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第18話

次の日、私は薬を使って鬼面さんと出かけることにした。薬の効果は一時間しかないので、有意義に使わなければならない。


「鬼面さん、準備できました!」


「ああ、気配が変わったな」


鬼面さんは腕を組んで頷いている。私としては体に何も変化が起きていないので、あまり効果は感じられない。


「これで、他の半妖さんに狙われないはず……」


玄関の扉の前で大きく深呼吸をする。赤いフード付きのマントを被って、扉を思いっきり開いた。


「よしっ! 行きましょう、鬼面さん」


「ふっ……」


鬼面さんは少し楽しそうに笑って、軽く私の手を握る。


「俺からはぐれるな……」


「はいっ!」


私はフードを深く被り直して、鬼面さんと歩きだした。彼の屋敷の周りには誰もいない。少し離れた場所にある街へ向かって歩く。


段々と街に近づくにつれて、半妖さん達がチラホラ見かけられるようになる。


「異世界って感じがする……」


街並みだけ見れば、タイムスリップしたようにも見えた。けれど、街行く者たちは明らかに異様な姿をしていてる。


「凄いなぁ……」


私はチラリと鬼面さんを見る。どんなに恐ろしい姿をした半妖さん達も、鬼面さんを見ると避けていくのだ。やっぱり彼は特別な半妖さんに違いない。


ぼんやりと鬼面さんの方を見つめていると、いきなり彼に押し倒された。


「鬼面さんっ!?」


彼のお面が間近に迫る。突然のことに戸惑っていた。


その瞬間――


凄まじい勢いで、何かが鬼面さんの上を通り過ぎて行った。


ドゴォン――


地面がえぐれるような音が聞こえてきて、私は音の方を凝視する。鬼面さんは静かに立ち上がると、私に手を差し出してくれた。


「あ、ありがとうございます」


お礼を言って、彼の手を掴んで立ち上がる。左を向くと、砂埃の中から黒いフードを被った半妖さんが現れた。


「ふぅ……驚きました……」


男性は服についた汚れをはらいながら、こちらへ向かって歩き出す。背筋を張って歩く姿は、とても上品で優雅だった。


「すみません。お怪我はありませんか?」


「あ、いえ……大丈夫です」


フードを掴みながら答えると、彼は口元に手を当てて優雅に微笑んだ。


「良かった……迷惑をおかけして、すみませんでした」


「大丈夫です。あなたは……」


会話を続けようとした瞬間、鬼面さんに腕を引っ張られた。鬼面さんは私を庇うように立つ。


「近づくな……黒布……」


「ああ、私を知っているのですね」


鬼面さんは珍しくかなり警戒した様子だった。黒いフードを被った男性は、仕草も言葉遣いも上品で、悪い半妖さんには見えない。


「知り合い……ですか?」


「この男は危険だ」


鬼面さんが断言するほどの危険な半妖さん。その存在に息を飲んで、男性を見つめる。


「うわああん!! 黒布様〜!!」


突然聞こえてきた声に振り返る。後ろから、ふわふわの緩い金髪パーマの少年が走ってきていた。


「って! 鬼面様じゃないですか!!」


金髪の少年は、こちらを見て足を震わせながら泣き始めた。


「鬼面様を巻き込むなんて……今日が僕の命日なんですね。いつかこんな日がくると思っていました」


「大丈夫ですよ。どんな時も筋肉があれば解決します」


黒いフードの半妖さんが、よく分からない慰めの言葉を投げかけた。すると、少年はますます泣きじゃくる。


「うわぁん!! 黒布様の筋肉ばかぁ!!」


私はとにかく落ち着かせようと、少年に声をかけた。


「えっと……鬼面さんは優しい半妖さんですよ」


「うぅ、優しい半妖なんて存在しませんよぉ」


少年の言葉に、思わず頷きそうになる。確かに優しいフリをした、怖い半妖さんは多い。主に眼帯さんとか。


「というか、あなたは誰ですか?」


「私は……えっと……」


迷者と言おうとして、言葉を詰まらせる。迷者は迷い込んだ人間の名称だ。本名を伝えても良いのだろうか。


「マヨイだ……」


鬼面さんが私を抱き寄せて、代わりに答えてくれた。ちょっと可愛らしい名前で、口角が上がってしまう。


「マヨイ様……あの、殺さないでください」


「えっ……」


少年はその場にしゃがみこんで、泣き出しそうな顔で頼み込んできた。


「黒布様は不運なだけなんです! 悪気は一切ないのです!」


「白骨さん、着物が汚れてしまいますよ」


「もうっ! 僕たちの命がかかってるんですよ!」


フードの男性を睨みつけて、少年は頭を下げた。


「殺さないでくださいっ!!」


「いや、殺しませんから。頭を上げてください」


少年は涙を拭いながら、立ち上がる。よく見ると、少年の手は白い骨だった。手首には包帯が巻かれており、白骨化した指が目元を拭っている。


「僕は白骨です。あの、本当に殺しませんか?」


「大丈夫ですよ。鬼面さんは優しいので!」


金髪の少年、白骨くんは鬼面さんの方を見てビクリと肩を揺らした。


「私は黒布です。先程は失礼しました」


黒いフードの男性、黒布さんが頭を下げる。鬼面さんは警戒をしたまま、黒布さんと私の間に立っていた。


「黒布さんは……鬼面さんに何かしたんですか?」


「いえ……初対面ですよ。ただ……私は……」


黒布さんが頭を上げた。


その瞬間――


何故か巨大な酒樽が、黒布さんに直撃した。


「ええっ!! 黒布さんっ!?」


「このように、不運体質でして……」


黒布さんは平然とした様子で立っている。三メートルはありそうな巨大な酒樽が直撃したのに、涼しい顔で立っていた。


「何度か大事故を起こしてしまったので、一部の方には警戒されてしまうのです」


「そうです! いつも僕を巻き込んで、不運で殺そうとしてくるのです!」


白骨くんは半泣きで膝から崩れ落ちる。


「うぅ……殺される。黒布様の不運で殺される」


「何か……可哀想……」


白骨くんの疲れきった様子に、同情してしまう。鬼面さんがため息をつく声が聞こえてきた。


「はぁ……この男には関わるな……」


「悪い半妖さん……ではないんですよね」


「悪意がない分、余計に厄介だ……」

 

鬼面さんは私の手を引いて歩き出す。チラリと振り返ると、黒布さんが丁寧に頭を下げているのが見えた。

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