第二十一話 〜回想〜 山之内のハチマキ
一年前の秋。
当時三年生だった山之内は、教育実習を終えて、
駅伝部の寮に戻ってきていた。
教育学部に所属する学生は、
大学三年時に母校で教育実習を
行うことになっている。
無類の中国史好きである山之内は、
いつか中学校で歴史を教えたいと、
夢みていた。
「おつかれ、ヤマ先生!」、
駅伝部の同期全員が笑顔で迎える。
(やはり、山之内が帰ってくると、
場が明るくなるな。)
皆がそう感じていた。
後にキャプテンとなる大和が、
山之内の右手に注目する。
「どしたん?それ?」
山之内はドヤ顔で応える。
「ああ、これか?
実は、教育実習先の生徒からもらったんだ。
『これつけて箱根駅伝、
頑張ってください。』って。」
山之内は、キレイにたたまれたハチマキを
皆にみせた。
「へー。ハチマチつけて走るなんて、
まるで都大路みたいだなー。なっつかしー。」
同期の一人が楽しげに言う。
都大路とは、京都で毎年おこわれる、
全国高校駅伝大会の別称である。
そこでは、多くの高校生ランナーがハチマキを
つけて走る。
なお、今日の大学駅伝においては、
ハチマキ姿のランナーは絶滅危惧種と言っていい。
「あのさ…。実は皆にお願いがあるんだけど…。」
山之内は少し照れくさそうに言った。
第二十一話 〜回想〜 山之内のハチマキ
「なんだよー。早く言えよー。」
同期全員が山之内を茶化す。
山之内は相変わらず照れくさそうだ。
「あのさ…。このハチマキの裏側に、
皆んなの名前書いてくれないか?」
その瞬間、山之内以外の同期が大爆笑する。
「そんなこと、お安い御用だって。
なんで、そんなに恥ずかしがるんだよ。」
全員がサインペンでハチマキに
名前を書き終えて、山之内に渡す。
「ヤマ、お前の名前も書き忘れんなよ。
書き忘れは0点だからな。」
山之内は、笑顔で応える。
「ああ。皆んな、ありがとうな。」
同期全員が山之内に箱根駅伝を走って欲しい。
そう思っていた。
山之内は、名前を書き終えると、
何かカッコつけたげな表情で
皆の方に振り向く。
「生まれた時、生まれた場所は違っても、
箱根駅伝にかける俺たちの志は、
いつも一緒だぜ!」
三国志演義の「桃園の誓い」のオマージュなのだが、
子供の頃から走ることばかりしてきた他の部員には、
まったくもって伝わらない。
すぐさま、ツッコミが入る。
「なんだそれー!くっせぇセリフだなあー。」
ふたたび、大爆笑の嵐に包まれた。
山之内は顔を真っ赤にして怒るが、
心の中では、何だか嬉しく感じていた。
「最後は、同期全員で襷を繋ぎたい。」
その気持ちは、いつだってホンモノだった。




