カタリナ
ギルドの受付に並び、順番が来たところでリスベルは受付嬢に依頼達成書を手渡す。
それを受け取り、受付嬢は内容の確認を行う。
「依頼達成書ですね。お疲れさまでした。皆様の冒険者カードをお願いします」
リスベルはアシュリーとすみれ姫の冒険者カードも合わせて受付嬢に渡す。
「ふむふむ。精霊様とお姫様、お疲れさまでした。これが依頼報酬です」
と、受付嬢は、金貨が十五枚入った袋をリスベルに渡した。
「またいい依頼があったら受けてくださいね」
その言葉にリスベルが反応する。
「私達は旅をしているんだが、旅をしながら受けられる依頼はないだろうか」
受付嬢は目をぱちくりさせる。
「えっと、あるにはあるんですけど、ちょっと長期間になっちゃうんですよ。衣食住のうち食と住はある程度保証されるんですけど」
「ある程度、というのは?」
「食について、食事は出るのですがお酒は出ません」
これは冒険者にとって大きい。
やはり仕事の後は飲みたい。
「なるほど。長期間というのは」
「はい。ここからずっと西に移動してもらうので、ある意味旅になります」
この街から離れることになるのであれば、やはり、旅をしている冒険者にしか受けられない依頼だろう。
その内容は?
「もうすぐ発生するであろう、十五年バッタの対策に参加してもらうんです」
「十五年バッタか」
リスベルは依頼が大掛かりな理由を納得する。
十五年バッタとは、この大陸で十五年に一度大発生するバッタだ。
畑を食い散らかし、大きな被害をもたらすので、各国、その対策を行っている。
「この国では発生場所は特定されているのか?」
「はい。この西にある山脈の麓の森で発生し、そこから東に流れてくるんです。その数がおびただしくて空を覆うほどです。そこから、このシューンシュタット周辺まで飛んできて、農作物を荒らすので、なるべく発生地点の近くで数を減らしたいという趣旨です。ちなみに、発生予定日はちょうど一か月後くらいになります」
「定員は?」
「これ、随時募集なんですよ。人気がないですから。そんな地方の村に数週間とか一か月以上とか、みんないたくないようでして。それにバッタをプチプチするような地味な仕事はやっぱり嫌ですよね」
受付嬢は三人を眺める。
「えっと、リスベルさんは剣士ですけどエルフですよね。魔法使えますよね。それに、アシュリーさんはどう見ても魔導士、お二人とも重宝されると思いますけどね」
すみれ姫は体が小さいこと、体の割に大きな剣を背負っていることから魔導士認定されなかったようだ。
「それで、その依頼を受けるとしたら、どうしたらいいのだ。西に向かって歩いて行けばいいのか?」
「いえ、真西のカッツェリア領まで、馬車で送ってもらえます。この依頼を受ける冒険者が出るたびに馬車が出るんです。馬車は領主もちです。どうします? 行きます? 行くなら明日、馬車が来るように領主にお願いに行きますが」
「すーちゃん様、どうします?」
「どこでも行く」
すみれ姫は即決だ。
目的を達するためには旅をしなければならない。
どこへ、というのが無ければ、行けるところへ行く。
「わかりました」
リスベルはすみれ姫の了解の意を持って、受付嬢に答える。
「それでは明日の朝、来る」
「承知しました。それでは、頼んでおきます」
すみれ姫達は、冒険者ギルドを後にした。
「ねえ、お金もらったし、宿に泊まろうよ」
アシュリーがリスベルにねだる。
リスベルは即決できない。
このパーティの決定権はすみれ姫にある。
「すーちゃん様」
すみれ姫にお伺いを立てるリスベル。
「ん」
それだけで了承の威を伝えるすみれ姫。
そして、理解するアシュリー。
「やったー。久しぶりのベット!」
アシュリーが両手を掲げる。
「そうだね、アシュリー。また明日から馬車の上だしね」
「ぶー。でも、すーちゃんの旅について行くって決めたの、私だから」
「そうだな。私もだよ」
三人は宿へと歩いて行った。
翌日。
冒険者ギルドへとやって来たすみれ姫とリスベルにアシュリー。
レーナとミシェルも当然すみれ姫の上で姿を消してぽよんぽよんしている。
「あ、精霊様とお姫様の皆さま、おはようございます」
受付嬢が三人を見つけ、声をかけてきた。
「ああ。おはよう。馬車は来るのか?」
「はい。そろそろ来る頃だと思いますよ……って、ほら。来ました……?」
受付嬢がやってきた馬車を見て言葉をなくす。
受付嬢が予想していたよりも何倍も豪華な馬車がやって来たのだ。
黒塗りで金の細工がされている。
そして、リコラシュタイン家の紋章が入った旗。
また、馬車を引く馬も四頭だ。
その馬車がギルドの前に止まった。
馬車のドアが開き、中から金髪ポニーの女性騎士がリスベルに声をかけた。
「精霊様とお姫様か? そうなら乗ってもらおう」
「これはカッツェリアへ行く馬車なのか?」
リスベルが降りてきた女性騎士に尋ねる。
受付嬢同様にやって来た馬車は冒険者を運ぶ馬車にはどうしても見えない。
馬車にリコラシュタインの紋章が入った旗を掲げていることから、この騎士は、領主関係者であることは明白。
しかし、リスベルはリノ直属。敬語も使わない。
「そうだ。ほら、行くぞ、乗れ」
女性騎士の言葉に、リスベルが、アシュリーが、すみれ姫が馬車に乗り込んだ。
三人が乗り込んだことを確認し、女性騎士と一緒に乗っていたフードをかぶった女性がドアを閉めた。
リスベルとアシュリー、そしてすみれ姫は女性騎士とフードの女性と向き合って座る。
「この度は十五年バッタの殲滅に力を貸してくれ、感謝する。私はこのシューンシュタットの騎士、カタリナだ。よろしく頼む。それから、こっちが……」
フードをとって女性が挨拶をする。
「シフォンです。見ての通り、リスベルさんと同じエルフです」
さらにカタリナは続ける。
「馬車を御しているのがトルテだ。同じく、エルフだ。ちなみに、このシフォンとトルテは双子で見分けがつかない。左で髪を結っているのがシフォン、右がトルテだ」
これに対し、リスベルが自己紹介をする。
「私がリスベル。こっちがアシュリー。そして、すみれ姫。すみれ姫のことは、すーちゃんと呼んでくれていい。私達は呼び捨てでいい。単なる冒険者だから」
「わかった。私達も呼び捨てでいい」
カタリナが呼び捨てし合うことに了承した。




