チェルシー
ホーンベアに狙われるすみれ姫。
(実体化してるから、おいしそうに見えるのかしら)
(じゃあ、消えちゃえばいいんじゃないの?)
(そうよね。それがいいと思うけど)
と、ミシェルとレーナが熊対策を話し合っていると、すみれ姫が先に行動を開始した。
「私に刃向かったことを後悔させる」
(後悔で済む?)
(済めばいいけど)
すみれ姫が右手を掲げる。
その一方で、ホーンベアが四つ足ですみれ姫に向かって突進して来る。
そのすみれ姫は掲げた右手を振り下ろす。
「危ない!」
((「え?」))
ドォン!
すみれ姫が抱きかかえられたまま飛ばされた。
突然飛び出してきた一人の女性冒険者によって。
そして、ホーンベアの爪はすみれ姫に代わり、その女性冒険者の背中を引き裂いてしまった。
「キャァ!」
((あっ))
「「チェルシー!」」
((ん? おいしそうな名前))
男性冒険者が三人と女性冒険者一人が走って来て、ホーンベアと対峙する。
「水の精霊よ、水を顕現させ熱を奪い氷の槍とせよ。狙え、アイスランスー!」
女性冒険者がアイスランスを放つ。
それを立ち上がったホーンベアが左手ではじいたところへ、男性冒険者が切り込む。
ホーンベアが右手で男性冒険者の背中を狙う。
「やらせねえ!」
もう一人の男性冒険者が盾でホーンベアの右手を防ぎ、そして、先に飛び込んだ男性冒険者がホーンベアの腹に剣を突き立てた。
最後の男性冒険者が、槍をホーンベアの首に突き立て、そして、ホーンベアは沈黙した。
((おー))
レーナとミシェルがその戦い方に感心する。
すみれ姫を抱えて気を失っているチェルシーに、アイスランスを放った女性冒険者が駆け寄り、声をかけた。
「チェルシー、チェルシー!」
男性冒険者も集まってくる。
そこへ、すみれ姫が不適切発言をする。
「おい、これを早くどかしてくれ」
冒険者達の顔に怒りが浮かぶ。
当然だ。自分達の仲間が身を呈してすみれ姫を守ったのだ。
なのに、すみれ姫は『これ』扱いだ。
怒らないわけがない。
「貴様、ガキだと思ってりゃなんだ! チェルシーはお前を守って怪我を負ったんじゃないか! どういうつもりだ!」
「誰が助けてくれと言った? むしろ、邪魔をしたのは、この女の方だろう?」
確かにすみれ姫はホーンベアを倒すべく、魔法を放つ体勢をとっていた。
「てめえ、ガキのくせにくそ生意気な!」
「やめて!」
女性冒険者が叫ぶ!
「チェルシーが、チェルシーが!」
背中の傷を一生懸命に布で押さえる女性冒険者。
争っている場合ではない。
(どこかで見たような記憶が。デジャブ?)
(森に入った時に、女の子がホーンラビットに)
(あー。確かに同じような状況)
すみれ姫がチェルシーの下からはいずり出てくる。
すみれ姫は、パンパンと服をはたき、服の汚れを落とすと、レーナとミシェルに向けて言葉を発した。
「さてと、行くか」
と。
「ちょっと待て!」
(ちょっと待って)
「ん?」
冒険者の男とレーナが同時にすみれ姫を引き留めた。
すみれ姫は気が付く。
そう言えば、自分には必要なものがあった。
「お前達、金はもっているか?」
「はぁ?」
((はぁ?))
冒険者は怒りを増す。
このタイミングで金の要求と取られる発言だ。
何の見返りもなく。
レーナとミシェルもそういった発言をすみれ姫がなぜしたのか理解に苦しむ。
その反応に、さすがのすみれ姫も何かに気づく。
「あれ、間違ったか」
すみれ姫は考え込む。
どうやら、お金を持っているかの確認はここではしない方がよさそうと。
「そしたら、行っていいか?」
「お前は助けてもらって礼も言わずに立ち去るのか? しかも金まで要求して?」
「要求はしていないぞ? 聞いただけだ」
「そんなことどうでもいいの、チェルシーが、チェルシーが!」
女性冒険者が泣きさけぶ。
(あ、そうだった)
(すーちゃん、ポーションを持っているか聞いて)
「お前達、ポーションを持っているか?」
「持っていない。チェルシーが治癒魔導士なんだ」
「ポーションとはなんだ?」
「何で聞いた!」
((あはははは))
レーナとミシェルが苦笑いをする。
(治していいか聞いて)
ミシェルがすみれ姫にお願いする。
だが、予想外の答え。
「治せんぞ」
「は? 貴様、どこまでもバカにしやがって、ガキのくせに」
すみれ姫はミシェルに答えたのだが。
(もういいわ)
ミシェルががっくりする。
(すーちゃん、その倒れている女性の背中に手を当ててくれる? そしたら私が治癒魔法をかけるから)
「おい、女、そこをどけ」
チェルシーの背の傷を押さえている女性冒険者にすみれ姫は冷たく言い放つ。
((……))
「このクソガキー!」
男性冒険者ももう怒りを抑えるには我慢の限界だ。
バシュン
ズズズズズ、ドスーン
大木が一本倒れた。
すみれ姫が風の刃を放ったのだ。
「死にたいのか? どけ」
すみれ姫がチェルシーの傷を押さえている女性に命じた。
脅したとも言う。
すみれ姫の放った魔法に、男性冒険者は後ずさる。
すみれ姫は大木を真っ二つにしたのだ。
自分達に放たれたらどうなるか、想像しなくてもわかる。
だが、女性はどかない。
(すーちゃん、治すからどいてって……)
ゲイン!
すみれ姫がレーナの言葉を聞く前に、道中下駄で女性の顔を蹴り飛ばした。
「キャッ!」
((あ!))
女性がゴロゴロと転がって行く。
「貴様、絶対に許さん!」
冒険者の男が剣を抜く。
だが、すみれ姫は気にしないように、チェルシーの背に手を当てた。
レーナの指示通りに。
「これでいいか」
「何が『これでいいか』だ、このクソガキ。いいわけない……!?」
(ヒール!)
レーナが治癒魔法をかけた瞬間、チェルシーの周りに光の粒子が舞い、その粒子がチェルシーに吸い込まれて、チェルシーを光らせる。
「うわぁ!」




