魂のカウンセリング
ドンドンドンドン……。
鳴っていた音楽が、突然止まった。
「「「「「え?」」」」」
突然の演奏停止に会場全体がざわめく。
「レーナ!」
「アリス!」
「さよピー!」
会場中からメンバーを呼ぶ声が上がる。
あちらこちらから。
それが会場全体をふるわせるかのように。
そうしていると、暗かったステージに照明が灯る。
いや、ステージだけではない。会場全体を照明が照らした。
誰しもこの異常事態に気づく。
これでは公演が終わった後みたいではないか。
しかし、何の動きもない。
「レーナ!」
「アリス!」
「さよピー!」
演奏がやんだ、音の無い会場で、三人を呼ぶ声が大きく響く。
いくつもいくつも。
何度も何度も。
会場全体で。
そんな状態がしばらく続いた時、ふいにアナウンスが流れた。
「ご来場の皆様にお知らせします。皆様、大変申し訳ありませんが、本日のフェアリー・キスの公演は、レーナの体調不良のため、中止とさせていただきます。繰り返します。大変申し訳ありませんが、本日のフェアリー・キスの公演は、レーナの体調不良のため、中止とさせていただきます。振替公演や本公演の払い戻しにつきましては、後日登録されたメールアドレスへ連絡をさせていただきます。大変申し訳ございません。本日は、レーナの体調不良により、フェアリー・キスの公演を中止とさせていただきます……」
「えー」
「何でだよ」
「レーナ!」
「レーナちゃん!」
「レーナ! レーナ!……」
「「「「「レーナ! レーナ! レーナ! レーナ! …………」」」」」
会場の騒ぎは収まる様子を見せない。
誰も会場を去ろうとはしない。
「「「「「レーナ! レーナ! レーナ! レーナ! …………」」」」」
「あずにゃん、帰ろう」
焦る陽。
陽は冷や汗をかきながら大量購入したグッズをまとめる。
「え、帰っていいんです?」
そんな陽に視線を送りつつ、座ったままのあずさが尋ねる。
公演はもういいのかと。
陽はあずさに確認する。
「亡くなったのはレーナ?」
「んー」
口元に人差し指をあてて考えるふりをするあずさ。
あずさは死神と念話をつなぎ、確認する。
「田井中玲奈という女性と、九条美鈴という女性の二人のようです」
陽はあきらめ、というより、レーナの魂が天使に渡って記憶をクリーニングされる前に確保すべく、あずさに指示を出した。
「あずにゃん、魂を確保!」
「……承知しました」
魂のカウンセリングルーム。
本来なら、亡くなった人の魂に対し、天使がカウンセリングを行う部屋である。
そこに、陽とあずさがスタンバイをする。
「二人を連れてきました」
死神が二つの丸く光る魂を部屋へ連れて入って来た。
「ご苦労だった。下がっていい」
そのあずさからの指示に、死神は、陽とあずさに二人の魂を託し、下がって行った。
陽は二人の魂に話しかける。
「えっと、お名前は?」
「九条美鈴です。こっちは田井中玲奈」
美鈴の魂が前に出て話をするようだ。
レーナの魂は小刻みに震えるだけで、それ以上の動きは見えない。
仕方なしに陽は美鈴に話しかける。
「美鈴さん」
「はい」
「ここがどこかは、貴方達がどうなったかは理解していますか?」
普段、天使が魂に語り掛けるところから始める陽。
「もしかして、私達、死にましたか? 体から離れましたが。ということは、ここは天国ですか?」
「亡くなったことを理解してくださるのはありがたいです。はい、そのとおりです。二人は亡くなられました」
レーナの魂がピクリと小さく跳ねる。
「どうして……」
美鈴が声を震わせる。
魂の状態であり、体が無いので、泣いているかどうかはわからない。
「お二人は、階段から落ち、そのまま……」
あずさが答える。
もちろん、二人とも落ちたことは自覚している。
美鈴はあずさに詰め寄る。
といっても、光る魂があずさに近づいているだけだが。
「それで、生き返ることはできないんですか? レーナは天才的なアイドルなんです。これからなんです。絶対にナンバーワンアイドルになります。だから、生き返らせてくれることはできないんですか?」
美鈴が叫ぶ。
自分ではなく、レーナを生き返らせてくれと。
レーナはアイドルとしてここまで頑張ってきて、もう少しでトップに立つのだ。
これまでのレーナの努力を知っている美鈴は、そう信じている。
「すまない。それはできない……」
という陽の言葉にかぶせるように、レーナが口を開く。
美鈴が必死になってくれているのは自分のためなのだ。
また、自分のせいでもある。
「美鈴さん、ごめんなさい、ごめんなさい。私が足を滑らせたから、美鈴さんをまきこんじゃったから、美鈴さんまで死ぬことなかったのに……うわーん」
レーナが泣く。
しかし、今のレーナは魂の状態だ。
涙は出ていないし、顔を押さえる手もない。
「レーナ、私こそごめん。レーナを守るのは私の役目。何としてでもレーナを守らなきゃいけなかった。レーナには、夢があった。その夢をかなえられるだけの才能もあった。努力もした。なのに、私がダメにした!」
「美鈴さん、違う。違うよ。私が悪かったんだよ」
美鈴が陽に視線を向ける。
魂なので、実際にはそうしているのか見た目ではわからないが。
「あの。どなたかわかりませんが、この子、レーナを生き返らせることは本当にできないのですか?」
「美鈴さん、生き返られるなら、美鈴さんが生き返って。ねえ、あの、どなたかわからないのですが、お兄さ……」
レーナは陽に視線を向け、お願いをするが、その途中で気づく。
レーナは陽に恐る恐る尋ねた。
「あの、あなた、あなたは、いつも私達のコンサートに来てくれる……えっと、去年の東京も、大阪も、福岡の時も……」
「!!!」




