ファイアサイクロンのネタばらし
カタリナは再び立ち止まって、目の前のファイアサイクロンを眺める。
足元で直径五メートルくらいもある。
それが、カタリナから十メートルほど離れたところで舞いあがっているのだ。
そのファイアサイクロンは、一定距離を保ってカタリナについてくる。
いったいどうして。
なぜ、これは……
炎を見つめていると、真白な黒薔薇騎士団の団服が炎の光に当てられて、光を反射し、オレンジ色に光る。
そして、熱を蓄えていく。
その光と熱に誘われてバッタがカタリナに飛びついてくる。
カタリナは、バッタを叩き落して潰すのをやめた。
というより、そんなことを考えていられなかった。
バッタを無意識に近い状態でつまむと、炎に向かってぽいっと投げる。
すると、バッタは風に巻き込まれて焼けていく。
カタリナは上空を見つめる。
炎の渦は上空に行くほど広くなっている。
やはり風が渦巻いていて、上空を飛んでいるバッタを巻き込んでいくのが見える。
まだ、バッタ襲来のピークではないため空にもまばらだが、それだけにバッタが渦の中へ飛び込んでいく様をゆっくりと観察することができた。
さて、このファイアサイクロン。
近くにいるバッタを巻き込んでいく。
ということは、カタリナがこのように呆けて立ち止まるとどうなるか。
そう。このあたりのバッタがいなくなる。
つまりは、退治するべくバッタも現状いないということ。
それはバッタ退治をしたいレーナとミシェルにとって、意にそぐわないこと。
(ミシェル。どうする? カタリナ、止まっちゃったよ?)
(そうね。これ、気づいたけど、走り回ってこそ効果があるのね)
(うん。だから、カタリナには走って欲しいんだけど)
(うーん。すーちゃん呼んできて通訳してもらう?)
(お願いしていい? 私は続けて魔法を発動させておくから)
(よろしく)
ミシェルはレーナとカタリナから離れてすみれ姫の下へと行く。
すみれ姫は、精霊が作り出した風の刃を巻き込んだ竜巻を従えて、てけてけと歩いていた。
(すーちゃん、すーちゃん)
「ん、どうした?」
(この竜巻の魔法、歩き回ってバッタを巻きんでいくのが効率よくない? すーちゃんがやってるみたいに)
「ん。そうだな。だから私も歩いている」
(私達ね、私達が魔法を行使するとおかしいから、カタリナが行使しているように見せていたんだけど、カタリナ、呆けて止まっちゃったの。歩くように言ってくれないかしら?)
「……シフォンとトルテは?」
(私達の言葉が届かないのは一緒なの)
「むう。わかった」
すみれ姫は魔法を消し、
「どっち?」
と、カタリナのいる方向を聞いてきた。
(ありがとう、すーちゃん。こっち)
ミシェルが実体を消したままぽよぽよと移動を始め、すみれ姫がミシェルについて行った。
途中、リスベルとアシュリーコンビが共同作業でファイアサクロンを生み出し、バッタを退治しているのが見えた。
「リスベルとアシュリー」
すみれ姫が声をかける。
「あ、すーちゃん様」
「すーちゃん……これ、疲れるよー」
(すーちゃん、無理しないように言って。魔力が無くなると動けなくなるから、その前に物理攻撃に移ってって)
すみれ姫はその旨二人に伝える。
「わかりました。お気遣いありがとうございます」
「ありがとー、すーちゃん。もうちょっとだけ頑張るね」
二人は、小型ながらファイアサイクロンを二人で再び生み出し、走り出した。
相変わらず、カタリナは無意識的にバッタを捕まえては炎に放り込んでいる。
「レーナ、消して」
突然後ろから声がかかり、振り返るカタリナ。
だが、すみれ姫から声をかけられた相手はカタリナではなくレーナ。
「レーナ?」
カタリナは疑問の表情を浮かべ、近づいて来たすみれ姫に尋ねる。
また、すみれ姫の言葉に、レーナがファイアサイクロンを消す。
「え?」
突然消えたファイアサイクロンにカタリナは顔を向けた。
「そう言うことだ」
「レーナとミシェルの存在はわかっているだろう?」
「え、もしかして、これ、レーナとミシェルの魔法だった?」
「そうだ」
「ど、どうして……」
「二人は、その存在を知られていないし、知られたくもない。だけど、このバッタ退治に力を貸したかった。しかし、何もないところでこの二人が魔法を行使したら、何が起こっているのかと、皆が不安に思うだろう」
まさに、カタリナがそういう状況だった。
「だから、カタリナが魔法を行使しているように見せかけた、ということだ」
「そ、そりゃ私の魔法ではここまでの威力はないが……」
と、ここでバサラとした会話を思い出す。
「だが、勘違いをされてしまったじゃないか!」
「何を?」
「私がものすごい魔法を使う魔導士だと!」
「何か問題?」
「……」
すみれ姫のなにも気にしない、問題もない、別にいいじゃん的な返事に固まるカタリナ。
「そういうわけで、カタリナの前にレーナとミシェルがファイアサイクロンを顕現させる。カタリナはそのファイアサイクロンを連れて走り回ったらどうだ?」
「……」
「それがこの国のためなんじゃないのか?」
そう言われてしまうと、何も言えなくなるカタリナ。
「わ、わかった。走ればいいんでしょ走れば」
カタリナは騎士だ。
しかも黒薔薇騎士団の。
つまり、魔力量も多いが体力馬鹿でもある。
体力回復の魔法も自分にかけることもできる。
よって、走れと言われればいつまでも走って見せよう。
魔力が尽きるまで。
カタリナは、見えないレーナとミシェルに声をかける。
「二人のうちのどちらかが魔法を使うんだな。それで時々交代?」
「ちがう。レーナとミシェル、二人でやっている」
レーナとミシェルの代わりにすみれ姫が答えた。
「どういうこと?」
「レーナが炎を、ミシェルが竜巻を起こしている」
「なるほど。じゃあ、レーナ、ミシェル。行くわよ。ファイアサイクロン出して!」
ゴォオオオオオーーーーーー!
二人がファイアサイクロンを空高く立ち上げる。
「行くよ。付いてきなさい」
カタリナは再び走り出し、バッタを殲滅し始めた。
「やれやれ」
すみれ姫もまた、精霊と一緒に風の刃をまとった竜巻を作り出し、歩き始めた。




