第二十七話 ライバル登場
パァン!!
戸塚中継地点に
繰り上げスタートのピストルが
鳴り響いた。
城西拓翼大学の襷は、残り1メートルで
繋がらなかった。
蒼太への希望に満ちた大歓声は、
「ああーッ」という悲鳴に変わる。
蒼太は両手で目を抑えながら、
ゴール地点で倒れ込み、
脇目を振らず泣き崩れる。
ショックのあまり、
自分で立ち上がることができない。
すぐに、サポートメンバーが、
蒼太にタオルを被せて控室に
連れて行こうとする。
しかし、マスコミは、
それを嘲笑うかのように、
そして、この悲劇こそが
箱根駅伝の醍醐味だと言わんばかり、
蒼太の正面にたってカメラをむけて、
シャッターを切っていた。
一方、蒼太には、マスコミを
気にする余裕などなかった。
襷を繋げなかった。
それがただただ辛かった。
熱を帯びた襷が、
手の中で冷たくなっていくのを
感じていた。
第二十七話 ライバル登場
控え室の隅で泣いている蒼太に
全員がなんと声をかけてやればよいか
分からなかった。
ただ、そっとしておく以外、
答えがでてこなかった。
しかし、あの男だけは、
躊躇なく、蒼太に話しかけた。
「よう。」
この日、八区区間賞を獲得した
早稲田学院大学の速水瞬だった。
「お前、俺と十一秒差で区間二位だってよ。
おめっとさん。
あと、お前の走り、
フォームがなってねーし、
荒削りな感じだけど、
俺は嫌いじゃねーわ。
なんつったって、他人の走りでこんなに
アツくなれたのは、初めてだからな。
絶対に這い上がってこいよ!
来年は大手町で会おうや。」
そう言って去っていった。
(来年、大手町で会おう。)
その意味はよく分からなかったが、
なんだか速水には
負けたくない、その時、強く思った。




