盗賊
すみれ姫の両手で広げられたのは、三段梯子だった。
「わぁー! 梯子? 四角が三つあるから三段? 三段梯子?」
キャロが目をキラキラさせる。
「すごいすごい、やってみたいやってみたい! お姉ちゃん、教えて!」
キャロはハンナにお願いをする。
「お母さん、紐、もう一本もらうねー」
「はいはい」
キャロの楽しそうな声に、微笑むハンナ。
すみれ姫は、手から紐を外して、一からキャロと一緒に三段梯子を作る。
((……))
レーナとミシェルはそれを見て思う。
すーちゃん、一度で覚えちゃった、と。
すみれ姫と一緒に何度も三段梯子を作るキャロだったが、三段梯子だけでは飽きるのは仕方ないこと。
「ねえ、お姉ちゃん。他にもあるの?」
そう尋ねられたすみれ姫は、宙に視線を移す。
もちろん、ミシェルのいるところを。
(はいはい)
ミシェルは、四段梯子、ほうき、ゴム、東京タワーと教えていく。
「トウキョウタワー」
すみれ姫がミシェルに教わったまま東京タワーをつくってキャロに見せる。
「トウキョウタワー?」
すみれ姫の口から出た聞き覚えの無い単語に、キャロが疑問を口にする。
「トウキョウタワーって何?」
「トウキョウタワーって……」
そうキャロに聞かれたところで、すみれ姫にもわからない。
すみれ姫はミシェルに視線を送る。
(そういう塔がどこかにあるはずって)
ミシェルは苦し紛れだが、すみれ姫にそう教える。
「そういう塔がどこかにある。はず……」
すみれ姫もよくわからないままに、キャロに教えた。
「え? もしかして、お姉ちゃん達が旅をしているのは、探しているのは、トウキョウタワーなの?」
「え?」
思いがけないキャロの妄想に、すみれ姫が固まる。
「だって、どこかにあるはずの塔って……」
「ああそうだ」
すみれ姫はあきらめて適当に答えてしまう。
((……))
聞いていたレーナとミシェルもあんぐりだ。
それを信じるキャロ。
「そうなんだね、見つかるといいね、トウキョウタワー」
キャロは微笑みながら、東京タワーやゴムなど、教えてもらったものをを何度も何度もおさらいするように作ってみる。
そして、キャロは、御者台に顔を出し、ハンナにあやとりの成果を見せた。
「お母さん、見て見て、ゴムだよ。びよんびよん」
「あははは。すごいわねー。本当にゴムみたい」
笑いあう親子。
すみれ姫はその親子の微笑ましいやり取りを見て、うれしく思う。
「うれしい。好き……」
だが、すみれ姫のそんな気持ちをぶち壊すかのように、突然、馬車が止まった。
ガタンガタン!
すみれ姫が転がる。
荷物も転がる。
「きゃぁ!」
そして、キャロの悲鳴。
すみれ姫は急いで立ち上がり、御者台へと向かった。
何があったのかと。
御者台では、真っ青な顔をして震え、前方方向に視線を送っているハンナが……。
すみれ姫は急いで馬車から飛び降り、ラズルの馬車の前へと走る。
そこには、三十人は越えそうな数の盗賊がいた。
ラズル、リスベルとアシュリーは固まっている。
「おい、全員出てこい」
盗賊が荒げた声でラズルたちに命じる。
当然、馬車の前に飛び出したすみれ姫は、盗賊の目に入っている。
「そこの変な恰好をしたガキ、後ろの馬車にいる奴らを連れてこい」
そう命じられても、すみれ姫は動かない。
「おい、御者台のお前らも降りてこい。ちびっこはわからないみたいだから、お前らが連れてこい」
そう言われても、だれもがハンナとキャロを連れてくる気にもなれない。
リスベルとアシュリーはあくまでも護衛である。
ラズルの前に歩み出てすみれ姫に並ぶ。
だが、盗賊は全く動じる様子もない。
「おいおい、この人数でやる気か? いうことを聞くなら、逃がしてやるかもしれんぞ?」
盗賊はにやけながらそう言った。
リスベルにはわかる。
絶対に逃がしてなどもらえない。
だが、盗賊のその一言にラズルがリスベルに提案する。
「ここは、言うことを聞きませんか。相手は三十人もいます」
だが、そんな余裕もない。
盗賊は後ろの馬車、見えてはいないハンナに向けて大声を上げた。
「おい、後ろの馬車の奴、出てこい!」
それを聞いて、ハンナはキャロに声をかけた。
「キャロ、おとなしくここで待っていなさい」
「いやだよ。怖いよ。お母さんも行っちゃいやだ」
「きっと大丈夫だからね。だから、静かにしていて」
ハンナは嫌がるキャロを幌の中に入れ、自分は前へと歩み出た。
「これで全部か?」
盗賊の質問にハンナが答える。
「そうです」
「じゃあ、他にいたら、殺していいな」
その盗賊の一言に顔を青ざめさせるハンナ。
その様子を盗賊は見逃さない。
逆に、ハンナも自分の失敗を悟る。
ラズルもキャロに危険が迫ったと認識する。
ラズルは、前に立つリスベル達にそっと声をかけた。
「リスベルさん、アシュリーさん。合図をしたら一目散に逃げましょう。奴らの第一の目的は商品です。それで、お願いです。リスベルさん、キャロを連れて行ってください。私達がキャロを連れて行くと遅くなります」
リスベルは、そっと頷く。
確かに、ラズルやハンナがキャロを抱いていては、すぐに追いつかれてしまうだろう。
なら、自分が抱きかかえて連れて逃げた方がまだ全員が助かる確率が上が る。
ラズルは続ける。
「まだ、あいつらが遠いうちに、逃げ出します。いいですね。それでは、行きますよ」
盗賊達が歩いて近づいてくる。
「三、二、一、ゴー!」
ラズルの掛け声に、全員が後ろを向いて走り出した。
瞬間的なダッシュは、すみれ姫、リスベル、アシュリーが速い。
だが、違った。
一瞬後ろを向いたラズルとハンナが、ナイフを取り出し、踵を返して盗賊に向かって走りだしたのだ。
「「「え???」」」




