悪魔の血と黒色バッタ
悪魔ベルドは右手を開き、その爪を伸ばす。
そして、自分の左胸にその爪を突き刺した。
爪を伝い、指を伝い、流れ出る悪魔の血。
「さあ、僕からの誕生のプレゼントだ。是非、朝露と一緒に飲んで欲しい」
ベルドがその血に濡れた手を左から右へ大きく振り切った。
すると、その血が霧状になって空間に広がっていく。
そして、その血は、草に、木に、岩に、血の水滴となって付着していく。
「それは、僕の血。悪魔の血だ。この血は君達の望みを叶えるだろう。君達の遠く遠く東へと飛んでいきたいというその思いも、おいしい野菜も肉も食べたいという思いも、きっと叶えてくれる。是非、朝日が昇ると同時に飲んでくれ。そして、飛べ! どこまでも! そして食え! すべての物を食い散らかせ!」
ベルドは、再び胸に爪を立て、血を霧状にして振りまく。
場所を移動して、あちらこちらに。
「あははははは……」
翌日に起こるであろう光景を楽しみにしながら、ベルドは笑う。
翌日、日が昇る前からカタリナ達は食堂に降りてきた。
同じくすみれ姫達も。
今日は、バッタの発生がピークだと予想される日。
自然と気合が入る。
六人はテーブルを囲んで朝食をいただく。
「今日はバッタの発生量が最も多いと予想されているわ」
カタリナは口調を使い分けるらしい。
内と外とで。
「バッタは、日が昇ると同時に動き出す。だけど、私達三人は、朝一で冒険者ギルドへ行き、冒険者登録してから殲滅に参加するわ」
「ん。わかった」
すみれ姫が承諾する。
「なるべく早く来てねー」
アシュリーがカタリナにお願いをする。
カタリナとシフォンとトルテの三人が頷く。
森の中では、少しずつ日が差し、明るくなってくると、バッタが動き出す。
土から出た、羽も乾いた。
バッタは赤く染まった夜露を口にする。
悪魔の血を飲んだバッタの体色が変化していく。
薄茶色の羽、胴体が、黒く黒く染まっていく。
空から見ていたベルドはその光景を見て満足する。
茶色のバッタで覆われていた地面、木々は、バッタの変色と共に黒く黒く染まって行く。
「あはははは、あはははははは」
ベルドはバッタに話かける。
「さあ、行こうか。君達の旅の始まりだ」
そう言って、ベルドは漆黒の翼を広げ、そして、大きく羽ばたかせて、風を起こした。
バサバサバサバサ……!
大量の、おびただしい数の黒いバッタが羽を広げ、羽ばたかせ、空に飛び上がる。
森の右側から森の左側から森の奥から。
黒いバッタが空を覆いつくしていく。
明るくなり始めた森に、再び闇が訪れるかのように。
バッタたちは東を見据え飛ぶ。
「さあ、まずはその街に行っておいで。そして、食い尽くせ!」
バサバサバサバサ…………
空を黒く飲み込むバッタの群れが、東に向かって移動を開始した。
カンカンカン……!
けたたましく鐘がなる。
その音を、すみれ姫達は宿の食堂で聞く。
「なんなのかしら?」
と、疑問に思ったところで、鐘の音が止まった。
「一体なんだったのかしら。何かわからないけど、もう収まったの?」
いや、違う。
城門を警備していた兵士は、バッタの襲来を見つけて、それを知らせるために鐘を打ったのだが、今日のバッタに限っては、その兵士を襲い始めたのだ。
兵士はたまらず、鐘を打つことをあきらめ、城壁内へと逃げたのだ。
外では、ギャーギャーと猫の叫び声。
「逃げろ! 家の中に立てこもれ!」
と、兵士の声。
そして、ついに、
「キャー! 助けて!」
と、悲鳴まで聞こえて来た。
「何が起こっているの?」
カタリナがつぶやくのが速いか、
「私、見てくる!」
と、悲鳴を聞いたアシュリーが宿を飛び出した。
バン!
と、外開きのドアを開けて飛び出したアシュリー。
すみれ姫やカタリナ以下、リスベル達、そして宿屋にいたその他の冒険者達は、アシュリーが出て行ったドアを見つめていた。
が、すぐにアシュリーが戻ってきた。
「助けて! お願い! この子を!」
と、一人の少女をかかえたアシュリーが叫んだ。
が、皆がその少女とアシュリーのその姿を見て固まる。
少女は顔から、手から、血を流している。
そして、アシュリーも、耳もほほも、その指先も、血が流しているのだ。
さらには、少女とアシュリーにまとわりついて、牙をむくバッタ達。
「痛い痛い痛い! 早くこの子を。そして、このバッタを!」
アシュリーが叫ぶ。
それと同時に、二人にくっついてきた黒いバッタが部屋中に飛び出した。
いや、カタリナたちや他の冒険者達を襲うため、飛び出したのだ。
我に返ったカタリナ。
「レーナ! ミシェル! 二人に治癒魔法! その他はバッタの殲滅!」
「「「はいっ!」」」
((ヒール))
レーナとミシェルがアシュリーと少女に回復魔法をかける。
その一方で、冒険者達の叫び声もあがる。
「このバッタ、襲ってくる!」
「いてえ、いてえぞ。かみついてくる! 気をつけろ!」
「潰せ! 早く、早く!」




