神の御業
そう言っていたのもつかの間。
もうすぐ森から出られるのでは、と思っていたところ。
レーナとミシェル、そしてすみれ姫は、七人の男女と出くわす。
冒険者ギルドのギルマスと受付嬢、そして、チェルシーのパーティだ。
その先頭に立つ、ごついおじさんがすみれ姫に声をかけた。
「神様であられますか?」
「神様ではない。成人だ」
すみれ姫が答える。
これまでの会話で学んだ。
神かと聞かれたら、神ではなく『成人』と答えると。
「……」
「ギルマス、神様だから外見と年齢は違いますから」
受付嬢がギルマスを肘でつついて再起動させる。
子供だとは思われたくはない、神様はそう言っているのだと。
ちなみに、ギルマスも受付嬢も、後ろにいる冒険者パーティも本当に神様がいるとは思っていない。
超がつくほど魔法に優れたちみっこ、もとい子供がいる、そういう結論に至っている。
ダンとリズの時は、二人が初心者だったため、ハインディングが見破れなかっただけだろう。
事実、チェルシー達はしっかりとその姿を見ているのだから。
ただし、魔法に優れているのは事実。
軽く扱っていい存在ではない。
このちみっこが使う風魔法は、チェルシー達のパーティですら手に負えないのだ。
「成人様とお呼びしたら?」
受付嬢は思う。
ギルマスは馬鹿なの? と。
それが名前だと?
だが、会話が成り立ってしまう。
「すみれ姫だ」
「すみれ姫様」
ギルマスが確認をする。
その会話に唖然とした受付嬢も心にその名前を刻む。
今後、間違ってはいけない。
「すみれ姫様、私ども冒険者ギルドのパーティを、二つも、救ってくださり、感謝しております。何かお手伝いできることなどあればと、こちらで待たせていただきました」
「二つ? 救った?」
(一つはあのホーンベアの時の、もう一つはたぶん、私とミシェルがやったのじゃないかな)
レーナがすみれ姫に補足する。
ダンとリズの件はすみれ姫は知らない。
「ん? んー、チェルシーとかいうのに助けてもらったらしい。嬉しかった?」
ギルマスと受付嬢が、なぜ『らしい』? なぜ疑問形? こっちが助けた方? と、思いながら、後ろにいるチェルシーの顔を見る。
が、チェルシーは肩をすくめるだけだ。
「何か手伝ってほしいことはあるか?」
すみれ姫が逆にギルマスに尋ねる。
ギルマスと受付嬢が顔を見合わせる。
こちらが手伝ってほしいことがあるかを聞いたのに、逆に聞き返された。
(私達にはないわよね)
『手伝って欲しいことはこちらには無い』と、ミシェルはそう呟いた。
しかし、
「もしよろしければギルドにお越しくださることは……」
「手伝ってほしいことはない。それでは行く」
ギルマスの提案を無視したかのようにすみれ姫はミシェルの言葉を口にし、話を打ち切って歩き出した。
「「……」」
ギルマスと受付嬢が固まる。
話がかみ合わねーと。
さすがは神様。いや、ちみっこ。
「すみれ姫様、どちらへ?」
「旅に出る」
「もし、もしそうなら、冒険者登録などいかがでしょうか。冒険者カードを持っていれば、街に入るのにお金がかかりませんが」
「お金がかからない?」
お、気が引けたぞ、とギルマスは思う。
「どう思う?」
ギルマスは慌てる。
それは神様が考えることではないのかと。
もちろん、すみれ姫はギルマスに聞いたのではない。レーナとミシェルにだ。
「えっと、街に入るには冒険者カードなど自身を証明する物が無ければ銀貨一枚を払う必要があります。なので、冒険者カードがあれば節約になるかと」
(うーん、街なんて、すーちゃんも精霊化してはいれば素通りだから、いらないんだけどね)
(他にはどんなメリットがあるのかな)
「他にはどのようなメリットが?」
「討伐された魔物などを、買い取らせていただきます」
「金をくれるということか?」
「そうでございます」
「人間も?」
「「え?」」
「討伐したのはすべて土に埋めて来た」
「今後は、お持ちくださればと。で、人間とは?」
「気持ち悪かったから刻んで埋めた」
「「……」」
埋めたのはレーナとミシェルだが。
ギルマスと受付嬢は、相変わらず要領を得ないと思う。
人を討伐したのか? だが、今はその証拠もなく、すみれ姫を責めることはできない。
何にしても、話をしないことにはと、ギルマスはギルドに誘う。
「ところで、ギルドに来ていただけるのでしょうか?」
「ベッドで寝たい」
「は、はい。宿を確保させていただきます。もちろん、ギルド持ちで」
(お、やった)
(久々にベッドで寝れられるわ)
「では行くか」
「は、はい。それではついて来てください」
そうすみれ姫を誘って、ギルマスは森の外へと向かって歩き出した。
((ふふんふんふんふん))
レーナとミシェルは、また布団で寝られることに少し浮かれ気味だ。
ハイエルフの里で布団で寝たっきりなのだ。
「あの、すみれ姫様」
受付嬢がすみれ姫に声をかけた。
「なんだ?」
「その素敵なお服は汚れたりしないのですか?」
「しない」
受付嬢は疑問に思う。
森に入って汚れないはずがない。
魔物を討伐して汚れないはずがない。
それに、さっき言っていた人間を討伐? どういうこと?
「あの、武器などはお持ちになられないので?」
ギルマスが尋ねる。
「武器?」
「え? あ、必要ないですよね、すみれ姫様ならアイスランスを撃てますものね」
ダンの話をもとに、受付嬢がフォローするが。
「撃てんぞ」
「「……」」
あれ? と、思うギルマスと受付嬢。
「あの、素晴らしい治癒魔法は……」
「ん? 治癒魔法? 使えんぞ」
ギルマスと受付嬢はチェルシーのパーティに目を向ける。
しかし、チェルシーはその子で合っていると頷くだけだ。
「すみれ姫様は風魔法を使われるのですよね」
チェルシーが聞く。
「それしか使えんからな」
冒険者たちは、本当にすみれ姫が神様なのではないかと仮定してみる。
チェルシーは見ていないのだが、見たことのない体が光る治癒は、魔法ではなく、神の御業だと。
だから、治癒魔法は使えないと、言っているのだと。
だが、そうなると、アイスランス……それはどう説明するのか。
これも神の御業か?
うーん。よくわからない。




