剣士なのか魔導士なのか
カタリナが、何度も何度もすみれ姫に切り付けるが、すべて受けられてしまう。
外から見ると、カタリナは意思を持った剣と戦っているように見える。
すみれ姫は仁王立ちをしているだけだ。
一歩も動いていない。
「なぜ下がらん」
すみれ姫がカタリナに問いかける。
「下がったらでかい魔法が来るじゃないか」
その通りだ。
カタリナが下がった瞬間、カタリナは風の刃を含んだ竜巻に飲まれることになる。
決してカタリナが弱いわけではない。
遅いわけではない。
リスベルは剣の使い手として自分がカタリナに圧倒的に負けていることを自覚する。
それでも、カタリナは、すみれ姫には一太刀も与えられないどころか、すみれ姫を一歩も動かすこともできないでいる。
すみれ姫はすみれ姫で覚悟を決めている。
人でなしには二度と負けない。
人でなしは絶対に殺す。
人でなしの悪魔を殺す。
ラテの仇を討つ。
絶対に。
それまでは絶対に負けないし倒れないし死なない。
二度と悔やんでなるものか。
二度と悲しんでなるものか。
カタリナは圧倒的な差を実感する。
これが高位精霊。
どうしても攻め込めないことから最後の攻撃を覚悟する。
カタリナは剣を水平に構え、剣を突き出しながらすみれ姫に向かって飛んだ。
ガキン!
カタリナの剣が空を舞う。
ザシュ!
剣が地面に落ちて突き刺さった。
「参りました」
カタリナはすみれ姫の前で膝をつき、頭を下げた。
すみれ姫は馬車に戻ろうと歩き出した。
が、カタリナに向かって振り返り、その背中にお願いをする。
「カタリナ。願いがある」
カタリナは振り返る。
「なんでしょうか、すみれ姫様」
「リスベルとアシュリーが強くなりたいと言った。だから、二人を強くしてほしい。私ではできない」
リスベルとアシュリーは目を丸くする。
シューンシュタットへの道中でレーナとミシェルに吐露した願いを聞かれていたのかと。
しかもすみれ姫が自分達のことを気にかけてくれた。
そんなことを気にかけてくれるとは。
すみれ姫の剣は風魔法で操る剣。
リスベルの参考にはなりはしない。
すみれ姫の魔法は精霊と自然エネルギーを使った魔法。
魔力を使った人族の魔法と違う。
これもアシュリーの参考にはならない。
カタリナは頭を下げる。
「承知いたしました。私がリスベルを騎士に、シフォンとトルテがアシュリーを魔導士に鍛え上げましょう。リコラシュタインの名に懸けて」
こうして、リスベルとアシュリーは、シュタイン家、つまりローゼンシュタインとリコラシュタインに伝わる秘技を教わることになる。
リスベルは思う。
私は剣士ではなく、魔導士だと。
たまたまパーティの役割的に剣を持っているだけだと。
結局、馬車での移動中は剣を振れないため二人とも魔力操作から教わる。
馬車を止めると今度は二人とも剣を振ることになる。
ほぼ実戦で。
しかも……、レーナとミシェルが治癒魔法を使えるため、ファイトアンドヒールで。
リスベルは思う。
私は剣士に育てられるのではなかったか、と。
アシュリーは思う。
私は魔導士に育てられるのではなかったか、と。
冒険者ギルドの受付嬢はカッツェリアまで一週間で着くと言った。
カタリナは遠回りをするため十日で着くと言った。
しかし、結局カッツェリアに着くまで一か月もかかった。
リスベルもアシュリーもそれだけ剣を振ったことになる。
とはいえ、出発から一か月もかかったことには変わりない。
そうなると、カッツェリアでは、まだまだ出現数は少ないが、バッタがちらほらと見え始めていた。
しかし、それくらいなら、カッツェリアの冒険者であったり、住人であっても対処可能な範囲だ。
カッツェリアの街は、西に背の高い城壁が作られている。
言わずもがな、西からのバッタを防ぐためだ。
畑も東に広がっている。
西にはない。
その畑もすでにほぼほぼ収穫済み。
バッタに与える食料などない。
しかしながら、食べるものがないということは、腹をすかせたバッタは、東へ東へ飛んでいく。
なので、国全体の被害を抑えるためには、なるべく多く、このカッツェリアで殲滅する必要がある。
馬車はカッツェリアの宿にたどり着いた。
すでにカタリナがリコラシュタインの令嬢であることを暴露したので、領主の屋敷に泊まってもいいかもしれないが、カタリナ自身がそれを拒否した。
宿の部屋でミーティングを行う。
カタリナが確保した部屋は宿の最上階である。
しかも十人部屋。
カタリナがトルテに命じる。
「団服を!」
「はっ!」
トルテはスーツケースから団服を取り出す。
真っ白の団服を。
それを、すみれ姫に、リスベルに、アシュリーに配る。
もちろん、カタリナとシフォンと自分にも。
アシュリーはその純白の団服を広げる。
「わー綺麗!」
そう言って、背中側を見る。
「え、背中も綺麗……」
その背中には真っ赤な薔薇が。
アシュリーはその団服に袖を通した。
リスベルも団服の袖を通した。
すみれ姫は着物の上からはおるだけ。
着物の袖がとおらないのだ。
「さて」
と、カタリナがリスベルとアシュリーに話しかけた。
「明日から森に入る。そこで、ここまで学んだ剣技、そして魔法を使ってバッタを倒してもらう。森の中でだ」
カタリナは、森の中で行うことを強調する。
「森の中で?」
当然気になるリスベルが尋ねる。
「そうだ。リスベル、君はエルフだ。そしてシフォンもトルテもだ。つまり、森の中で火魔法は使えない。広範囲のファイアサイクロンなどは使えない、そういうことだ。あくまでも剣技と風魔法、もしくは水魔法でバッタを倒してもらう。ただし、水魔法も水では倒せない。アイスバレットをお勧めする。それでだ」
カタリナは宙を仰ぐ。
そこにレーナとミシェルがいるかどうかはわからない。
が、カタリナは二人にも役割を与える。
「レーナとミシェルは体力の回復魔法を」
レーナとミシェルが返事をしたかどうかはわからないまま、カタリナは続ける。
「その他のものは、バッタを倒し続ける。ただし、団服は汚すな」
「「……」」
リスベルもアシュリーも思う。
なぜ、真っ白な団服を渡したのか、と。
「これも訓練だと思ってやれ」
「「はいっ!」」
リスベルとアシュリーが意気込んで返事をした。




