表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/19

第17話

鬼面さんの屋敷の庭で、朱角さんと烏くんが追いかけっこをしている。私も参加していたけれど、すぐに息が上がってしまった。今は包帯さんと鬼面さん、そして羅黒さんと縁側に座っている。


「人間は弱いな。すぐに死んでいまいそうだ」


「迷者ちゃんは女の子だからね。余計に体力がないんだよ」


羅黒さんの言葉に、包帯さんが苦笑する。


「鍛えよ。そうすれば強くなる」


「人間では、俺達半妖にはついていけないよ」


「汝らも、元は人間であっただろう?」


羅黒さんの言葉に、包帯さんは黙り込んだ。重い沈黙と冷たい空気が流れる。


「えっと……人間だったんですか?」


「まあ、元はね……あまり人だったころのことは覚えてないよ」


包帯さんは苦々しい顔で答えた。思い出したくないことがあるのかもしれない。


「迷者よ。半妖どもが汝に執着するのは、不完全な存在だからだ。どちらにもなりきれなかった者たち、それ故に完全な存在である人間に執着する。とくに元から半妖であった者たちはな」


「なるほど……」


「逆に言えば、元々人間であった半妖ならば、それほど執着してはこないはずだ」


私はチラリと鬼面さんの方を見る。彼はどうなんだろう。私を拾ってくれたのは、人間に執着してるからなのかな。


「俺も……元は人間だった」


「え、そうなんですか」


鬼面さんの言葉に、少し驚いた。元人間なら、どうして私を拾ってくれたのかな。聞くのが少し怖い気もする。


「む、騒がしいな。なんだ、あれは……」


羅黒さんが眉間に皺を寄せて、庭の方を見ている。私も庭の方へ視線を向けて、目を見開いた。


「彼岸さんっ!」


朱角さんが、彼岸さんを食べようとしていた。私は慌てて、彼岸さんに駆け寄る。


「何してるんですか!!」


朱角さんから、彼岸さんを取り返して抱き締める。朱角さんは不服そうに私を睨んだ。


「何すんだよ。俺の獲物だぞ」


「彼岸さんは食べ物じゃないですから!」


私にしがみつく彼岸さんの頭に触れた。彼の美しい赤髪には唾液がついている。


「野蛮な奴め……」


忌々しげに言い放つ彼岸さん。それに対して、朱角さんは退屈そうに欠伸をしていた。


「烏、そろそろ帰るぞ」


「はーい」


羅黒さんは巨大なカラスに変身すると、私を見て言い放つ。


「強い半妖ほど、汝に執着する。精々、気をつけることだ」


そう言って、羅黒さんは烏くんを乗せて飛び立った。


私は縁側の方へ戻って、彼岸さんを下ろす。彼は這いずりながら、包帯さんから距離を取っていた。どうやら、彼岸さんは包帯さんが苦手みたいだ。


「迷者ちゃん、人間が鍛えても限界がある。お狐くんのところへ行けば、何か役立つ物が買えるかもしれないよ」


「なるほど……ありがとうございます!」


情報をくれた包帯さんに頭を下げる。彼は軽く私の頭を撫でてくれた。


「そうだ。あの黒猫だけど、処分しておいたよ」


「え……」


突然のことに、私の頭は真っ白になった。あまりにも、自然に言われた言葉が信じられない。


「あれが生きていると、君を惑わす元凶になるからね。実際、眼帯に攫われてしまったんだろう?」


「そ、う……ですね……」


言葉を詰まらせながらも、なんとか返事をした。クロさんが殺されてしまった。私のせいなのかな。


ずっしりと重たいものがのしかかったような気分だった。


「迷者……」


鬼面さんに背中を撫でられる。泣きそうな顔で見上げれば、彼は私を抱きしめてくれた。私は彼の胸元に頬を擦り寄せる。


「鬼面さん……ありがとうございます」


彼は背中を一定のリズムで優しく叩いてくれている。無口な彼の優しい気づかいは、十分過ぎるほどに伝わってきた。


「ずるいなぁ……」


包帯さんのドロリとした冷たい声は、聞こえないフリをした。



包帯さんと鬼面さんに連れられて、お狐くんの屋台にやってきた。お狐くんは、私を見ると、手を振ってくれた。


「わ〜! 迷者のお姉さん、また来てくださったんですね」


「お狐くん、護身用の何か便利な物ってないかな?」


私が問いかけると、お狐くんは少し微妙な声を出す。


「うーん……」


「お狐くん、久しぶりだね」


包帯さんが話しかけると、お狐くんはピタリと動きを止める。そして、やたら甘い声で包帯さんに擦り寄った。


「これは包帯さんではないですか〜。今日も、とっても素敵ですね」


「ありがとう。はい、お小遣いをあげようね」


お狐くんは小袋を受け取ると、飛び上がって喜ぶ。そして、包帯さんに抱きついてお礼を言った。


「もう〜! 包帯さん、大好きです!」


「お狐くんは、良い子だね」


にこにこと笑う包帯さんと、声を弾ませるお狐くん。しばらくして、お狐くんは包帯さんから離れる。


「特別なお薬を出しますね〜」


彼はご機嫌でしっぽを振りながら、屋台から商品を取り出した。


「こちら、一時間だけ半妖になれるお薬です!」


「半妖さんになれる薬?」


「はい! 見た目や力などは変わりませんが、気配だけを半妖にすることができます。人間だとバレなければ、普通に街を歩くことが出来るようになりますよ」


お狐くんの言葉に胸が高鳴る。街を歩くことが出来れば、元の世界へ帰るための情報を集めることができる。


「買おう」


私が何かを言う前に、鬼面さんは代金を渡した。


「お買い上げ、ありがとうございます〜」


お狐くんから薬を受け取った鬼面さん。彼は薬の入った瓶を、私に渡してくれた。


「鬼面さん、ありがとうございます!」


私が笑顔でお礼を言うと、鬼面さんは無言で頭を撫でてくれた。


「包帯さんもありがとうございます」


「うん、いいよ」


包帯さんにも、きちんとお礼を伝える。彼のおかげでお狐くんが薬を出してくれたからだ。


この薬をどう使うか、それが今後の指針になるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ