美鈴改めミシェル
レーナと美鈴は横に体を動かし、高位精霊ではないと否定する。
「もしかして、大精霊様?」
レーナと美鈴は再び否定する。
それを聞いて、リスベルが補足する。
「アシュリー様、このお二方は、低位精霊様です」
「低位?」
「はい。そうなのですが、自ら意思を示し、意思の疎通ができ、自ら魔法を使い、そして、何より大きい。このような低位精霊様は規格外中の規格外なのだと思います。おそらくですが。私はこのような低位精霊様にお会いしたことはございません。将来の大精霊様となられることは間違いないかと」
((……))
低位低位と言われ、二人の気分は少し落ち込む。事実なので仕方がないが。
「もしかして、お名前までお持ちですか?」
レーナは、風魔法でペンを動かす。
初見のアシュリーは固まっている。
「レーナ様?」
レーナは縦に体を動かす。
美鈴がペンを動かす。
「ミスドゥ様?」
美鈴は横に振る。
「ミスダゥ様?」
美鈴は横に振る。
(あはははは。こっちの世界の人に、『ズ』の発音は難しいのよ、きっと。これを期に改名しちゃう? 私も本名は玲奈だし)
(そんなこと言ったって。確かに美鈴ってアイドルっぽくないかもしれないけど……)
(ミッシーとか?)
(……どこの湖の未確認生物ですか)
美鈴はあきらめてペンを動かす。
「ミシェル様」
美鈴は縦に動く。
(ミシェル、いい名前じゃない)
「ああ、レーナ様にミシェル様、お名前まで持たれている低位精霊様なんて」
(ちょっと低位低位って、馬鹿にされてるような気がしてきた)
(ええ。そうかもしれないわね)
二人は、ふっと光を消す。
「あー、申し訳ありません。何かご気分を害するような……」
レーナはペンを動かす。
『眠い』
と。
「あ、申し訳ありません。それでは、お休みください。私は床に」
レーナは再びペンを動かす。
『いいから、真ん中に寝ろ。でないと吹き飛ばすからな』
「は、はい!」
リスベルは、ベッドの真ん中に横になった。
「あの、アシュリー様、いつまでそこに?」
「あ、ごめんなさい、精霊様方。それではお休みなさいませ」
アシュリーが部屋を出て行き、レーナと美鈴改めミシェルはリスベルの両脇にもぐりこみ、光を消した。
翌朝、先に起きていたリスベルが声をかける。
「レーナ様、ミシェル様、おはようございます」
レーナとミシェルは光ってその存在を示し、縦に体を振った。
「レーナ様、ミシェル様、僭越ではございますが、私からの提案がございます」
レーナとミシェルは体を傾ける。
なあに? のポーズだ。
だが、まん丸ボディでそれをやっても、気づく者は少ない。
リスベルもわからなかったが、気にせず続ける。
「お二人は、私どもの旅に同行いたしませんか? 何か目的を持って旅をされているのと想像いたします。私はそのお手伝いをさせていただきたいのです。ただ、今は、先に仕事が入っておりますので、アシュリー殿下とグリュンデールまで行かねばなりません。ですが、その後でしたら、お二人について行けます」
レーナとミシェルは横に体を振る。
「え、なぜでしょうか」
ミシェルはペンを動かす。
『私達は高位精霊を探す旅をしている。そのために森へ入る予定だ。だから、ついて行かない。逆に、エルフの里がどこにあるのか教えて欲しい』
リスベルは苦い顔をする。
ミシェルの求めるエルフの里の情報は機密事項だ。
エルフ自身、また精霊の居場所を教えて襲われでもしたら大変なことになる。
「申し訳ありません。エルフの里の場所は教えてはならないことになっております。それは同朋を裏切る行為に等しいのです」
『ならいい』
とだけ、メモするミシェル。
その冷たい書きっぷりに冷や汗を流すリスベル。
しかし、ミシェルは全くそんなつもりはない。
どうしていいかわからず、戸惑っているリスベルを見て、レーナは、もう話は終わった、とばかりにミシェルに声をかける。
(ミシェル、起きちゃったし、行く?)
(そうね。行きましょうか)
レーナはペンを動かす。
『ありがとね』
それだけ書いて、二人は姿を消し、窓から出て行った。
「あー、レーナ様、ミシェル様ー」
窓から身を乗り出して叫ぶリスベル。
「リスベル、うるさいわよ」
実際、まだ朝も早い時間だ。
レーナとミシェルに対して、一人でしゃべっている状態だったリスベルのその声に目を覚ましてしまったアシュリー。
アシュリーがリスベルの叫びを聞いてリスベルの部屋へ入ってきた。
リスベルの叫びから、精霊が出て行ったことはすでに理解している。
「だって、精霊様が」
「精霊様なんて、自由なものでしょ、知らないけど。とどめておけるものじゃないんじゃないの?」
「そりゃそうですけど。あんな精霊様、初めてお会いしたので」
「エルフが精霊を崇めているのはわかるけど、イングラシアに住んでいるのだから、イングラシア教の創造神を崇めてもいいんじゃないの?」
「それはお断りします。神としては、ロッテロッテの二柱の神を崇めておりますので。それに殿下、だからと言って、ロッテロッテの総本山ともいえるローゼンシュタイン領都を無理やり素通りするのはどうかと思いますが」
「よかったじゃない。だから精霊様方にお会いできたんでしょ。ローゼンシュタインに宿泊していたら会えなかったわよ」
「むぅ。そうかもしれませんが」
「ご飯ですよー、アシュリー様ー、リスベル様ー」
部屋の外からアシュリーとリスベルを呼ぶ声が聞こえてくる。
「「はーい」」
「宗教戦争は休戦としましょうか」
「そうね。おなかが空いては戦もできないものね」




