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カタリナ VS すみれ姫

「ところで聞いていい?」


 リスベルが正面に座るカタリナに問いかける。

 カタリナは視線だけで、質問を許可をする。


「私達がこの依頼を受けたことに、なぜカタリナが感謝するのか?」


 リスベルは理解しているが確認だ。

 カタリナは騎士だが、この馬車がリコラシュタイン家の馬車。

 おそらく、カタリナの家名は。


「ん? カッツェリアはこのシューンシュタットに属する一つの街でカッツェリア男爵が治めている。ならば、このシューンシュタットの騎士である私が感謝してもおかしくあるまい」


 カタリナはお決まり的な答えを口にする。


「ちなみに、このシューンシュタットを治めているのは……」

「今はリコラシュタイン家だ」


 カタリナはリスベルの顔を覗き込む。

 お前のことは知っているぞ、と。


「イングラシアのキザクラ商会支店長だったリスベルが知らなかったと?」


 今度はカタリナがリスベルに尋ねる。


「田舎者だからね。リノ様直属になり、ようやくこの国のことを覚えようと思っているところだから」

「へー、リノ女王陛下直属なのに、何故に冒険者を?」

「リノ女王陛下ではない。リノ様だ。それに、それだけこのすみれ姫様が私にとって大切なお方だからだ」


 リノは女王としての顔の他に、キザクラ商会統括としての顔を持つ。

 リスベルは後者の配下である。


「ん? リノ様の命じゃないのか?」


 カタリナが確認する。

 リスベルがすみれ姫に付き従っているのは、リノの命令ではなく……。


「私の意思だし、リノ様に許していただいている。それだけの事」

「私もすみれ姫様と呼んだ方がいいか?」


 目の前のちびっこはそれだけの人物なのか?


「いや、すみれ姫様は『すみれ姫』までが名前だ。だが、すーちゃんでいい。私もすーちゃん様と呼んでいるからな」


 馬車はシューンシュタットの門を抜け、街道を西へ進んでいく。


「この後の予定は?」


 リスベルは質問を続ける。


「カッツェリアまでおよそ十日だ」

「ギルドの受付嬢は一週間と言っていたが?」


 この馬車は四頭立て。

 他の馬車よりも移動速度が速い。

 ならば、もっと早く着くものと思っていたが。


「ちょっと寄り道をしようじゃないか」


 そう、カタリナが笑った。


 アシュリーは、ずっと緊張のために口をつぐんでいる。

 一緒に乗っているのが騎士、そしてエルフが二人。

 私なんて、足手まといではないのかと。

 一国の王女なのに。


 すみれ姫はずっと外を見ていたが、リスベルとカタリナの会話が途切れたところでカタリナに声をかけた。


「カタリナと言った? お前、人でなしか?」


 目を点にするカタリナ。

 シフォンは逆に目を丸く開いている。

 高位精霊とはいえ、カタリナに対してなんていう質問をと。

 シフォンはエルフであるため、すみれ姫が精霊であることはすでに理解している。


「あはははは。すーちゃん、私のことをどう見る?」

「わからないから聞いた。人でなしなのか?」


 すみれ姫が狭い馬車の中で風の刃を半ダース展開する。

 それに対し、シフォンがアイスバレットを同じく半ダース展開して迎撃をしようと構える。


 アシュリーは思う。

 ほら、私、また足手まとい……、と。


「シフォン、収めろ」


 カタリナの指示にシフォンがアイスバレットを消す。


「すーちゃん、それは、一緒にいる間に己で判断しろ。それで私のことを人でなしだと判断するなら、遠慮なく切り刻むがいい」

「わかった」


 すみれ姫は風の刃を消し、再び外を眺める。

 すると、今度はシフォンがすみれ姫に尋ねた。


「その二つの精霊はなに?」


 リスベルは、やはり気づいたかと、シフォンに視線を送る。


「レーナとミシェル」


 すみれ姫は外を眺めたまま答えた。


「レーナトミシェル?」


 シフォンが理解できないでいると、やれやれと、すみれ姫は二人に呼びかける。


「レーナ、ミシェル」


 すみれ姫の呼びかけに、レーナが金の、ミシェルが銀の姿を現した。

 シフォンは目を丸くする。


「なに、この精霊……低位じゃない、中位じゃない……なに?」

「レーナとミシェルだ」


 すみれ姫はそれしか言わなかった。

 レーナとミシェルは低位精霊でも中位精霊でもない。

 すみれ姫にとっては、『レーナとミシェル』なのだ。

 すみれ姫が答える気を無くしたのを察して、レーナとミシェルも再び姿を消した。


「ちょっとまて、今のはなんだ?」


 カタリナが声を上げる。


「お前は精霊を見たことがないのか?」


 すみれ姫はめんどくさそうにカタリナに尋ねた。

 精霊など、どこにでもいるだろうと。

 そもそも目の前にさっきから座っている。


「今のが精霊か?」


 精霊を初めて見て興奮気味のカタリナに、シフォンが教える。


「すみれ姫様自身が精霊です。それも高位の」

「それで、パーティ名が精霊様とお姫様……か。ふふふ。あはははは」


 ひとしきり笑ったカタリナは、前方、トルテに向かって指示を出す。


「トルテ、止めろ」


 それを聞いたトルテが馬車を止める。

 カタリナはすみれ姫に頭を下げた。


「すみれ姫様、私と手合わせを願いたい」

「……」


 すみれ姫は外を見たまま動こうとしない。


「すみれ姫様」

「理由がない」

「私が人でなしだとしたら?」


 すみれ姫の顔色が変わった。

 そして、すみれ姫は黙って立ち上がり、馬車を出た。


「もし、カタリナ、お前が本当に人でなしなら……殺す」


 すみれ姫が風魔法で剣を抜く。

 馬車を降りて来たカタリナは、その気迫に身震いをする。

 しかし、どうしても口角が持ち上がってしまう。


「すみれ姫様、感謝します。もし私が負けたら、私のできる範囲で願いを聞きましょう」


「人でなしは殺す。願いなど、聞いてもらう必要ない。来い」

「では」


 と言って、カタリナは、剣を右下に構えたまま、すみれ姫に向かって突進する。

 一方のすみれ姫は、低位、中位の精霊を活用した風の刃を展開する。

 すみれ姫は遠慮を知らない。


 ザシュ、ザシュ、ザシュ……


 すみれ姫による無数の風の刃がカタリナの騎士服を、髪を、ほほを切り裂いて行く。

 しかし、カタリナは、目を見開いたまま止まることなくすみれ姫に襲い掛かる。


「はぁ!」


 カタリナが剣を切り上げる。


 ガキン!


 すみれ姫がラテの剣でそれを受ける。

 すみれ姫は一歩も動いていない。

 そのうえで、


 ザシュ、ザシュ、ザシュ……


 カタリナの後ろから左右から風の刃が無数に襲い掛かる。


「グハッ!」


 カタリナは、剣を地面に刺し、倒れないように堪える。


「まだまだ!」


 カタリナは、小柄なすみれ姫の上から剣をたたきつける。

 しかし、


 ガキン!


 すみれ姫は再びラテの剣で受ける。




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