と呼ばれている。
貴族が治めている領都ではない。
なぜなら、ここ一体がローゼンシュタイン家の領地の範囲にあるだからだ。
そのため、この街には正式には名前が無く、森に近く、冒険者が多いことから、そう呼ばれている。
ただし、人が集まれば治安を維持する必要もあり、衛兵くらいはローゼンシュタイン家が置いている。
奴隷商会の前。
通りを北側からギルマス、ギムロが走ってくる。
南側からは衛兵達が。その先頭に立つのは隊長のロベルト。
「止まれ」
ロベルトが声をかける。
それは、後ろをついてくる衛兵達に言ったのか、それとも前から疾走してくるギムロにか。
「おーい。ロベルト。お前、こんなところでどうした。というか、都合がいいが」
「お前はどうしたんだ。こっちは、宿泊客が攫われたと、宿屋の女将から通報があった」
ギムロは、あれ? と、疑問に思う。
「誰が攫われたんだ?」
「わからん。というか、神様らしい。なんだ? 神様」
「……神様。お前、知らんのか。冒険者の間で話題の神様を。って、その神様が攫われたのか?」
「ああ、金貨千枚を要求してきた」
「千枚?」
「ほら」
と、女将から預かったメモを見せるロベルト。
「ん?」
ギムロもギルドに届けられたメモを見せる。
「おい、同じ筆跡だな」
「そうだな」
「これ、自作自演じゃないだろうな」
ギムロは考える。
神様がそんなことをするだろうかと。
だが、金が必要っぽかったのも事実。
だが。
「こうは考えられないか? まず、このメモだが、神様が遠隔で書いた。神様だから何でもありだろう。その前提でだ。神様はさらわれた。それで、騒ぎを大きくするためにそのメモを書いた。一方で、早く助けに来ないと自分達で解決するから街が無くなるぞ、と、言っているのではないか? 奴隷商も証拠もすべて一緒に消滅させるぞと」
ロベルトは顔を青くする。
神様など、信じない。
いたとしてなんだというのだ。
だが、どこまで信じていいかもわからない。
本当に『神様』が誘拐されていたら?
「よし、話を聞こう」
ロベルトは、とりあえず、穏便に済む方法を提案する。
「おい、起きろ」
格子の向こう側から声がかけられた。
もちろん、レーナとミシェルは姿を消しているし、返事をすることもできない。
「おい、起きろ!」
より一層声を上げる男。
それでも起きる様子の無いすみれ姫。
それはそれで仕方がない。
これまでずっと森の中で寝てきたのだ。
久々に、柔らかいベッドで寝られた。
柔らかい……柔らかい?
すみれ姫はモゾっと動き出す。
左を向いて寝ていたすみれ姫は、その右手で、ベッドの感触を確かめる。
ん、柔らかくない。
あれ、宿屋のベッド、しかも最高の部屋のベッドで寝ていたのではなかったか。
そっと目を開けてみる。
壁は木の板ではなく、石が詰まれてできている。
湿度も高い。
薄暗い。
うーん。
すみれ姫は、上半身を起こして目をこする。
「ここ、どこ?」
「ようやく目を覚ましやがったか。このクソガキ」
すみれ姫は声のする方に顔を向ける。
格子があり、その向こう側に三人の男。
その先頭に立つ男は、腕を組んですみれ姫を見下ろし、偉そうにしている。
が、誰だろうか。
だが今気になっているのはそこではない。
「ここ、どこ?」
「おい、クソガキ。貴様、治癒魔法を使うんだってな」
男が強い口調で聞いてくる。
しかしすみれ姫はマイペース。
「ここ、どこ?」
「……これだからガキは」
男は格子をガンっと蹴りつける。
「ここは俺の商会の地下だ。ついでだから名乗っておいてやる。俺はデーブ。お前の主人となる男だ。覚えておけ」
「???」
すみれ姫が首をかしげる。
「くそ、もういい」
デーブは後ろの男二人に命じる。
「泣き叫ぶまで飯を出すな。放置しておけ」
「「はい、会長」」
デーブと男二人は、その場を立ち去っていった。
「うーん。旅に出るよね」
すみれ姫は、レーナとミシェルに声をかける。
(そうね、ここから出られたら出かけましょうか)
「じゃあ、出る?」
(もうちょっとだけ待ってくれる? すーちゃん。もうすぐ、助けが来るはずだから)
「助け?」
(ええ。私達なら簡単にここから出られるけど、助けてもらった方が、私達の手の内を見せなくていいかなって)
「出られるの?」
(……多分ね)
「じゃあ待っている?」
(ええ。待ってみましょう)
すみれ姫はベッドに腰掛けたまま足をぶらぶらしている。
「下駄が無い……」
すみれ姫が気づいた。
すみれ姫が履いてきた道中下駄がない。
(あー、ほんとだね)
(どうする? すーちゃんの下駄、必要よね)
(すーちゃん、下駄が無いとやだよね)
「着物、すっちゃうし」
(私、取ってくる?)
ミシェルが提案する。
(取って来れるの?)
(さっき、手紙を風魔法でふわふわ浮かせて運んだわ。それと同じ感じでできるんじゃないかしら?)
(すごいね、ミシェル)
(レーナだってできるわよ。それじゃ、行ってくるわね)
ミシェルは再び檻から出て行った。




