エルフ?の里
ダンが改めて受付嬢に説明する。
「ホーンラビットに襲われて、それで、リズの背中をツノで刺されたんだ」
「え? 傷、無かったけど?」
「だから言ったろ。神様がいたって」
「……」
受付嬢は、握った右のこぶしを顎に添えて考える。
少年はうまく伝わらないことがもどかしいかのように、早口になって説明を続ける。
「リズの背中に穴が開いて、血が出て、リズは気を失っちゃうし、どうにもならなかったときに、突然光の粒子が舞って、リズの中に入って行って、そして、リズが光って。光が収まった時には、リズの傷がなくなってたんだ」
「えっと、治癒魔法がかけられたってことよね」
受付嬢は首をかしげる、こぶしを顎に添えたまま。
それって……。
「誰かいたんじゃないの?」
「誰もいなかった」
ダンは即答する。
どこにも姿も気配もなかった。
カッパーランクが他人の気配を感じられるかはおいておいて。
「そうよね」
受付嬢は考える。
治癒魔法は緑色の光が出て、患部が治る。
光の粒子が舞った?
リズが光った?
そんな治癒魔法は聞いたことがない。
もしかしたら、最上位の治癒魔法か?
確かに、背中を貫かれて重症。
それを通常の治癒魔法で治すなんてこと、ここいらの冒険者どころか教会の神父にも難しいかもしれない。
「他には?」
受付嬢は追加情報を求める。
治癒魔法だけではよくわからない。
「治ったリズを連れて帰ろうと背負ったところで、ホーンウルフに襲われそうになったんだ」
はぁ。
受付嬢はため息をつく。
つくづく、生きて帰ることができてよかった、と。
「踏んだり蹴ったりね。だから北の森に行くなと」
「だけど、そのホーンウルフは一発のアイスランスで倒されたんだ。それに、俺の足元にも何発も撃ちこまれた。まるで、早く帰れって言っているように。だって、俺を狙うなら、ホーンウルフと同じように当てているはずだろう?」
「うーん、状況からそうね」
ホーンウルフを一撃で倒すなら、ダンごときたやすくアイスランスで貫くこことはできよう。
「な、神様だろう!」
うーん。
考えてもよくわからない。
おそらく最高レベルの治癒魔法に、正確なアイスランスを連発するその技量。
この街の冒険者ではないのだろう。
受付嬢は、とりあえず、考えるのをやめる。
心当たりもなければ想像もつかないのだ。
「その件はギルドで預かるから、早くリズを帰してあげなさい」
「わかった。よろしく」
ダンはギルドから走って出て行った。
そのダンのというか、ダンに背負われたリズの背中を見送り、受付嬢は、
「神様ねぇ。とりあえず、ギルマスに相談かしら」
そうつぶやいて、席を立った。
その結果、翌日からギルドに貼り紙が貼られた。
「神様情報求む」
数日間を森の中を移動したレーナとミシェル。
特に何も倒すでもなく引き続き森の中を進む。
自然エネルギーの密度の濃さを求めて。
(私の、冷えた心を癒すのはー)
(わわわわー)
(体を、包むそのぬくもりー)
(わわわわー)
(どこに行ったら見つかるのかしらーーーー)
(ナチュラル、エナジー)(エナジー)
(ナチュラル、エナジー)(エナジー)
(あぁああーーーーー、(ナチュラルーーーエナジーーーーーー))
(きぃっと)(そこには)(あなたが)(いるの)
(お願いーーー)(まぁてってーーー)
((ナチュラルーーーーぅぅぅぅ、エーナージィィィーーーーー))
(全然、自然エネルギー、濃くならないんだけど)
ぽよぽよとした速度であるが、数日も進んでいる。
そろそろ自然エネルギーの濃さに変化が起こってもいいのではと、レーナが愚痴を漏らす。
もしかしたら、こっちの方向に高位精霊はいないのかもしれない、と。
しかし、ミシェルはしっかりと感じ取っている。
(そんなことないわよ。すこーしずつ濃くなってるから、気づいていないだけよ)
(そうなんだ?)
(ええ、森に入った時に比べたらね)
(気づかなかったなー)
(だってレーナ、歌を歌ってばっかりだから……)
そんな会話をしながら進む二人。その二人がある一線を越える。
((えっ?))
二人はあわてて一歩後ろに下がる。
一歩と言うのは気持ちだ。
むしろ一ぽよ。
(今の何? 急に空気が重くなったけど)
レーナの疑問に答えるミシェル。
(重くなったんじゃないわ。自然エネルギーの密度が急に濃くなったの)
(じゃあ、この先に高位精霊がいるの?)
(きっといるわ)
(じゃあ、進もう)
(そうね、慎重にね)
二人が再び自然エネルギーが濃くなった領域に足を踏み込む。
足はないけど。
しばらく進んで行くと、二人は立ち止まる。
周りを囲まれたのだ。
(なに? 囲まれたけど)
(私達に気づくのって、リスベルみたいなエルフってことよね?)
レーナとミシェルが背中合わせになり、周囲を警戒する。
一方でレーナとミシェルを囲む者達が、次第に間を狭めてくる。
(レーナ、やっぱりエルフだったわ)
その者達の姿が目に見えてきた。
二人はその姿に気づく。
(そうね)
(エルフの里に入ったのかしら)
二人が立ち止まったままでいると、周りを取り囲んだ十名のエルフが、そろって膝をついた。
「精霊様。ようこそ我らの里に」
レーナ達の進行方向にいたエルフが二人に声をかけた。




