成人の神様
レーナの治癒魔法によりチェルシーが光り、冒険者たちがその光から目を守るかのように顔を押さえた。
光が去った後には、服は破れているものの、怪我がすっかり治ったチェルシーがそこにいた。
(すーちゃん、もう一人、すーちゃんが蹴っちゃったあの女性の顔。鼻血でてる)
すみれ姫は自分が蹴った女性の方へと歩み寄る。
「おとなしくしていろ」
そう言って、すみれ姫は女性の顔をがつっとつかんだ。
((つかみ方……)まあいいや)
(ヒール!)
つかみ方をどうこう言っている暇はない。
そんなことを言ったら、またすみれ姫が何かしかねない。
慌てて治癒魔法をかけるレーナ。
光が収まった後には、折れた鼻も治った、元通りの女性冒険者の顔があった。
女性冒険者は、自分の顔の確認もほどほどに、チェルシーに駆け寄る。
「チェルシー、チェルシー!」
チェルシーは気を失っているだけのように見える。
怪我の痕はすっかりなくなった。
呼吸も安定している。
女性冒険者はチェルシーを抱きしめて泣く。
「よかった、よかった……」
すみれ姫はそんなことはどうでもいいと、レーナとミシェルに声をかける。
「さ、行くか」
(そうだね。もう大丈夫だと思うし)
(すーちゃん、最後に一言、私の真似して言って)
ミシェルがすみれ姫にお願いをする。
(助けてくれなくても私は大丈夫だった。だが、助けてくれたこと、感謝する。気持ちも嬉しかった)
「助けてくれなくても私は大丈夫だった。だが、助けてくれたこと、感謝する。気持ちも嬉しかった」
すみれ姫は一言一句間違えないように、ミシェルの言葉をまねて発した。
「ちょっと待て、いや、待ってください」
「何?」
すみれ姫が怪訝な顔をして振り返る。
まだ何かあるのかと。
冒険者はギルドの貼り紙を思い出した。
「お前は、いや、あなた様は、神様ですか?」
「何を言っておる。私は神様などではない。私は精……」
((わーわーわー!))
一般の人間にも精霊の存在は知られてはいる。
しかし、すみれ姫のような高位精霊、しかも、実体をもった精霊をみた人間はいないであろう。
精霊を崇めるエルフは見たことがあるだろうが。
なので、この人間の冒険者たちに、すみれ姫が精霊であることを知られるわけにはいかない。
知られたら、パーティに誘われるとか、友達になるとか、その程度ならいい。
捕まって売られるとか、ひどい目に合うかもしれない。
だから、すみれ姫が精霊であることを知られてはいけない。
そう、レーナとミシェルは判断する。
「せい?」
冒険者が首をかしげる。
いったい、この少女は神でなければ何者なのか。
(成人だって!)
「成人だ!」
「「「え?」」」
すべての冒険者がすみれ姫の答えを心の中で否定する。
『絶対に嘘だ』と。
しかし、実際には、すみれ姫はたとえ高位精霊になってからであっても、目の前の冒険者達よりも年上である。
「では行く」
冒険者に反応がなくなったことから、すみれ姫は用は済んだと判断する。
すみれ姫は歩き出した。
しかし、後ろから、冒険者から叫び声が上がる。
思ったことを口に出していい時と悪い時がある。
「どう見てもがきんちょじゃないか!」
その言葉を聞いて、すみれ姫は足を止めた。
子ども扱いされたことが鼻につく。
すみれ姫はレーナとミシェルに確認した。
一応だ。
「風の刃をまき散らしていいか?」
(ダメったらダメ!)
レーナが慌てて止めた。
「ところで」
すみれ姫がレーナとミシェルに聞く。
「さっき、言わされたことだが、『その気持ちも嬉しかった』というのはどういうことだ?」
(……)
レーナが言葉をなくす。
理解できていなかったのかと。
(あのチェルシーって冒険者は、すーちゃんが危ない目にあってると思って助けてくれたの)
ミシェルがレーナに代わり、説明する。
「不要だぞ」
(そうなんだけど、すーちゃんのことを心配してくれたのよ)
「心配?」
すみれ姫は何を言われているのか理解できていない。
心配なんて、これまでしてもらったことはない。
(そうよ。すーちゃんが怪我をしちゃったらどうしようとか、痛い思いをしちゃったらどうしようとかね?)
「しないぞ」
そう。
痛い思いもすみれ姫はしない。
なにせ、精霊なのだ。
(そうだけどね。そういうふうに思ってくれる人がいる。っていうのは、嬉しいことなのよ)
「レーナとミシェルも私が二人を心配したら嬉しいのか?」
((嬉しいに決まってるじゃない!))
「そうか。二人とも、私が守ってやる」
(その気持ちが嬉しいのよ。ありがとう)
(ありがとう、すーちゃん)
「レーナもミシェルも私のことを心配してくれるのか?」
((もちろん))
「ありがとう」
すみれ姫が頬を染める。
そんな風に思ってもらったことはなかった。
思ってくれる人もいなかった。
ちょっとうれしい。
そして、レーナとミシェルが気づかない程度に光った。
後日、冒険者ギルド。
チェルシー達が冒険者ギルドに戻って来た。
「神様を見たぞ」
五人組冒険者がギルドに入るなり、受付嬢にそう報告する。
挨拶もせず。
「と、突然なんですか!」
受付嬢がその冒険者の剣幕に焦る。
「北の森で、神様を、見た」
冒険者は受け受け上にもう一度言う。
少し落ち着いて、ゆっくりと。
「チェルシーが怪我をして治癒魔法がかけられた。情報と同じだ。チェルシーが光って怪我が治った」
「それは本当のことですか?」
「ああ。メンバー全員が見ている」
そう報告した冒険者は、後ろで立っているメンバーに視線を向けた。
すると、全員が頷いて肯定の意を示した。




