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語り部はバッドエンドを繰り返す ──ユミルの物語  作者: 浅白深也
五章 繰り返されるバッドエンド
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変わらない結末

【八巡目】

 浄化(じょうか)の儀式まで物語を進めるためには、三日目の事故をどうにか防がなければならない。


 現在、判明していることは、三日目の朝になると三人は必ず隠れ鬼ごっこを始めてその最中に誰か一人が必ず事故に遭うということだ。


 カイは転落、ララは沈溺(ちんでき)、リロは下敷き。このうちララとリロに関しては事故が起きた場所を特定している。発生時間については不明だが、経緯的におそらくカイの事故が最初で、続いてララ、最後にリロのはずだ。


 それを踏まえると【六巡目】の手順で動くのが効率が良く、まずカイとともに鬼役をして、湖にいるララを捕まえ、森民の家の横に隠れているリロを捕まえる、というふうに最短で行動すれば全員を助けられる。


 ただ、懸念もある。


 それはたった一回でカイたちが遊びをやめるとは思えないことだ。これまでの三人の動きから俺に捕まったことを悔しがってすぐに二回戦目を始めるのは容易に想像つく。そしてここは偶然が必然となる世界で、子供たちの事故が運命づけられているのなら全く別の事故が起きても不思議じゃない。


 だからそれを試すよりも前に、やってみたいことがある。霧ヶ峰(きりがみね)邸から帰る車の中でメモ帳を片手に考えている時に、ふと思い出したのだ。


 俺の記憶が正しいなら、()()()()を繰り返せばおそらくは……。


 いつものとおり火事にならないよう二日目はユミルと行動を共にし、三日目がくる。


 ユミルとラナフィナが自室で儀式の準備をしている間、俺は森民の応対をする。


 ここまで時間が進んでも子供たちの誰かが運ばれてくることはなかった。どうやら俺の考えは正しく、事故を未然に防げたようだ。まさかの偶然が折り重なってたわけだな。


 しかし油断はできない。


 ここからは変わった動きをせず、物語が浄化(じょうか)の儀式まで進むのか様子見をしよう。


 それから森民の応対を続けて正午を過ぎ、儀式の時間が来るまで借り部屋で待機した。


 その間、新しいアクシデントは起きず、俺の心配は杞憂に終わって夕方になる。


 御神木(ごしんぼく)浄化(じょうか)の儀式が始まり、その途中でユミルが地面に倒れる。


 駆け寄って必死に呼びかけるアリウスさん。狼狽(ろうばい)する森民たち。辺りは喧騒に包まれる。


 この展開になることは分かっていたのに、心に宿した覚悟は(もろ)く、俺は意識を失う最後まで悲惨なユミルの死に様を見ることができなかった。




【九巡目】

 一日目と二日目の行動は確定した。あとはユミルの死を回避すればハッピーエンドに導ける。


 そして過去の情報を纏めれば何が原因かを推測するのは容易だ。問題はそのプロセスが不透明なことだが、それも今回の行動ではっきりするだろう。


 今まで火事と事故のせいでできなかったことを試す時がやっときた。




【十巡目】

 前回、注視して三日間を過ごしたが、思っていた結果は得られなかった。


 完全に当てが外れたか。いやしかし、そうであればあの人の行動や御神木(ごしんぼく)の核が物語上に存在する意味が分からない。俺の推理は当たらずとも遠からずなはずだ。


 きっと何か見落としがあるに違いない。


 もっと深く物語を見よう。




【十二巡目】

 やっぱり重大なことを見落としていた。


 他に色々な情報が出てきてついメモすることを失念していたが、【四巡目】で御神木(ごしんぼく)の核がある空間に行った際、確かにこの目で見た。アレのことについて知れば新たな展望が開けるだろう。


 そのためには火事のルートを繰り返し、ラナフィナに御神木(ごしんぼく)の地下への入口を開けてもらう必要があるが、問題はそのあとで、瘴気が充満する中意識を保ちながらラナフィナの目を掻い潜らなければならない。


 かなりの難関だけど、気合でなんとかするしかないな。




【十五巡目】

 これまで三度(みたび)同じルートを辿った。


 核の瘴気についてはギリギリ耐えられそうなものの、いつも目敏(めざと)いラナフィナに見つかって(あの空間には遮蔽物となるものがなく身を隠せない)問答無用で眠らされてしまう。 


 見つかる前提で駆け抜けようとした回もあったが、まさかの瞬間移動であえなく御用。……まったくいくつの魔術が使えるのかあのロリ魔女は。


 前の時のように会話に持ち込み警戒心を緩ませて隙を()くことも考えたが、上手く行ったところで知りたい答えを得る前に俺の意識が瘴気に負けるのがオチだ。


 そうやって様々な方法を思案していった結果、断念することにした。ゲームのようにセーブ機能があれば話はべつだが、御神木(ごしんぼく)の地下に行くのに同じ二日間を費やさないといけないのは精神的にも時間的にも厳しい。まだ手応えがあればいいけど一切ないし。


 直接見て確かめられれば話は早かったが、どうやら推理して探し出すしかなさそうだ。


 そこから三日間を過ごして────謎が解けた。冷静になって考えてみれば簡単なことだったんだ。三巡も時間を無駄にしてしまったな。


 そして次に考えるべきことが生まれた。




【十六巡目】

 新たな疑問を二日間頭の中で熟考し、推測を立て、三日目で確信に変わった。


 なるほど。だからあいつはいつも知らぬ間に消えていたのか。やけにご機嫌なユミルの様子にも合点がいく。


 なんにせよ、今回はもう遅くてバッドエンドだ。


 次の回でユミルが死なない未来に辿り着く。




【十七巡目】

 ユミルの死を回避する。


 そのためには三日目の行動が重要になってくる。


 儀式が始まる前までユミルのそばから離れてはいけない。たとえ怪しまれても。




【十八巡目】

 やっぱりラナフィナが障害として立ちはだかる。何かと理由をつけてユミルの近くにいたら変態呼ばわりされた挙げ句に魔術で眠らされてしまった。


 だがあの魔女に太刀打ちできないことは嫌というほど理解している。


 こうなれば別のアプローチをしていくしかない。


 ユミルと二人きりの時に思いきって話をしてみよう。




【二十一巡目】

 幾度もユミルと言葉を交わしてきたが、最期の展開を変えることはできなかった。


 一旦ユミルの死の回避から、死そのものの原因を無くすことに焦点を切り替えよう。




【二十五巡目】

 ここまで新たな可能性を一つも見つけられなかった。


 森民一人一人と会話したり、移動不可エリア沿いに歩き回ったりと様々なことをしたが、どこにも突破口となり得る物事はなかった。


 それもそのはずだ。物語の疑問はほとんど解消されている。やるべき目的も分かっている。


 なのに、その方法が一向に思いつかない。


 それともまだ見落としがあるのか。


 だがこれ以上はなにも……。




【三十巡目】

 ……ダメだ。


 どうしてもハッピーエンドに到達できない。


 どうしても歯車が噛み合わない。




【??巡目】

 彼女(ユミル)の死を見るのはこれで何度目だろう。


 数を忘れてしまうほど目にしているのに、いつまでも心が慣れてくれない。


 時を繰り返すたびに、元気で明るい彼女と今目の前の物言わぬ彼女が比較されて精神を(むしば)む。まるで自身の不甲斐なさを表しているようで余計に。


 こんな展開は望んでいない。


 変えたい。彼女を救いたい。


 そんな思いとは裏腹に、疲弊した脳がどこかで諦観する。


 本当にこの物語にハッピーエンドなんてあるのだろうか、と。

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