足手まとい……
城門から騎馬が何頭も駆けて出て来た。
「カタリナ様! カタリナ様!」
バサラだ。
リスベルに抱きかかえられているカタリナに気づき、馬を寄せるバサラ。
「カタリナ様は、気を失われているのか。あの、巨大な炎の竜巻はカタリナ殿がやったのですな。魔力欠乏を起こしたのですかな?」
カタリナを抱きかかえているリスベルに、馬を降りたバサラが尋ねる。
カタリナには傷がない。
すでに治療済みだ。
よって、何が起こったかを見ていない者にはカタリナが魔力欠乏で倒れている様に見える。
しかし、リスベルはバサラの問いに答えることができない。
正しく事情を説明することができない。
なぜなら、あのこれまでにない巨大な炎の竜巻はレーナとミシェルの魔法なのだ。
それに、カタリナを刺したのは悪魔。
悪魔が襲ってきたなどと、知られていいものかどうか……。
その空気に、シフォンがバサラに問う。
「黒いバッタの対処はどうなっています?」
「人を襲うあの黒い殺人バッタについては、大雨と雷のおかげで地に落ちたため、住民と騎士や兵士全員で踏みつぶしたりまとめたりして処理しました。ですので、領都の中はすでにほぼ終わっています。多少生き残ってもバッタがかみつくくらいですので、大きな怪我にはなりません」
バサラはカタリナに視線を向けて話を戻すべく、質問を返す。
「あの、領都に限定された雨、そして雷。あれもカタリナ様なのですかな?」
「「「「……」」」」
リスベルもシフォンも、アシュリーもトルテも答えることができない。
バサラはカタリナ達をねぎらう。
「今日がバッタの発生量のピークだったとはいえ、すでに皆様方がここまで対処してくださった。本日分の残りは我々に任せていただきたい。黒いバッタがいても、もう数は少ないでしょう。よろしければ、我が屋敷でお休みください。カタリナ様を休ませて差し上げてください」
と、バサラは連れて来た馬車を指さした。
「お心遣い、感謝申し上げます。そうしましたら、お屋敷にて少し休ませていただきます」
シフォンが丁寧に頭を下げた。
「よし、お前達。ここから先は私達がやるぞ!」
バサラが騎士達に声をかける。
「「「「おー!」」」」
騎士達も声をあげて、馬を走らせた。
「リスベル、カタリナ様を馬車に」
「はい」
「アシュリー、すーちゃん様にお声をかけて来て」
「はい」
リスベルはカタリナを抱えて馬車へ、アシュリーは、すみれ姫の下へと向かった。
「すーちゃん、馬車に乗ってお屋敷へ行こう。お屋敷で休んでいていいって」
「……」
(すーちゃん、今日は休もう)
レーナも声をかける。
(そうだよ。バッタもいっぱい倒したから、今日はもう大丈夫だと思うわよ)
すみれ姫は三人の声掛けに、ゆっくりと立ち上がった。
六人とレーナとミシェルは、カッツェリアの領主、バサラの屋敷へと馬車で移動し、あてがわれた部屋で休んだ。
カタリナとすみれ姫はベッドで横になっている。
カタリナはまだ目を覚まさない。
ソファにリスベルとアシュリーが横に並んで座り、シフォンとトルテが向かいに座った。
レーナとミシェルはそれぞれリスベルとアシュリーの膝の上だ。
リスベルもアシュリーもレーナとミシェルをなでているが、レーナもミシェルも姿を消しているので、エアでなでているように見える。
「そこに、精霊様方いらっしゃるわよね」
シフォンが確認する。
レーナとミシェルは、体を光らせて見せる。
「あぁ、精霊様。私の膝の上には来てくださらないのかしら……」
ガツッ!
そう言うシフォンに、トルテが肘を入れて現実に戻す。
「ん、んん」
シフォンがわざとらしく咳払いをして、発言する。
「精霊様方。なぜ、あそこに悪魔が?」
レーナがぽよぽよとリスベルの腿の上で動き、合図を送る。
「トルテ、紙とペンを用意していただけませんか?」
リスベルの言葉にトルテは首をかしげながらデスクから紙とペンを持ってきてテーブルに置いた。
すると、ペンが浮き上がる。
それを初めて見たシフォンとトルテは目を見開いて驚く。
「これは、これは魔法なの? こんな繊細な……これは風魔法?」
「まさか、風魔法でペンを操作して字を書くと?」
リスベルとアシュリーは答えない。
だが、レーナがペンを操作して答える。
『なぜ悪魔があそこにいたのかは知らない。でも、悪魔がバッタを黒くして、人を襲わせたのは事実。そう言っていたから』
「なぜ悪魔はそんなことを?」
レーナはペンを使って、先に書いた『知らない』の文字を丸く囲った。
そして、
『ただ』
と、付け加える。
シフォンもトルテもそのペン先に集中する。
『悪魔は魔力の強い人族を捜している。つまり、強い魔法を使う人族を』
「つまり……」
『実際には、リノ女王陛下らしいけど』
レーナはそこでいったん区切り、もう一度ペンを動かす。
今後のことに関わる話をするために。
『私達はかつて悪魔と戦っている。その時は、すーちゃんはいなかったけど、今回は、すーちゃんが表に立って戦った。だから、今後、すーちゃんが悪魔達に狙われてもおかしくはない』
「すみれ姫様は高位精霊ですが」
『今日の悪魔の様子を見る限り、悪魔はすーちゃんを精霊だと認識していなかった』
「だから、今後は、すみれ姫様が魔力の強い人族として、悪魔に狙われる可能性があるということですか?」
『そう思う』
レーナはペンをトントン、と紙を二度たたいて、
『だけど、まだ時期ではない、とも言っていた』
と、追記する。
「では、しばらくは来ないということでしょうか」
レーナは再び『知らない』に丸を付ける。そして、紙を二度トントンとたたき、
『私達といると危険かもしれない』
「「「「……」」」」
『私達とすーちゃんは精霊。だから、いざとなったら消えて逃げることができる。たとえ半身が削られても元に戻ることもできる。でも、貴方達はそれが出来ない』
「「「「……」」」」
皆が息をのむ中、アシュリーが声を上げ、レーナの意図を確認する。
「それは! それは! 私達が邪魔だってこと!」
リスベルは事実を突きつけられ、奥歯をかみしめる。




