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語り部はバッドエンドを繰り返す ──ユミルの物語  作者: 浅白深也
五章 繰り返されるバッドエンド
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窃盗行為

 俺は地下室のベッドで目覚めた。


 瞬時に上体を起こし、頭を軽く振ってクリアにさせる。


 夢のように記憶から消えかかっていく物語の経緯を忘れないため、その情報を記載しようと傍に置いたメモ帳を手に取ろうとするが。


「あれ? ……ない。ここに置いてたはず…………って、またお前か」


 気がつけばまたしても霧ヶ峰(きりがみね)が机の椅子に座っており、その手にはメモ帳が握られていた。


 霧ヶ峰(きりがみね)はメモ帳をゆっくり閉じると、こちらに視線を向ける。


「戻ってきましたね。気分はいかがですか?」

「最悪だ。次から次に疑問点が出てきて混乱してる。だから早くそれを返してくれ」

「イヤです」

「なんでだよ……つまらない茶化しに付き合ってる暇はないんだ。記憶が薄れる前に書かないと」

「では、交換条件です。今日はこのままお帰りになることを了承してくれれば返します」

「……もう本の世界(むこう)に行くなってことか?」

「はい。清次(きよつぐ)先輩は夢中になって気づいていないかもしれませんが、今日だけで六回も物語の世界に渡っています。メモを見るかぎり、三日目だけは半日で終わっていることを加味しても約二週間を過ごしたことになる。精神的に看過できません」

「ちゃんとトイレがてら休憩してるし、本の中でも睡眠を取ってるから問題ない」

「そうですか。じゃあどうぞ。これからはその類稀(たぐいまれ)な記憶力を存分に発揮してください」

「……心配してくれるのはありがたいけど、本当に無理はしてないから安心しろ」

「あ。それは建前で、実はこのあと(ゆき)と外食に行く予定なんですよ」

「ふざけるのもいい加減にしろっ。お前がそんな態度するなら、こっちだって黙ってないぞ」

「おや? 力づくで奪ってみますか? こう見えても私は強いですよ〜。以前にも学校一の不良生徒を捻じ伏せて更生させましたからね。ひ弱な清次(きよつぐ)先輩だったらワンパンですよワンパン」


 椅子から立ち上がってシュッシュッとシャドーボクシングする。……元から俺が手出ししないのを分かって言ってるな。やっぱりこのお嬢様に脅しは通用しないか。


「……もし今日を諦めたとして、再開は明日の何時からだ?」

「いえ、私がいる時が好ましいので休校日の土日ですね」

「五日後まで待てるか」

「なら私との戦闘は避けられませんね」


 頑なに意見を変える気はなさそうだ。


 しかたない。使いたくはなかったけど、あの手を試してみるか。


「はぁ。分かったよ。今日はこのまま帰る」

「口ではなく行動で示してください。アンフィニシュトの書を机の引き出しに」


 俺は掛け布団の下に置いておいた本を手に取り、言われたとおりに机の引き出しに仕舞う。


 霧ヶ峰(きりがみね)は懐から取り出した小さな鍵を、引き出しの鍵穴に差し込んで施錠する。


 そのあと素直にメモ帳を渡してきて。


「今日はお疲れ様でした。心身ともにしっかりと休息を取り、また次回頑張っていきましょう」


 満足げな表情でそう言った。


 三船(みふね)さんに車で送迎してもらって家に着いたのが午後三時だった。


 俺はまだ誰も帰ってきていない家の中を歩いて自室に入り、


「さぁ。続きをするか」


 肩かけショルダーバッグの中からアンフィニシュトの書を取り出す。


 あの傍若無人のお嬢様のことだから急なタイミングでストップをかけにくるのは目に見えていた。だからトイレ休憩に行った際に、その隣にある部屋(図書館みたいに沢山の本棚が並んでいた)から深緑色の表紙のものを選び取り、地下室に運んでおいたのだ。確認されれば一発でバレるが、霧ヶ峰(きりがみね)が余裕綽々の態度で俺のことを舐めていたおかげで功を奏したな。


 明らかな窃盗行為で良心の呵責を感じるが、明日ならまだしも次の土日までこのモヤモヤ感を継続させたくないし、記憶の濃いうちのほうが推理が(はかど)る。


 なに、役目を終えたらちゃんと返すつもりだ。そしてこれはハッピーエンドを目指している霧ヶ峰(きりがみね)の為でもあるのだ。やましいことは何一つない。


 俺は自分にそう言い聞かせてベッドに横になり、本を開いた。

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