すーちゃん、歌う
レーナとミシェルは顔を見合わせる。
(すみれ姫、やってみましょう。せっかくすみれ姫は実体があるんだから)
(そうね。すみれ姫、手を叩ける)
すみれ姫は手を叩く。
パン!
(上手上手。じゃあ、パパンがパン、パパンがパンって、連続して叩いて。
パパン、パン、パパン、パン……
すみれ姫が作り出すリズムにレーナとミシェルが合わせて歌いだす。
(せ、せ、セリコのチョコミントー)
(あ、それ!)
(せ、せ、セリコのチョコミントー)
(あ、よいしょ!)
(いくつーも食べたい、セリコーーーの(チョコミンーーートーーーー))
((あははははは))
(すみれ姫、いいじゃん!)
(手拍子が加わるだけで変わるわね)
「あの、えっと」
戸惑うすみれ姫。
(歌ってのはね、こうやって言葉をリズムや音程に乗せること)
(すみれ姫のやったパパンがパンがリズムね)
すみれ姫は両手を見つめる。
(すみれ姫、じゃあ、次ね。すみれ姫、チョコミンーーートーーーー、って)
「ちょ、チョコミンーーートーーーー」
(おー、上手上手。もう一回)
「チョコミンーーートーーーー」
(いいね。じゃあ、もう一回歌うから、チョコミンーーートーーーーの部分、よろしくね)
「……」
すみれ姫はやはり戸惑う。
固まるすみれ姫にレーナがお願いする。
(すみれ姫、パパンがパンやって)
パパン、パン、パパン、パン
(せ、せ、セリコのチョコミント―)
(あ、それ!)
(せ、せ、セリコのチョコミント―)
(あ、よいしょ!)
(いくつーも食べたい、セリコーーーの(「チョコミンーーートーーーー」))
今度は、レーナもはもりに回る。
そのため、音の幅がより一層広がる。
(すみれ姫、すごいすごい!)
(すごく良くなったわよ。三人ではもるとすごくよくなるわね)
「……」
すみれ姫が褒められて頬を染める。
なんだか嬉しい。
それに、なんだか気持ちいい。
「これが、歌……」
(そうよ、歌。楽しかったでしょ?)
「楽しい?」
(そう。歌って、心地いいとか、きれいにはもれて嬉しいとか、もっとやりたいとか)
「なんかほわんとした。気持ちよかった? 楽しかった?」
そう言ってすみれ姫が微笑んだ。
その瞬間、誰も気づかったが、レーナとミシェルがほんのり光った。
キランキラン!
(あ、すみれ姫、笑った)
(ほんとだ。初めて見たわ、すみれ姫の笑顔)
(かわいいじゃん)
(すみれ姫、かわいいわー)
すみれ姫が頬を染める。
(私、すみれ姫が歌を好きになってくれて嬉しい)
(私もー)
「好き? 私、歌が好き?」
(だって、楽しかったでしょ。それって、好きじゃん)
「ん! 私、歌、好き」
((あははははは))
「あははははは」
(でもね、すみれ姫)
「何?」
(歌はね、本当は、顔の表情だったり、体の動きだったりを含めて表現すると、もっともっと素敵になるんだよ)
「顔の表情? 動き?」
すみれ姫は手を振ってみる。
(ごめん。私達、教えてあげられないの)
「どうして?」
(私達、体がないから)
「……」
すみれ姫が自分の手を見る。
「どうして?」
(私達、低位精霊だから。でも、体が欲しいの。だからね、私達、すみれ姫と同じ高位精霊になるために、旅をしているの)
「旅をしていたらなれる?」
(わからない。でも、そうした方がいいってしらゆきとみゆきが)
「私、歌が好き。歌をもっと良くしたい。素敵にしたい。だから、レーナとミシェルに体ができるように、高位精霊になれるように……何をしたらいいかわからないけど、頑張る?」
すみれ姫が生まれて初めて意気込む。
また、レーナとミシェルが光る。
(ありがとう、すみれ姫)
(すみれ姫は精霊の先輩なんだから、何かわかったら教えてね)
「うん!」
(それにしても、すみれ姫のその恰好で演歌。アイドルに戻れなくなるんじゃないかな……)
(演歌界にもアイドルはいるって、レーナ、言ったわよね?)
(……)
レーナ達は、元来た森を西へと歩いて行く。
(ねえ、すーちゃん)
(「……すーちゃん?」)
レーナの呼びかけにミシェルもすみれ姫も首をかしげる。
(うん。すみれ姫って、長いよ。すーちゃんって呼んでいい?)
「うん。いい」
(じゃあ、すーちゃんって呼ぶね、これから)
(もしかして、私のこと、みきちゃんとか言わないよね)
(言わないわ。だって、ミシェルをみきちゃんって呼んだら、私まで名前を変えたくなっちゃうじゃない)
(芸名は変えればいいんじゃないの? すみれ姫はすーちゃんだし)
(あれ、みきちゃん、気に入った?)
(ミシェルでいいわ。すでに芸名だし。で、なんだっけ)
(すーちゃんは、光の玉になった方が移動しやすいんじゃないの?)
「どっちでもいい。疲れるわけじゃないし」
と、道が悪いにもかかわらず、道中下駄でトコトコ歩くすみれ姫。
(服、汚れないの?)
「すぐ落ちるから」
(高位精霊、なんでもありか……)
森の中を歩いて行くと、様々な魔物、野生動物に出会う。
しかし、三人は、特に気にしない。
すみれ姫は、それがなんていう魔物かわかっているし、実際には興味もない。
レーナ達も、行きにそれなりに見てきた。
だが、魔物の方は違う。
姿を見せているすみれ姫に時々襲い掛かってくる。
魔物のくせに。
例えば今、目の前には、ホーンベアがいる。
冬眠からさめて腹が減っているのか、気が立っているように見える。
ぐるるるるる。
(すーちゃん、熊に狙われてるけど、大丈夫?)




