人間か精霊か……
れーちゃんが答える。
「そうだ。この二つの魂は、低位精霊になって旅にでる前に、この世界の言葉を覚えてもらうことが目標だ」
「そうなんだね。この子ら、低位精霊になるんだ」
しらゆきの言葉を遮るように、レーナが問う。
「こ、この二人は?」
れーちゃんにそっくりな二人が突然現れたのだ。
「私はしらゆき。大精霊レイの娘。よろしくね」
「私はみゆき。同じく。二人とも大精霊よ」
「お二人とも低位精霊から大精霊になったんじゃないの?」
レーナが気になることを聞く。
大精霊ということは、階位を上げてきたのではないのかと。
「私達は特別なの。大精霊のお母さんから生まれたから大精霊みたい」
しらゆきの答えを、れーちゃんがフォローする。
「ある意味、私の分体みたいなものだ。この二人は私から生まれた。私の体を分けたも同然。つまり、大精霊の分体は大精霊、そういうことだろう」
「じゃあ、低位精霊から高位精霊に階位を上げる方法は?」
「うーん、知らないわ」
首をかしげるしらゆきとみゆき。
これにはドライアが答える。
「本来、低位精霊も中位精霊もはっきりした自意識はありません。よって、高位精霊になって初めて自我を持つ、と言ってもいいでしょう。だから、誰も高位精霊になる方法は知らないのです。私もディーネも低位精霊から階位を上げてきたとは思うのですが、覚えていないのです。そもそも、低位精霊や中位精霊に高位精霊になりたいという意思があるかどうかさえ分かりません。いや、きっとないでしょう」
「じゃあ、どうやって高位精霊になれば……」
グレイスがもう一度言う。
「旅に出てもらう。ここにいて高位精霊になった精霊はいない。ここにいてもいつ階位が上がるかなんて、誰もわからないんだ。だから、ここにいる精霊達とは違うことをしてもらう」
美鈴が小さな声で訴えてみる。
「私、う〇こにこだわりないんだけど……」
それを聞き逃さないレーナ。
「美鈴さん、あきらめちゃだめよ。アイドルはしちゃダメなの」
グレイスは思う。
ロッテロッテはするぞと。
この世界のアイドルは精霊を除いてみんなするぞ、と。
「ね、一緒にアイドルを目指そう、しないアイドルを!」
「私、もともとマネージャーだし……」
「まあまあ、今晩のロッテロッテのミサを見てから決めなよ」
グレイスがこの終わりが見えなさそうなやり取りを早々に止める。
「「はい」」
レーナと美鈴がとりあえず納得し、この話は終わる。
「それじゃ、れーちゃん達は準備に行って」
グレイスがれーちゃん達にミサの準備に行っていいと許可を出した。
「「「はい」」」
しゅわん!
れーちゃん達が消え、残されたしらゆきとみゆきにグレイスが依頼する。
「しらゆき、みゆき、二人のことよろしくね」
「「はーい、お父さま」」
「えっと、お名前聞いてもいい?」
しらゆきが二人に尋ねる。
まずは名前から。
「は、はい。私が美鈴です。そして、こっちがレーナ」
「美鈴ちゃんにレーナちゃんね。改めまして。私がしらゆき」
「私がみゆき。よろしくね」
「「はい」」
美鈴は、どう見ても私の方が年上だけど、と、思うが、ここでは黙っておく。
『ちゃん』付けに少し戸惑っただけだ。
「それじゃ、部屋へ移動しようか。ついて来て」
「「はい」」
レーナと美鈴はしらゆきとみゆきについて移動する。
二人は、ある部屋のドアを開け、中に入った。
レーナと美鈴もしらゆきとみゆきについて部屋に入って行く。
「さ、えっと、座って?」
レーナと美鈴はソファの上にぽよんと降りた。
「ミサまで時間があるけど、何か聞きたいことがある?」
しらゆきが二人に尋ねる。
「えっと、私達、どうなるんでしょうか」
美鈴が聞く。
「うーん。それ、私達に聞く?」
「あなた達、精霊になるか人になるか悩んでいるのよね? なら、自分で決めることじゃない?」
しらゆきとみゆきが順に答える。
「私達はしないからよくわからないけど、それってそんなに大事なこと?」
「私、それで失敗したから、したくない。アイドルのイメージもあるし」
レーナが少し恥ずかしがりながらそう答えた。
「そうなんだ? まあ、つらかったことは聞かないけど」
「美鈴ちゃんは?」
「私は……レーナと一緒に生きます」
「美鈴さん!」
レーナがその言葉に感極まって美鈴に寄り添おうとするが、美鈴は悩んでいる様子。
「と、思いますけど、いつまでも意思疎通のできないままって言うのは……」
「……」
美鈴が言っているのはある意味、精霊になることは拒否したい、そう言うことだ。
レーナはそれに気づく。
「まあ、そうよね。でも、時間が惜しいわよ」
「あの。どうして、そんなに早く決めないといけないのですか?」
美鈴が疑問に思う。
「精霊に転生するならすぐに旅立つことになるし、言葉を覚える以外にも、この世界で生きるためのことも、この九か月でたくさん学んでほしいわ。できればその時間が欲しい」
「人に転生するなら、転生して生まれてから一年間が勝負ってなるけど」
「人に転生して一年が勝負って言うのは、転生を果たして、生まれてからの話ですよね? まだ充分時間があると思いますが」
「うーん。それは人間になった場合よね。言葉を覚えて、それから受精卵に宿って十月十日で出産。それだけでも一年半。で、そこから一年間がどんな人間になれるかの勝負。けっこうかかるわよね。そもそも、親となる人を探して決めなきゃいけないんだし。だから、人間にするのは実は結構な手間がかかるし、人間になるならなるべく早く決めた方がいいわ」
「それに、なにになるのか決めないで魂の状態でいる場合、私達をいつまでも魂状態のあなた達の相手としておくわけ?」
人に転生させる場合、二人を産む親を探さなければいけなくなる。
それに生まれるまで十月十日。
そこまで一年半近くの保護が必要になる。
生まれた後、アイドルになるためには、ありたい自分を想像しつつ、誰かに魔力ぐるぐるを一年間行ってもらうことになる。
現状、この魔力ぐるぐるができるのはグレイスの関係者のみ。
ここまででさらに一年かかる。
子育ては親の役目であるなら、十五歳まで面倒を見てくれる親が必要だ。
しかし、生まれるのは、自分の子供というよりは、他人の意思を生まれた時から持った子供。
そんなこと、誰に押し付けていいのか、確かにわからない。
というわけで、グレイスとしては人間とすることはできれば避けたくもある。
精霊なら、言葉を覚えてすぐに独り立ちさせることができるのだ。
「……あ、ごめんなさい。そうですよね。早く決めます」
美鈴が落ち込む。
それはそうだ。しらゆきとみゆきにいつまでも自分達の面倒を見させるわけにはいかない。
それに、グレイスは確かに『春まで』と言った。
春までしかここにいられない、という期限があるのであれば、急いだ方がいい。
「ま、考えることは必要だから、たくさん悩んで」
「そうそう。それに、今日はお母様達のミサよ。悩みなんて吹き飛ぶわよ」
そう、しらゆきもみゆきも笑う。




