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第23話

放課後の教室。二人きりの時間。真理ちゃんと窓際に立って、鈴を鳴らし合う。


リィン――


真理ちゃんの鈴の音は高め、私の鈴の音は低め。綺麗な鈴の音が微かに響く。


「私たちの声と一緒だね」


風が吹いてきて、カーテンがふわりと舞った。薄くて白いカーテンが真理ちゃんの顔を隠す。風が止んで顔が見えたとき、真理ちゃんは柔らかく微笑んでいた。


「そうだね……」


思わず見とれてしまうような可愛らしい笑顔。あの綺麗なオッドアイも、さらさらの繊細な髪も、全部が愛おしい。


「真理ちゃん……」


「なあに?」


小首を傾げて聞き返す真理ちゃん。


大好きなあの子。大切なあの子。


私にとって、かけがえのない思い出。


だから、壊さないで。


お願い、眼帯さん……



すすり泣く声が部屋の中で響く。あの日の放課後の思い出が穢されていくようだった。


リィン――


眼帯さんの手の中で、真理ちゃんの鈴が鳴らされる。もう抵抗する気力もなくて、大人しく眼帯さんの唇を受け入れた。


「ん……」


涙を拭うことも出来ない。このまま彼に襲われてしまうのかな。あの子との思い出を壊されてしまうのかな。


「綺麗な目だね……」


濡れた瞳を舌でしつこく舐められる。私の瞳からは、涙がとめどなく流れていく。


「壊さないでください……」


「約束だろう? ダメだよ」


わざとらしく、眼帯さんは見せつけるように鈴を鳴らす。私は腕を伸ばして、彼の手に触れた。


「お願い……何でもするから……」


ギュッと彼の手を握れば、眼帯さんの口元が歪む。


「そんなにこの鈴が大事なのかな?」


私が頷くのを見て、彼はにっこりと笑った。手の中で鈴が泥になっていく。息を飲んだ私に、眼帯さんは耳元で囁く。


「残念だったね……偽物だよ」


眼帯さんは私の手を掴んで、恋人のように絡ませる。現実を受け入れられない私に、彼の体が覆いかぶさってきた。


「うそ……」


「本当だよ。こんなに泣いて……可哀想にね」


慈しむように彼の手が私の頭を撫でる。何度もキスをされて、私の心はもうボロボロだった。繋がれた手を弱々しく握り返せば、眼帯さんはさらに深く口付ける。


全てを諦めかけた。


その瞬間――


襖が勢いよく開かれた。


「眼帯様っ! 黒布様が大変な……こと……に……」


襖を開いたのは、白骨くんだった。黒い瞳が限界まで見開かれて、彼は顔を真っ赤にしながら両手で顔を隠した。


「ひえっ……お取り込み中に失礼しました」


「はぁ……今度は何をしたんだい?」


眼帯さんは立ち上がって、額に手を当てながら白骨くんの方へ向かう。


「え、あの、良いんですか……」


「興が削がれたよ」


私を置いて、眼帯さんは白骨くんと共にどこかへ行った。私は震える体を抱き締める。諦めたフリをしても、やっぱり怖かった。


懐から鈴を取り出す。手の中で転がせば、微かに低めの音が鳴り響く。


「真理ちゃん……」


あんなに頑張ったのに、あの鈴は偽物だった。心も体も弄ばれて、息が苦しいほどに胸が締め付けられる。


「あっ、ひゅっ、ふ、う……」


嗚咽を噛み殺しながら、涙を拭って耐える。呼吸が上手くできなくて、窒息してしまいそうな気がした。


リィン――


低めの鈴の音が鳴っている。今は、この鈴の音だけが私の心の支えだった。


「助けて……鬼面さん……」


鈴を鳴らしながら、彼の低い声を思い出す。鬼面さんに縋り付きたい。あの力強い腕の中に帰りたい。

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