すみれ姫 VS 悪魔ベルド
ベルドにはじかれた剣をレーナとミシェルが視線で追う。
(ラテの剣!)
その剣がラテの剣だと気づく二人。
と言うことは……。
((すーちゃん!))
二人が振り向くと、城門からすみれ姫が歩いて出てきた。
その顔は、少女の顔であるが、怒りに満ちていた。
その後ろからカタリナ、シフォン、トルテ、リスベルとアシュリーも門から出てきた。
すみれ姫が地に落ちたベルドと対峙する。
「お前は人でなしか?」
すみれ姫が悪魔、ベルドに問う。
ベルドはその質問の意図がわからず、一瞬唖然とするが、笑いながら答えた。
「は? お前は馬鹿じゃないのか? この姿が人族のわけがないだろう。人のわけがない」
「お前は南の山脈に囲まれた湖で、人間を殺したか?」
ベルドはすみれ姫に問われたことを考える。
ベルドはこの階層で誰も殺していない。
というより、最近シモン隊長とこの階層に出てきたのだ。
それに、その人間を殺したのはおそらくシモン隊長だろう。
「いや、殺していないね」
「では殺した悪魔を知っているか」
ベルドは内心ほくそ笑む。
この少女は会話をしてくる。
つまり時間稼ぎができる。
なら、今負ったこの傷もその間に癒えるだろう。
「人間を殺した? 僕は知らないな。それはどんな悪魔なんだい?」
「……」
すみれ姫もその悪魔がどのような悪魔なのか知らない。
すみれ姫はラテと一緒に一瞬で上半身を持っていかれて気を失ったために、その悪魔を見ていないのだ。
仕方なくすみれ姫が答える。
「私には悪魔の見分けがつかない」
「それじゃ、僕もわからないな。で、僕から聞いていいかい。せっかくバッタを草食から肉食に変えてみたのに、何で殲滅しようとするんだい? これはバッタの意思だし、これを期にバッタが進化できるかもしれないじゃないか」
「人を襲ったからだ」
「あれ? 僕が肉食にする前からバッタを殲滅していたよね」
「人の食料を奪うからだ」
「人の食料を奪う? だからバッタの命を奪うの? しかも大量に?」
「食べ物が無くなったら人が死ぬかもしれないじゃないか」
「バッタだって食べ物を食べたくて移動しているだけなのに、食べる前に殺されちゃってるよ。ねえ、君、バッタの命を勝手に奪ってるんじゃないよ。そんな奴が、人間の命が奪われたからって怒ってるのはおかしいんじゃないか!? 君こそ人でなしかい?」
「……」
ベルドは続ける。
「バッタの命を奪っておいて、人間の命を奪っちゃダメってどういう理屈かな。バッタの命を奪う人間がバッタに命を奪われるのって、なにもおかしくないよね?」
すみれ姫の思考が止まり、動けないのを見て、ベルドはニヤリと笑う。
傷が回復した。
「どうなのさ、人でなし」
そうベルドが言葉を発したと同時に、ベルドの姿が消えた。
翼の推進力を使った最大速度ですみれ姫に迫りそのスピードを乗せた剣をすみれ姫に突き刺した。
動揺したすみれ姫は動けない。
ザシュ!
「グハッ!」
「「「「「((カタリナ!))」」」」」
ドサッ!
すみれ姫の前に立ちはだかったカタリナが崩れ落ちた。
その脇腹から血を流して。
「あーあ、その子、何で飛び出してきちゃったのかな。君が死ぬはずだったのに。君のせいじゃない? 君がその子を殺したんだよ」
そう言って、ベルドはカタリナから剣を抜き、再びすみれ姫から距離を取った。
「リスベル、アシュリー、カタリナを」
そう言って、すみれ姫は、倒れたカタリナから離れた。
すみれ姫が怒っている。
怒りをより強めている。
それは誰が見ても明らかだった。
「すーちゃん様……、惑わされないでください。奴は悪魔です。人でなしです……」
そのカタリナの声を聞きながら、すみれ姫はベルドをにらみつけた。
「カタリナを傷つけた。私はお前を許さない!」
すみれ姫はそれと同時に念じる。
レーナ、ミシェル、と。
レーナとミシェルはその合図に魔法の準備のため、移動を始める。
そして、すみれ姫はラテの剣を風魔法で呼び寄せて構える。
一方、剣を肩にトントンと当てて余裕ぶるベルド。
「許さなかったらどうするのかな? その子と一緒に死ぬって?」
あはははは、と、ベルドは笑う。
「ねえ、一つ聞いていい? さっきの雨とか雷とか炎の竜巻とかさ、君の魔法? それとも君のお仲間? さっき、剣を飛ばしたの、魔法だよね? 君も魔導士なんでしょ?」
「誰だっていいだろう」
「だーめ。僕ら、強力な魔導士を探しているんだよね。殺したくないんだよ。連れ帰らないと怒られちゃうからさ。その魔導士だけは殺せないんだ。だから、君がその魔導士かどうか、教えて欲しいんだけど? それとも、後ろにいる誰かかな!?」
「じゃあ、違う。私じゃない」
すみれ姫はきっぱりと答えた。
「そ、つまり、死にたいってことだね」
そう言ってベルドは舌なめずりをし、剣を構えたと同時に、高速移動で姿を消した。
「死ね!」
ザシュ!
ザシュザシュ!
「グハッ!」
ベルドの剣はすみれ姫を切り刻み、そして、最後には胸を貫いた。
しかし、それと同時に、ベルドの後ろから、すみれ姫の後ろから、二本のアイスランスがすみれ姫とベルドを同時に、かつ、二人をつなぎとめるかのように貫いた。
剣を貫かれたままのすみれ姫。
ベルドと一緒に二本のアイスランスで貫かれたすみれ姫。
そのすみれ姫はニヤリと笑う。
「捕まえた」




