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少年少女、踏んだり蹴ったり

 ホーンラビットは、右に左にステップを踏んで、正面に立つ少年に向かう。


「ち、速い。ここだー!」


 少年が剣を大きく振りかぶり、ホーンラビットめがけて振り下ろした。


 スカッ、ドス!


 大きく振り下ろされた少年の剣は、ホーンラビットによけられ、地面に突き刺さってしまう。

 ホーンラビットは、少年の脇をすり抜け、


 ドン!


 少年の後ろで杖を構えていた少女の足に体当たりをした。


「キャッ!」


 少女は、ホーンラビットの勢いの強さに倒れ込み、腰を落としてしまう。

 幸いにも、ツノが足に刺さったりはしていない。

 ここまでは。


 ホーンラビットは、少女の後ろから、再び襲い掛かろうと、姿勢を低くする。


 ホーンラビットに対して少女の反対側にいる少年は、立ち位置的にそれを防ぐ事はできない。

 ホーンラビットは、倒れている少女の背中に向かってツノを向け、突進した。


「キュイー」


 ドス!


「あうっ!」


 ホーンラビットのツノが少女の背中に突き刺さった。

 なかなか抜けないそのツノをなんとか引き抜こうと、ホーンラビットが暴れる。

 その都度、少女が悲鳴を上げる。


「痛い痛い痛い痛い痛い……」

「このー!」


 少年がようやく少女の背中側に回り込み、ホーンラビットの背中に剣を突き刺した。


「きゃあ!」


 少年がホーンラビットを刺したことで、さらに少女の傷がえぐれてしまう。

 ホーンラビットは沈黙したが、少女の傷は広がってしまった。

 少女の背からは血が流れ続けている。


「リズ! リズ! 大丈夫か?」


 少年は慌てて少女をうつぶせに寝かせ、傷に布を当てた。

 リズと呼ばれた少女は気を失ってしまったが、血が止まる気配はない。





(こういう場合、どうするの?)


 レーナがミシェルに聞く。


(ゲームなら、治癒魔法かポーション。死んじゃったら教会で復活?)

(ふうん。あの子、どうするのかな? ところで、この世界、教会で復活できるの?)

(無理よね)


 のんびりと会話をするレーナとミシェルとは対照的に、少年は悲壮感を漂わせる。


「リズ、リズ、ごめん、俺が下手なせいで。弱いせいで……」


 そうは言っても、事態は好転しない。

 少年は大声で叫びだす。


「誰か! 誰でもいい。お願いだ。お願いします。リズを助けて。助けてください!」


 少年は傷口を押さえたまま何度も叫び続ける。

 誰か、他の冒険者が近くにいないかと。


 しかし、全く反応はない。


 レーナとミシェルは顔を見合わせ、そして、少女の下へと降りていった。


(えっと、ホーンラビットのツノで刺されて、えぐれて、穴が開いて)

(そうね。泡が出てるし、肺に刺さってるし、心臓は大丈夫そう?)

(うん。そんな感じ。えっと、やってもいいと思う?)

(いいんじゃないかしら)

(じゃあ、私やるね。ヒール!)


 レーナは、ごく自然に、すんなりと、日ごろの作業のように治癒魔法を少女にかけた。


 突然少女の周りに光の粒子が舞い、その光が少女に吸い込まれた。

 そして、少女の背中が薄緑色に光る。

 その光景を見て、少年は目を見開いた。

 いったい何が起こったのかと。


 治癒魔法に驚き、固まっている少年に対し、少女の怪我は治っていく。

 少女の背中の傷がふさがり、血が止まり、そして……呼吸も落ち着くいていく。


 少年は何が起こったのか理解はする。

 治癒魔法が少女にかけられたのだ。

 だが、誰が……

 周りを見まわしても誰もいない。


 少年は、少女を仰向けにし、胸に耳を当ててその呼吸が安定していることを確認する。

 のどに手を当て、鼓動が正常なことを確認する。

 そして、少女を抱きしめた。


 その状態で少年が発した言葉は少女を気遣う言葉ではなかった。


「ありがとう、ありがとうございます。どなたかわかりませんが、リズを、リズを助けてくれて。ありがとうございます」


 少年は少女を抱きしめながら涙を流した。





(もう大丈夫だと思う?)


 レーナがミシェルに尋ねる。

 怪我は治ったと思うけど、と。


(わからないわ。このままだと、他の魔物が来たら絶対絶命よね)


 だが、ミシェルは別の危険性をそのように指摘する。

 この場に血が流れたのだ。

 また、傷ついて死んだホーンラビットもそのまま地面に横たわっている。


(私、そういうのなんて言うか知ってるよ)

((フラグ))


 レーナとミシェルがはもった。

 だが、そんなフラグはすぐさま回収される。





 グルルルル


 少年が、うなり声を聞きつけ、その音のする方向を見て目を見開く。

 ホーンウルフだ。

 一頭だけだが、今の少年には荷が重い。

 そもそも、ホーンラビットですら倒せなかったのだ。


 完全なる絶対絶命。

 少年は、少女を背負って後ずさる。

 もう武器を持つことができない。

 両手は負ぶった少女の膝を抱えている。


 うなり声をあげて少年に近づくホーンウルフ。

 ホーンウルフに向き合いながらも、後ずさる少年。


 そこへ、


 ザシュ! ザシュ! ザシュ! ザシュ!……


 ホーンウルフの首にアイスランスが突き刺さった。

 また、少年の足元にもアイスランスが突き刺さっていく。

 少年はホーンウルフがアイスランスで倒されたことにも驚いたが、それを見てはいられない。

 自分の足元にも刺さってくるのだ。


 少年は、慌てて走り出す。

 少女を背負ったまま。

 しかし、アイスランスは少年を追いかけるかのように地面に刺さってくる。

 このままだと、自分にもアイスランスが刺さりかねない。

 そうしたら、自分もリズも死んでしまう。


 少年は走った。森の外を目指して。




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