どこかの副将軍
「どんな神様でした?」
そこまで言われれば受付嬢も納得せざるを得ない。
本当に神様がいたのかと。
「薄緑の髪、菫色の変な服、上げ底の変な木でできた靴。なにより、がきんちょだった」
「……」
「それに、あれはきっと人の心を持っていない」
男性冒険者がそう断定するが、女性冒険者が否定する。
「それは違うわ。おそらく、人との接し方を知らないのよ」
「お前、蹴られたじゃないか」
「あれは、神様がチェルシーを治そうとしたのに、私が邪魔だったからよ」
「そうなのか?」
「だって、結局は私も治してもらったじゃない」
すみれ姫自身が蹴った傷だが。
「うーん」
そのやり取りを聞いて、受付嬢が悩む。
「確かに、ダンとリズの時も、追い払い方がアイスランスだったって。優しくない追い払い方よね。そう言う意味ではやはり人非ざる者なのかもしれないわね。やっぱり神様なのかしら」
こうして、ローゼンシュタイン北部の森に、神様がいる説が広まって行く。
(ねがぁっても届かぬー、貴方のー心ー)
(すかぁっとからぶる、私の右手ー)
((「あーーー、遠い、遠い、近くーてぇ遠い」))
(あなたーはー、あなたーはぁ、(「こおいせーーーいーーーーれーいーーーーーぃぃぃ」)))
((「あははははは」))
(暇ね)
「私、歌好き。楽しい」
(すーちゃんが喜んでくれて私も嬉しい)
(でも、歌ってると、どうしても魔物が寄ってくるのよね)
それはそうだ。
すみれ姫の声は実際に出ている。
音を発していれば、気づく魔物はいるし、気づけばやってくる。
逆に野生動物は逃げていくが。
魔物がやってくると、すみれ姫が風の刃で瞬殺し、レーナとミシェルが穴を掘って埋めていく。
ちなみに、すみれ姫は風属性魔法しか使えない。
が、ふと、レーナが気づく。
(そう言えば、すーちゃんの周りにも低位精霊や高位精霊いるわよね。どうして、すーちゃんは自分で魔法を撃つの?)
「え? だって」
と、すみれ姫は立ち止まり、
「みんな、風の刃用意!」
すみれ姫のその一言で、無数の魔法陣が展開される。
(わかったわ)
(お願い、収めて)
だが、すみれ姫は精霊達に命じる。
「みんな、撃っちゃって」
バシュバシュバシュバシュバシュ……
((あー))
森の木々の間を無数の風の刃が飛んでいき、地面に突き刺さった。
(何でかわかった)
(すべてがオーバーキルになるのよね)
レーナとミシェルは納得する。
そこいらの魔物相手にあまたの低位精霊を使った魔法を撃っては、手数が多すぎるのだ。
その点、すみれ姫の魔法は、しらゆきとみゆきよりもおとなしいと言える。
風属性の魔法だからだろうか。
「……」
すみれ姫は何かが気になったのか、レーナとミシェルを見る。
(すーちゃん、どうしたの?)
「私、低位精霊と中位精霊に指示を出したのに、レーナとミシェルは従わなかった」
((え?))
「低位精霊と中位精霊は、高位精霊に従うはず」
((……))
「何で?」
(私が知りたいところだけど)
(すーちゃんに従わなきゃダメなの?)
「んー」
すみれ姫は考える。
「どっちでもいい」
(はぁ)
(いいんだ)
「一緒に歌を歌ってくれるなら」
(あははははは)
(もちろんよ)
「ねがぁっても届かぬー、貴方のー心ー」
すみれ姫がリードボーカルをとって歌っていると、
「おいおい、本当にいたよ。神様がよ」
と、数十人もの男どもが現れた。
すみれ姫が不機嫌を顔に表す。
自分のリードボーカルを遮られたことに不満なのだ。
右手を差し出そうとしたすみれ姫にレーナが尋ねる。
(殺しちゃうの?)
「オーガの方がまし」
「おいおい、俺らとオーガを比較するってのか? そりゃ俺らの方がオーガより強いけどな」
「「「わはははは」」」
(何の用って聞いて)
「何の用?」
「神様について来てほしいんだよ」
「神様じゃない。私は精……」
((わーわーわー))
「成人!」
「「「「あはははは」」」」
「面白い神様だな。そんなちみっこい成人がいるか? 大人ぶりたい年頃なのか? まあ、ちみっこを好きな貴族もいるし、高値で売れるだろうさ」
(奴隷目当ての盗賊かしら?)
(確かにオーガの方がましな気がしてきた)
「風の刃発動準備! 誰一人として逃がすな!」
ウィンドカッターの魔法陣が全展開される。
遠くからこの様子を監視いる者の背中にまで。
とはいえ、男達には中位、低位精霊が展開する魔法陣は見えていない。
「そんな脅しが効くとでも?」
(盗賊ってどうしたらいいのかしら)
(うーん、わからないわね)
「てー!」
ザシュザシュザシュザシュザシュザシュ……
((あー))
(初めて人を殺めてしまった)
(そ、そうね)
「何か問題でもあったか?」
(ううん、ないわ)
(仕方ないと思う。犯罪者だと思うし、なにより気持ち悪かったから)
(でも、奴隷をこうやって不法に売るような奴ら、拠点に捕らわれている子供とかいるのかもね)
「気になるのか?」
(気になると言えば気になるけど)
(拠点の場所もわからなければ、単なる想像だものね、そうかもしれないっていう。だからいいわ)
(さ、埋めちゃおうか)
(そうね)
「あ!?」
(どうしたの、すーちゃん)
「お金を持っているか聞くの忘れた」
(まあいいわよ。今から死体あさりでもないでしょうに)
「ん」
レーナとミシェルは穴を掘っては死体を風魔法で落とし、埋めていく。
(あーあ、穴掘り飽きたから、もう来ないで欲しいなー)
(そうねー)
(それに、どこかの副将軍じゃないんだから、悪を退治するために旅をしているわけでもないのに)
(私も出会わないのが一番だと思うわ)
(本当に)
レーナとミシェルはやれやれと肩をすぼめる。
肩はないが、気持ち的に。




