レーナとミシェルのしわざ
「お、おう」
すみれ姫の竜巻と風の刃によるバッタの殲滅を見て、カタリナが息をのむ。
シフォンとトルテはその光景を見て固まる。
これまで、森の中で刃を含んだつむじ風は見て来た。
それが竜巻になった……。
さすがは風属性の高位精霊だ。
三人だけではない。
バッタ討伐に参加した騎士、冒険者、皆がその魔法の大きさに見入る。
だが、いつまでもすみれ姫に気を取られてはいけない。
リスベルはアシュリーに声をかける。
「私達もやろう。私が風魔法で集めるから、その中に火魔法を撃ちこんでくれる?」
「はい!」
リスベルは風魔法でつむじ風を起こす。
すみれ姫の竜巻とは比べようもない大きさだが、それでも、バッタを巻き込んでいくため効率はいい。
「アシュリー!」
「はい、ファイアボール!」
つむじ風によって集められたバッタが炎に焼かれていく。
「よし、次に行こう」
リスベルとアシュリーは移動をしながらバッタを殲滅していく。
「私達もやろう」
「うん」
シフォンとトルテがリスベル達に習ってバッタを殲滅していく。
「あ、あれ?」
一人になってしまったカタリナ。
「し、仕方ない」
と、一人で魔法を放とうとカタリナは右手を伸ばした。
(あ、ちょうどいい人見つけた)
(レーナ、いいの?)
(いいんじゃない、カタリナに押し付けちゃおう)
カタリナは、火魔法を発動させようとする。
が、発動した魔法は違った。
「ファイアボ……」
ゴォォォォォーーーー!
すみれ姫と同じ竜巻。
そして、炎。
つまり、ファイアサイクロンである。
一方のカタリナが発動しようとした魔法はファイアボール。
「え?」
ぽふん。
カタリナが放とうとしたファイアボールが不発に終わる。
しかし、誰の目にも、カタリナがファイアサイクロンを撃ちだしたように見える。
バッタ討伐に参加していた皆の視線がカタリナやすみれ姫達に注がれる。
教会の神父達のように魔法陣でファイアサイクロンを撃ちだしているのではないのだ。
「なんだあの白い集団は」
「いとも簡単に刃の竜巻やファイアサイクロンを。他の四人だって、二人でだが小型のファイアサイクロンを作り出して……」
「お前達、知らないのかあの団服を。あれは、グリュンデール王国女王陛下直属騎士団、黒薔薇騎士団だ」
馬に乗った騎士団が街から出てくきて冒険者達の疑問に答えた。
答えたのは馬に乗ったカッツェリア領主、バサラである。
ちなみに、ここで言うカタリナが所属しているグリュンデール王国女王陛下直属の黒薔薇騎士団と、ローゼンシュタインにいるグレイス直属の黒薔薇騎士団は異なる。
カタリナは、目の前に現れたファイアサイクロンに気を取られる。
自分が撃ちだしたものではない。
よって、カタリナはファイアサイクロンに巻き込まれないように移動してみる。
トコトコトコ……
しかし、ファイアサイクロンがついてくる。
走ってみる。
シュタタタタ……
やはり、ファイアサイクロンがついてくる。
だが、移動するたびにバッタが巻き込まれて焼かれて行く。
何なんだこのファイアサイクロンは……。
カタリナは呆然と立ち尽くす。
その光景を見ていたバサラ、その他の騎士、兵士、冒険者達には、カタリナがフたった一人で巨大なァイアサイクロンを操り、走り回り、広範囲にバッタを殲滅しているように見える。
魔法陣ではなく、魔法で。
カタリナは、ファイアサイクロンを見つめる。
逃げられないのだ。
カタリナが逃げることをあきらめ、顔や体についたバッタを振り落としながら踏みつぶしていると、声がかけられた。
「カタリナ様ではございませんか」
カタリナが振り返ると、バサラが馬から降りて近づいて来た。
バサラは男爵であり、リコラシュタイン家が治める領地のその一部を治めている。
つまり、バサラはリコラシュタイン家の家臣であり、そして、カタリナはリコラシュタイン家の令嬢である。
どちらが立場的に上かは明白だ。
「ば、バサラ殿」
「カタリナ様は黒薔薇騎士団員だったのですね」
間違ってはいない。
「あの、二人一組でファイアサイクロンを作り出している四人もすごいのですが、カタリナ様とあの小さな騎士。お二人は一人でこの巨大な魔法を作り出しているのですね」
バサラの言うことは間違っている。
カタリナ自身が作り出したファイアサイクロンではない。
「これが女王陛下直属の黒薔薇騎士団の実力と。感服いたしました」
バサラの言うことはやはり間違っている。
カタリナ自身の魔法ではない。
しつこいようだが。
「それと、黒薔薇騎士団を派遣してくださった女王陛下に感謝を」
それも間違っている。
カタリナは黒薔薇騎士団員だが、今回は精霊様とお姫様という冒険者パーティに興味を持っただけの事。
勝手に飛び出してきた。
カタリナがバサラの話を聞きながらバッタをつぶしていると、
「このような魔法を制御しつつ、バッタにも気が回るとは、さすが黒薔薇騎士団。魔法発動と同時に剣技を使って戦うという噂は本当だということですね」
同時に使えるというのは間違っていない。
しかし、カタリナ自身は今魔法を使っていない。
いたたまれなくなってきたカタリナは話のペースを握ろうと声を発する。
「バサラ殿もお疲れさまです。この災厄を何とか乗り切りましょう」
「そうですな。大量に出てきたのは今日が初日。ピークを迎えるのはおそらく明後日でしょう。それを乗り切れば、後は何とかなります。それまでどうぞよろしくお願いいたします」
「う、うむ。それでは私は向こうの開けているところへ行きます。お互い頑張りましょう」
そう言って、カタリナはバサラから逃げるように走って移動した。
当然、ファイアサイクロンがついていく。
「さすがだ。リコラシュタイン家の令嬢というのもあるが、黒薔薇騎士団というのもあれほどの実力とは。これは国家に反逆してかなう者がいるわけはないな」
と、バサラは笑う。
もちろん、反逆するつもりなど毛頭ない。




