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『リプレゼティングジャパン、ショ―ヤ・タカハシ!』

 俺の名前がコールされると、会場から今日一番歓声が巻き起こった。

 これまでの選手たちの演技で、リンクは少しずつ温まってきている。だが、まだまだ冷たい。そう、観客たちは、世界チャンピオンの演技を待ちわびているのだから。

 だから見せてやるのだ。今の俺にできる最高の演技を。

 俺のショートの曲は『アラビアのロレンス』。どのショーなどでも一切やっていない、今日が初お披露目のプログラムだ。

 金管の不吉さを感じさせる伴奏から演技が始まる。

 何と言っても、演技冒頭が最大の見せ場だ。

 最高難度・最高得点の大技、四回転トウループ+三回転トウループのコンビネーションジャンプ。

 今季、ショートに四回転を組み込んでいるのは世界で俺一人だけだ。

 一切ミスの許されないショートで、四回転を入れるのは無謀。皆がそういう。だが、だからこそじゃないか。成功するか、失敗するか、そのギリギリのところにこそ感動があるのだ。

 男なら、ショートだろうがフリーだろうがエキシビだろうが、黙って四回転を入れろ。それが俺の哲学。

「お前ら見てろよ」

 四回転を成功させる秘訣は2つ。

 第1に、迷わないこと。少しでも失敗するかもなんていう気持ちがあったら絶対に転んでしまう。

 第2に、完璧な軸をイメージすること。頭のてっぺんと足のかかとが、それぞれ天と地から引っ張られているイメージを作る。

 ここまでできれば、後はトウを突いて、宙へと飛び上がるだけ!

 飛翔、として同じ景色を4回見た後、再び氷上へと舞い戻る。

 エッジが氷を削る音、それと同時にリンクが悲鳴のような歓声に包まれた。

 だが、まだだ。そこから更にトウを突いて、もう一度跳び上がる。

 ――今度は三回転!

 完璧なクワドトウ+トリプルトウのコンボ!

 もうここからは王者の時間だ。クワドコンボの後には朝飯前のトリプルルッツ。これをステップから直接決める。続くトリプルアクセルも軽い軽い。

 サーキュラーステップとフライングスピンをサクサクこなしたら、演技ももう終盤。肢体には着実に乳酸が溜まっていくが、しかし心はどんどん軽くなっていく。

 観客の声援は鳴りやまない。そして最後のストレートステップに入る直前、俺が拳を突き上げたところで、会場の誰もが立ち上がって叫んだ。

 手拍子を、俺絵の演技が加速させていく。高速ステップでリンクを駆け抜け、勢いよく最後のスピンに入った。

 足替えのシットスピン、そしてキャメルポジション・シットポジションから高速のスタンドスピンでフィニッシュ――。

 見たか、白河。これが王者の滑り、真のアスリートの滑りだ。

 無数の花束やプレゼントがリンクに投げ込まれる。俺は四方の観客に礼をしてから、リンクサイドに引き上げた。満面の笑みで迎えてくれるコーチと拳を突き合わせる。そのまま軽くハグをして キスアンドクライへ座る。俺がカメラに向かって手を振ると、観客たちはさらに沸き立った。

 点数はすぐに出た。ジャッジが迷う余地など皆無だからだ。

『ザマークスフォーショーヤ・タカハシ』

 観客がどよめいた。パーソナルベストを更新して、なんと85点という高得点をマークした。当然、男子ショート暫定1位は俺、高橋勝也。それもダントツでのトップだ。

 ……見たか、白河悠人。これが本物のフィギュアってやつだ。


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