変わろうとする、新しい精霊
「それはつまり、大精霊様方を越えると言っているのだぞ?」
カルディナの声に怒気が加わる。
(レイ様もドライア様もディーネ様も認めてくださっているわ)
(だから、しらゆきとみゆきを私達につけてくれたのだから)
「「「……」」」
大精霊公認。
それを理解した高位精霊達。
すみれ姫は寝た。
(それに、私達にこの体をくれたのは、レイ様達の夫の、グレイス様よ)
レーナが無意識爆弾を落とす。
高位精霊達がさらに驚愕する。
グレイス、様。
この世の神ではないか。
その名が出てくるとは。
レーナもミシェルもグレイスが神であるのは知らないことだが。
ちなみに、カルディナ達が知っているのは、この里、ハイエルフの里が、グレイスの妻であるラナとルナ、その母親であるラミとルミの里だからだ。
ただし、最後に来たすみれ姫が知っているかどうかは……。
「そうか。だからこその、何から何まで規格外の低位精霊なのか」
カルディナがため息をついて続ける。
「わかった。今日はここに泊まると良い。明日からまた、旅を続けるのだろう?」
(はい。ありがとうございます)
(今日はお世話になります)
こうして、この会合はお開きとなった。
高位精霊達は、姿を消して去って行く。
すみれ姫を残して。
眠ってしまったすみれ姫は、ハイエルフが抱えてどこかへ連れて行った。
「レーナ様、ミシェル様、それではお部屋へご案内いたします」
ハイエルフの女性がレーナ達に声をかけた。
((よろしくお願いします))
ハイエルフは、レーナ達を離れの部屋へと連れて行った。
部屋は見事に和室だった。
畳が敷かれ、三方をふすまで囲まれている。
(あの)
レーナ達の声はハイエルフ達に届かない。
「それでは失礼いたします」
と、ハイエルフがふすまを開けたところを、風魔法でレーナが閉じる。
「え?」
驚愕の顔を見せるハイエルフ。
ハイエルフが振り返ったところで、レーナとミシェルが体を動かして、文字を書こうとする。
ハイエルフは、合点がいったという顔をし、
「紙とペンをお持ちします」
と、部屋を出て行った。
(伝わってよかったー)
(ほんと、何とかなるものね)
(体を使って文字を書くなんて、アイドルとしてあるまじき行為だったけど)
(あはははは。バラエティじゃありがちよね)
(やらないけどね)
しばらくすると、先ほどのハイエルフが戻って来た。
テーブルまで持って。
ハイエルフがテーブルを置いてそこにペンと紙を置く。
レーナは風魔法でペンを動かす。
二人は気にしていないが、風魔法でペンを操作して字を書く、というのは、超高度な魔法操作である。
よって、ハイエルフの目が点になっている。
丸とかバツを書くくらいだと思っていた。
それでも高度だが。
『庭がきれいだったので、散歩していいですか』
「ハッ! えっと、構いません。どうぞ、ご自由にお過ごしください。それと、必要なものがあれば、申し付けてくださればと」
『ありがとう』
そう書いて、レーナとミシェルは風魔法でふすまを開けて出て行った。
「低位精霊? 様?」
ハイエルフはつぶやいた。
レーナとミシェルは、庭をぽよぽよと移動する。
和の庭園で、踏むのもためらわれるその景観だが、レーナとミシェルはぽよぽよと浮かんでの移動だ。
遠慮はいらない。
枯山水の上も自由気ままだ。
(うわー。きれー。これ、枯山水って言うんだっけ)
(よく知ってるわね。枯山水)
(和な物は好きなのよ)
(砂のー波間に、桜がー落ちるー)
(はいーはい!)
(風にー揺られてー、桜がー舞うー)
(はいーはい!)
(あー、桜よー、どこへー行きたーいのー)
(砂のー、波間にー、とらーわれてー)
(ああーあああーー、(か、れ、さーんーすぅーいーーーーーーぃぃぃ))
((あははははは))
(こんなにゆっくり観光をしたことって、無かったわよね)
(そりゃ、スケジュール一杯だったもん。空いているときはほぼほぼレッスンだったし)
二人はぽよぽよと屋敷の周りを見て楽しんだ。
それを陰から見ていたのはカルディナ。
カルディナは想像する。
もしかしたら、レーナとミシェルは本当に変わろうとしている、変えようとしている精霊達なのではないかと。
自分達とは違う、新しい精霊なのではないかと。
それに、確か、ドライア様とディーネ様、二人はかつて高位精霊だった。
いつから大精霊に?
もしかしたら、自分もいつかは大精霊になるのか、なれるのか?
それとも、なることはできないと決まっているのか?
もし自分の考えを変えることができたら、いつどうやったらどうしたらなれるかわからないその高みを、それを自ら目指すことができるのか?
自分が? 自分も? 目指さなければなれないものなのか?
しかし、自分は……。
ならば。
カルディナは縁側を歩き出す。
そして、ある部屋の前に立ち止まった。
「すみれ姫、起きておるか?」
「は、はい、お母様」
カルディナはすみれ姫に自分のことを『母』と呼ばせているようだった。
すみれ姫は若い精霊なのだ。
教育はせずとも見て学んでくれればいい。
そう思っていた。
カルディナはすみれ姫に提案する。
「お前……」
「え?」




