悪魔ベルド
翌日も城門の西側で同じようにバッタを殲滅していく。
バッタ発生のピークが近づき、さすがに数が増えて来た。
しかし、やることは一緒だ。
数が多かろうと少なかろうと、すみれ姫の竜巻もカタリナのファイアサイクロンも変わらずバッタを飲み込んでいく。
リスベル達も午前中は魔法で、午後は剣とナイフでと、バッタを倒していく。
猫達も参戦しており、怪我をした猫は、動ける猫がカタリナのところに連れてくるようになった。
「私じゃないんだけど」
というつぶやきは、猫には届かない。
カタリナが走り回っていると、バサラも騎士達も、領民たちすらカタリナに声をかけてくる。
「女神様ー!」
「女神様ー、私も頑張りますー」
「女神様ー、今日もすごいですー」
「女神様ー、今日も綺麗ですー!」
「魔法は私じゃないんだけど。私、女神じゃないんだけど」
というつぶやきは、誰の耳にも届かない。
きれいだと言われたことだけは受け入れておこう。
そう思うカタリナだった。
この日も広範囲にバッタが殲滅されていく。
すべてを殲滅する必要はない。
東の街にもバッタに対抗するために騎士も兵士も配置されているのだろうから。
日が傾き、この日の殲滅も終わりそうになったとき、バサラがカタリナに近づいて来た。
「女神様」
女神ではない。
カタリナはそう心の中で否定する。
「明日がおそらくバッタの発生量が最大になります。明日もどうぞ、よろしくお願いいたします」
「お互い、頑張りましょう」
何とかカタリナはそれだけを返した。
その光景を高い高い上空から見ていたものがいた。
名をベルドといった。
上空から見ているということは、空を飛べるということ。
つまり、天使か悪魔。
もちろんここでは後者である。
ヤギの頭にツノ。黒い肌。黒光りする翼、そして、尾。
「なんか面白そうなことしているなー。こうして偵察に来てみたけど、シモン様が完治されるまで手を出すなってことでしばらく暇だしな。命じられたのは偵察。手を出しちゃダメ。うーん」
ベルドは腕を組んで考える。
先のとがった尾がうずうずしている。
その感情を現すかのように、右へ左へと動いている。
「うーん、うーん」
ベルドは考えに考えた末、ぽんと手を打った。
「僕が手を出さなければいいんじゃないのか?」
ベルドはそう言って高度を下げ、森へと潜入していった。
宿では、すみれ姫達が食堂で食事をとっていた。
「リスベル、アシュリー、どうだ?」
この街、カッツェリアに来るまでずっと指導をしてきた弟子のような二人に、カタリナはバッタの討伐について尋ねる。
「おかげさまで、ずいぶん魔法の行使がうまくなったような気がします、女神様」
「私も、ナイフの使い方もうまくなった気がするよ。手返しもよくなったと思うし、命中率も上がったし。ありがとう女神様」
リスベルとアシュリーがカタリナにそう返事をする。
女神様、と。
リスベルにいたっては、本当に女神様に答えるかのような言葉遣い。
わざとだが。
「……」
カタリナが、『女神様』呼ばわりに固まる。
逆にアシュリーがそんなカタリナに提案をする。
「カタリナ様は女神様なんだから、そう言った騎士然とした言葉遣いはどうかと思うよ。女神様らしく、かわいい感じで話をしたら?」
それを聞いたシフォンとトルテが口を押えて、声を出さないように笑う。
「……」
目を閉じ、プルプルと震えながらカタリナはテーブルの真ん中まで体を乗り出し、そして、小声で言った。
「何で私なの。一緒にいたすーちゃんでもリスベルでもアシュリーでもいいじゃない。それに、アシュリーのその姫様然とした服の方が、女神っぽくない?」
同じように身を乗り出すアシュリー。
「お、いいねー。女神様、かわいいしゃべり方になった」
「アシュリーだって、その服からして、かわいらしい話し方をしたらいいんじゃないの?」
「私は王女ですから。元ですが」
そこへシフォンが参戦する。
「知ってます? カタリナ様、普段はフリフリなんですよ。ソフィローズ大好きなんですよ」
突然のシフォンの暴露に、慌ててシフォンの口をふさぐカタリナ。
「なんてこと言うんです。私にも立場ってものがあるでしょう、立場ってものが」
「ですけどー、カタリナ様はベースがリコラシュタイン家の御令嬢ですしー、姫様なくらいがちょうどいいんじゃないです?」
トルテも口をふさがれたシフォンの代わりに発言する。
「じゃあさー、このバッタ討伐が終わったら、一緒にフリフリ着ようよ」
「アシュリー、貴方、冒険者でしょうに」
カタリナがアシュリーの無茶な提案を却下する。
冒険者がフリフリを着て活動してどうする、と。
「だって、私達のパーティ、精霊様とお姫様だもん」
「フリフリ……、フリフリで戦うのもそれは斬新だけど……」
「いいじゃん。その上からこのもらった団服着るもん」
「アシュリー、一つ言わせてもらっていい?」
「なあに、女神様」
「精霊様とお姫様って名前、その二つはわかる。リスベルも入れてあげたら?」
「……」
突然ふられたリスベルが目を見開く。
いやいやいや、私はレーナ様とミシェル様について行きたい、そこから始まった。
だから、別にパーティ名にエルフを入れてほしいなんて全く思っていない。
リスベルは、果実酒を一口飲んで口を湿らせてから、そう伝えようとする。
しかし……。
「『精霊様とお姫様、そして引率』。なんてどう?」




