ミサが始まる……
日が暮れて、だんだんとあたりが暗くなってくる。
客席が人で埋まってくると、レーナと美鈴は、人が集まっているのが客席だけではないことに気づく。
客席の周りも、ものすごい人が集まっている。
「ねえ、この自由席、すごい人が集まってるけど、本当にただで見せるの?」
レーナが周りを見回しながら疑問を口にする。
「ええ、そうよ。客席だけで十分な利益を得ているわ。それに、その後のグッズ販売でもね」
「グッズ販売は、自由席の人たちも買えるのよ」
「な、なるほど」
実際には、ロッテロッテのミサは、ロッテロッテ教の布教活動の意味もあるため、なるべく多くの人たちに見てもらうことにしているのだ。
当然グッズ販売も。
さらにあたりが暗くなってくると、やぐらの上に設置された照明が会場を照らす。
「あれもやっぱり魔道具なの?」
レーナがやぐらを見上げる。
「そうよ。お父さんって、このミサを良くするために、技術開発を頑張ったらしいの」
「お父さんもロッテロッテのファンだもんね」
「やっぱり、技術開発のモチベーションは推し活ってことよね」
しらゆきとみゆきは、父親たるグレイスの行動原理をそう推測する。
「「……」」
レーナと美鈴は、どこの世界も同じだと、そう思う。
すっかり夜が更けると、突然、照明が消えた。
すると、会場中のペンライトの明かりが波のように揺れる。
「「「「「うぉー!」」」」」
会場が割れんばかりの歓声が上がる。
そう、ミサが始まるのだ。
そんな中、ゆっくりとした演奏が流れてくる。
すると観客は、盛り上がるわけではなく、逆に声を潜めて指を組んで祈りをささげ始めた。
観客席ではベンチに座ったまま。自由席では膝をついて。
「「……」」
レーナと美鈴は何が起こるのかと固まっている。
静かに始まるアイドルのコンサートなど、見たことがない。
そんな二人にしらゆきがそっと伝えた。
「上を見て」
二人が空を見上げる。
あれ、あんな明るい星があったかな?
レーナと美鈴が空に浮かぶ緑と青の星を眺める。
すると、突然、その二つの星が流れた。
星は、会場に向かって流れてくる。
そして、会場の周りを一周、二周として、会場の真上でとどまった。
レーナと美鈴がその二つの星から目を離せないでいると、
パアン!
と、星がまばゆくはじけた。
瞼の無い二人は、その光の粒子の広がりを見続けていた。
まぶしかったが。
きれい……
レーナも美鈴も流れゆく光の粒子に見とれてしまう。
が、光の粒子にばかり見とれてはいられなった。
その光の中から二人の天使が現れたのだ。
真っ白な大きな翼を背中からはやし、真っ白なワンピースを着た、金の髪と銀の髪の二人の天使。
その二人が、手を合わせて向かい合って宙に浮いている。
光の粒子を未だにまき散らしながら。
なんて幻想的な……
レーナ達のコンサートとは全く真逆。
アイドルのコンサートと言うよりは、宗教的だ。
たしかに『ミサ』という単語が適切だと感じる。
しかし、レーナも美鈴もわかっている。
あれは昨日会ったリーゼロッテとシャルロッテだ。
決して神様でも天使でもない。
レーナとミシェルは二人が本当に天使だと言うことは知らないが。
その二人が、スケートを滑るかのようにスライドして踊り始めた。
ゆったりとした曲に合わせて。
光の粒子の尾を引きながら。
どこまでも幻想的に……。
レーナも美鈴も二人の天使に見とれ、見続けてしまう。
観客も同じように指を組んで見続けているのだが、レーナも美鈴も同じく二人の天使に目を奪われた。
ここで目に見える光は、二人の天使自らが発している光だけだ。
ゆったりとした音楽が終わりに近づく。
天使の二人は、宙で少しずつスピードを落とし、ポーズを決めた。
音楽が止んだ瞬間、二人の天使がふっと消え、再び暗闇が訪れた。
すると、今度は突然、
パァン!
と、ステージが照明に照らされた。
そこには、二人の天使がいた。
そして、大きく手を振り、満面の笑顔を持って。
先ほどの厳かな雰囲気とはうって変わり、その笑顔も動作も、すべてアイドルそのものだ。
「###ロッテロッテ###」
こっちの世界の言葉で話をしてるのか、レーナと美鈴には固有名詞しか聞き取れない。
ドン!
バスドラが大きくなったと思ったらアップテンポの曲が始まる。
「「え?」」
ドラム、ウッドベース、アコースティックギター、ピアノ、マリンバ。
それぞれの楽器が音をつむぎ、観客を乗せていく。
「ッハイ! ッハイ! ッハイ! ッハイ! ッハイ! ……」
レーナと美鈴が横を見ると、しらゆきとみゆきもこぶしを上げて叫んでいる。
ステージ上の二人の天使は、頭の上で手を打って、観客をあおっていく。
「######」
「ッリーゼ!」
「######」
「ッシャルル!」
「ッハイ! ッハイ! ッハイ! ッハイ! ッハイ! ……」
天使の二人がステージ中央で息を合わせてジャンプをすると、その瞬間、ステージが光り、天使の二人の後ろに、三人のダンサーが現れた。
「あ、あれ!」
れーちゃんとドライアとディーネだ。
三人は、ダンスをしながら、精霊を光り輝かせてステージを飾る。
だが、それよりも、リーゼロッテとシャルロッテの二人のステージだ。
レーナも美鈴もリーゼロッテとシャルロッテの二人から目が離せない。




