第二十三話 覚悟のスタートダッシュ
箱根駅伝復路、当日。
首位は、早稲田学院大学。
前日の往路で、
二位の駒ノ澤大学に三分以上の差をつけ、
もはや、総合優勝確実と言われていた。
一方、城西拓翼大学は、
その首位・ワセガクに二十五分の差を
つけられている。
だが、交通事情にあまり悪影響を
与えてはいけないという理由もあり、
復路の最初である六区に関しては、
ワセガクの復路スタートから、
十分後に、ジョーダイはスタートを
きることになっていた。
だが、この先は、各区間ごとに、
先頭がタスキリレーをしてから
二十分以内に中継地に着かなければならない。
その二十分に一秒でも遅れれば、
襷を待つことなく、次の走者は
問答無用で、スタートすることになる。
これは、いわゆる、
無念の繰り上げスタートと呼ばれている。
繰り上げスタートは、途中棄権と異なり、
ルール上失格ではないため、
チームや個人の記録は正式記録として認められる。
しかし、自校の襷を繋げなかったと言う点では、
選手にとって失格と同意味であり、
それを経験した者に、一生残るトラウマを
植えつけるのである。
城西拓翼大学駅伝部にとって、
崖っぷちの箱根駅伝復路が始まろうとしてした。
第二十三話 覚悟のスタートダッシュ
復路の一番手である六区のランナーが、
往路での時間差ごとに、スタートを切った。
ジョーダイのランナーも十分後にスタートを
切るやいなや、猪突猛進と言わんばかりに、
全力で駆け出した。
本来、駅伝のセオリーは
『最初はゆっくり入って、
ラスト三キロメートルでラストスパートをかける』、
である。
しかし、背水の陣で復路に臨んでいるジョーダイは、
なりふり構うことなく、突っ込むしかない。
後は野となれ山となれ、である。
山の下り坂を駆け、足が血まみれになりながらも、
必死になって七区に繋ぐが、
この時点で、
先頭が通過してから、すでに十五分が経過していた。
続く七区を走るの四年生ランナーも、
巻き返しを図ろうと、最初から全力の
スタートダッシュを仕掛ける。
決してヤケクソになっているわけではない。
一人の男としての意地とプライド、
最後の箱根駅伝にかける想いが、
彼の、両の足を支えていた。
二十キロ地点。伴走車からの櫛部川コーチの
アツい檄が飛ぶ。
「繰り上げスタートまで、ギリギリだぞ!
でも、お前が襷を繋いでくれることを、
走れなくなった山之内も、いや、全員が、
信じているんだ!
ここで、もう一度、スパートをかけよう!
さあ、お前のありったけの気持ちを
箱根にぶつけてやれ!
男だろォッ!!」
まさに、「その一秒を削り出す」ような、
怒涛のラストスパートをしかけた。
一方、八区の平塚中継場では…。
次のランナーである蒼太に、
予備の襷が渡されていた。
繰り上げスタートまで
残り一分を切っていたからだ。
「どんな時も気持ちは繋ぐんだ。
それが駅伝なんだ。」
と、自分にいい聞かせる。
蒼太は、山之内から引き継いだハチマチを
頭に結び、スタートラインに立つ。
繰り上げスタートの覚悟はできていた。
その時だった!
「城西拓翼大学、間に合うかもしれないぞ。
予備の襷、こっちに渡して!」
係員が大声で叫んだ。
予備襷を渡して、とっさに後ろを向く。
必死に走る七区のランナーが見えた。
「先輩、ラストです!」
蒼太もどの歓声よりも大声で
声援を送りながら、手を伸ばす。
残り十秒だったが、
時間ギリギリで、蒼太との襷リレーが成立した。
全力を出し尽くした七区のランナーは、
その場で倒れ込んだ。
「しっかり繋いでくれてありがとう!
カッコよかったぞ!」
監督車からから聞こえる櫛部川からの
お礼のマイクに、
走り終えたランナーの目頭は熱くなる。
そして、意識が朦朧とする中で、
八区に駆け出した蒼太を見つめていた。
どことなく、蒼太のハチマキ姿と、
山之内の面影が重なって見えた。
「山之内の気持ち、
いや、俺たちの箱根にかけた気持ち…、
きっと、アイツは受け継いでくれている。
俺たちは果報者だな…。
そうだろ、山之内。」
襷を繋げた安堵感や山之内への思い、
自分自身の不甲斐なさ、
後輩が成長する嬉しさ、
色々な感情が混じり合って、
涙が止まらなかった。




