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撃退……

 すみれ姫の笑顔に焦るベルド。

 これほどまでに傷ついてなお、この少女は笑っていられるのか。

 しかも、『捕まえた』ってなんだ?


 ベルドが冷や汗をかいていると、


 ザシュザシュザシュザシュザシュ…………


「ぐわーーーー!」


 無数の風の刃が現れ、ベルドを削っていく。

 一つ一つの刃の殺傷力は低いが、皮膚を、ツノを、尾を、翼を風の刃が削っていく。

 傷口の上からさらにえぐっていく。

 ベルドの回復力は追いつかない。

 腕も足も切り刻まれ、立っていられなくなる。


 そこで、すみれ姫は再び心の中で叫ぶ。

 『レーナ、ミシェル』と。


 その瞬間、動けなくなったベルドとすみれ姫からアイスランスが消え、そして、


 ドゴーーーーン!


 二条の雷鎚がすみれ姫を巻き込んでベルドに落ちた。


「グハッ!」


 すみれ姫とベルドを串刺しにしていたアイスランスは、雷鎚の前に消えていた。

 すみれ姫を刺していた悪魔の剣も雷鎚により消滅した。


 悪魔は、崩れ落ちた。

 だが、まだ死んではいない。


「すーちゃん様、心臓を、心臓を刺して!」


 リスベルが声を上げる。

 しかし、すみれ姫はリスベルの言葉を拒否する。


「リスベル、すまない。まだ聞きたいことがある」

「……」


 すみれ姫は、黒焦げになってなお意識のあるベルドの横に立ち、そして問う。


「ラテを殺したのは誰だ。どこにいる!」 

「シ……、……」


 言葉にならないうめき声しか上げられないベルド。


「シ、ラ……」


 悪魔の回復力をもってして、少しずつ、話せるようになるベルド。


「知、ら、ねぇ、よ」


 ドガッ!


 すみれ姫がベルドの頭を殴りつけた。


「誰だ! どこにいる!」

「あは、は、は。言う、わけ、ねぇじゃん」


 ドガッ!


「く、くそっ! なら、死ね!」


 と、すみれ姫が叫んだ瞬間。


((すーちゃん!))


 と、レーナとミシェルも叫んだものの遅かった。


 ドゴッ!


 すみれ姫が蹴り飛ばされた。


 ゴロゴロゴロ。


 転がるすみれ姫。


 そこにはもう一人、女性の悪魔が立っていた。


「あーあ、ひどい有様ですわね」

「う、ウルザかい」

「えぇ。隊長に言われましたでしょ? まだ手を出す時期じゃないと」

「ご、ごめんて」

「じゃ、帰りますよ」


 ウルザはベルドの腕を持ち上げ、何とか立ちあがらせる。


 ベルドとウルザの会話に、立ち上がったすみれ姫は、ラテの剣を悪魔達に向かって飛ばす。


 しかし、


 シュン!


 ウルザはベルドを連れて消えてしまった。


「くそっ!」


 すみれ姫が膝をついて、地面を殴りつける。


「殺せなかった。殺せなかった悪魔を! ラテの仇を!」





「レーナ様、ミシェル様!」


 カタリナの傷口に布を押し当てて血止めをしているリスベルが二人の名前を叫ぶ。


 ぽわん!


 レーナは急いで治癒魔法を飛ばし、治癒魔法をかけられたカタリナが緑色に光った。


「あぁ、レーナ様、ミシェル様……」


 リスベルが感謝の声を上げる。


「カタリナ様は大丈夫なのか!?」

「カタリナ様は助かるのか!?」


 リスベルに向かって叫ぶシフォンとトルテ。


「ええ。大丈夫です。レーナ様とミシェル様は最高の治癒魔導士ですから」

「「ありがとうございます。レーナ様、ミシェル様」」


 指を組んで祈るシフォンとトルテ。

 どこに二人がいるか、二人はエルフなのでなんとなくわかる。





 レーナとミシェルは未だ四つん這いになって地面を殴っているすみれ姫の下に行く。

 レーナはすっと、すみれ姫のこぶしの下に潜り込んだ。


 ポヨン!


 地面に向けられたすみれ姫のこぶしがレーナによって阻まれた。


(すーちゃん)


 ミシェルがすみれ姫のほほにその体を寄せる。


(すーちゃん、すーちゃんの手は私達を抱きしめてくれるためにあるんでしょう。守ってくれるためにあるんでしょう。傷つけちゃだめなのよ)

(そうだよ、すーちゃん。すーちゃんもいっしょにアイドルになるんだから。手は指の先まで大事にしなきゃ)


 ミシェルとレーナは何とかすみれ姫をなだめようとする。

 しかし、すみれ姫は怒りが収まらない。


「私は、いくらでも再生できるから。上半身が無くなっても、ラテはできなかったけど、私はできたから。できるから!」


 地面を殴ることぐらい、何でもない、すみれ姫はそう訴える。


(わかっているよ。私達だってそうだもん。でもね、その手は傷つけられるべきじゃない。その手は、見てもらうためにあるんだよ。指の先までね。決して傷つけられるところを見てもらうものじゃない。すーちゃんの手は、その動き一つ一つで、人を幸せにできる、魔法の手なんだよ)


 レーナにそう諭されたすみれ姫はぎゅっとレーナとミシェルを抱きしめた。


(でもわかるよ。私達だって、悔しいもん。ラテの仇を取りたい。何の話もせず、突然ラテの命を奪った悪魔を殺してやりたい。そう思う)

(それなんだけど)


 ミシェルが冷静に言う。


(悪魔は強力な魔導士を捜していた。ラテの時は私達が追い返したから、誰が魔導士なのかわかっていなかったと思う。その時はすーちゃんも倒されちゃったし。でも、今回は違う。すーちゃんが悪魔と戦って、魔法で悪魔を撃退した。それに、あの感じから、すーちゃんが精霊だと認識されてない。だから、悪魔達は、すーちゃんのことを高位の魔導士、探している魔導士だと思い込んでいないかしら)

(それ何? 今後は、すーちゃん狙いで悪魔が襲ってくるかもしれない、ってこと?)

(うん。でも、生きたままってことみたいだから、殺されないと思うんだけど)

(それってさ、今度来たら、「ついて行きます」って言ってついて行ったら、ラテを殺した悪魔に会えるのかな?)

(それはわからないけどね。でも、まだ時期じゃないって言っていたから、しばらく来ないのかもしれないけれど)

(時期じゃない?)

(もしかしたら、私達が撃退した悪魔がまだ完全回復できていないのかもしれないわ)

(でも、悪魔の回復力は強いから、そんなに遠い未来でもないのかもしれないよね)

(となるとなんだけど)


 ミシェルがリスベル達を見る。


(ミシェル、リスベルとアシュリーを一緒に連れて行くと危ないってこと?)

(うん。私達は消えれば逃げられる。半身削られたって元に戻れる。でも、リスベル達は違う)

「(……)」





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