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ブチブチブチ……

 ここは宿屋の中だ。

 魔法を使うわけにはいかない。

 だが、黒いバッタは容赦なく手に、顔に、衣類に覆われていない肌に向かって飛んでくる。

 皆でナイフを握り、必死で迎撃する。

 これまでのバッタと、この襲ってくるバッタとでは全く異なる。

 この黒いバッタは、牙をむいて人を狙ってくるのだ。


 ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! ……。


 宿に入って来たバッタはそうは多くない。

 しかし、確実に自分達に向かってくる。


 ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! ……。


 何とか宿屋に入って来た黒いバッタの対処が終わる。


「何でこんな……」


 リスベルがつぶやく。

 その一方で、


「怪我を負ったものはいるか!」


 と、カタリナが宿中に響く声を上げる。

 すると、何人かの冒険者が手を上げた。


 カタリナが、それら冒険者を認識すると同時に、緑色の光が飛んで行って、それぞれの怪我が治って行く。

 その光景を見た冒険者たちは、その初めて見る飛ぶ治癒魔法に固まる。


 この後の展開を読んだカタリナは、先制する。


「私は女神ではない。しかも、そんなことは今は置いておけ」


 そう。

 今は何より先に対処しなければならない問題が生じている。


「まず、昨日と違ってバッタが黒い。それから、人を狙ってくる。さっきの鳴き声から猫にも襲いかかっているのか? ともかく、バッタは襲ってくる。これをどうにかしないと」

「ですが、今日が最大規模となるのですよね。この危険極まりないバッタの群れを、東に流していいのでしょうか」


 シフォンがカタリナに尋ねる。


「いいわけがない」


 そう、カタリナが断言したところで、


「ぎゃぁ!」


 と、冒険者が声を上げた。

 窓から外を見たらしい。

 実際には外を見ることが出来なかった。

 なぜなら、窓が黒いバッタに覆われていたからだ。


「こんなにも黒いバッタが!」


 カタリナは奥歯をかみしめる。

 こんなにも人を襲うバッタがたくさんいたら、対処なんてできない。

 正直、襲われないとわかっているからバッタの群れに入って行けたのだ。

 今出て行ったらおそらく、自分がバッタに覆い尽くされ、食いちぎられてしまうだろう。

 しかし、シフォンが言うように、このバッタをなるべくこのカッツェリアでくい止めなければならない。


「どうしたら」


 カタリナのその言葉に、レーナとミシェルがすみれ姫にしか届かない声を上げた。


(すーちゃん、私達が行ってくる)

(そうね。私達ならかじられる心配はないもの)

「なら私も」


 そう言うすみれ姫にレーナが尋ねる。


(どうやって殲滅するのがいいと思う?)

「どうしたら、か」


 すみれ姫のその悩みのつぶやきに口を挟んだのはカタリナ。


「昨日のようなサイクロン系では、すべてをやることは難しいだろう。広範囲とはいえ、街中ではどうしてもその規模は限られるし、細い路地などでは、その魔法を放てまい」

(バッタは飛ぶから厄介なのよね?)

(そうね。顔にも体にも向かって飛んでくるから)

「バッタを飛ばさなければいいのか? 落とせばいいのか?」


 すみれ姫の言葉にカタリナが答える。


「飛べないのであれば、とにかく踏みつぶせばいい。叩き潰せばいい。飛びかかられないのであれば、怖くはないだろう」

(じゃあ、私達が落としてくる)

(うん。レーナとやってくるね。すーちゃんは待ってて)


 そう言って、レーナとミシェルが宿から飛び出した。

 壁をすり抜けて。





 レーナとミシェルは空へと高く高く昇っていく。


(あんまり高く昇っても魔法が分散しちゃうよね)

(そうよね。でもバッタより高く飛ばなきゃよね)

(そうなんだけど、結構高く飛ぶのね、このバッタ)

(もうちょっと高く昇らないとね)


 二人はどんどん高度を上げて行く。


(それじゃ、この辺りでやりますか)

(そうね。レーナが雨でいい?)

(うん。いいよ。それじゃ、行くよ。レイン!)


 ザーザーザー……


 レーナから半径百メートルほどの範囲に雨が降る。

 そして、雨がバッタを濡らしていく。


(それじゃ、やるね。ディスチャージ!)


 バシィ!


 ミシェルにより雷が四方八方に撃ちこまれていく。

 飛んでいるバッタは、雨に濡れ、雷に撃たれて落ちていく。

 建物や地面では、濡れたバッタが感電していく。


(じゃあ、次。移動して)


 と、レーナとミシェルは、少し移動しては、雨を降らせて雷を四方八方にまき散らす。


 ザーザーザー……

 バシィ!……

 ザーザーザー……

 バシィ!……

 ……

 ……





 宿屋に残っていたすみれ姫達は、窓から外を見ていた。

 とはいっても、窓のほとんどがバッタに覆われていたが。


 そこで突然、雨が降り、そして、雷が落ちた。


 バシィ! ドォン! ゴロゴロゴロ……

 バラバラバラバラ……………………


 雨に濡れたバッタが空から落ちてくる。

 そして、そこへ雷が四方八方に飛び散り、また、落ちてはバッタを感電させていく。

 壁や屋根からもバッタが雨と一緒に流れ落ちてくる。


 それを見てカタリナが声をかける。


「よし、出るぞ、バッタをつぶせ!」


 カタリナとすみれ姫を先頭に、リスベルとアシュリー、シフォンとトルテ、冒険者たちが外へ飛び出していった。


 雨の中、道に、軒下に積み重なるバッタ。

 屋根の上からは、雨に流されてバッタが落ちてくる。


 すみれ姫達はひたすらバッタをつぶす。


「雨じゃなかったら火魔法で燃やしてしまいたいよー」


 という、アシュリーの嘆きも雨に流される。


 ブチブチブチ……ブチブチブチ……


 ひたすら踏んで潰していく。


 ブチブチブチ……ブチブチブチ……

 ブチブチブチ……ブチブチブチ……

 



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