6
♪
カナダはトロント。俺はコーチとともに、グランプリシリーズカナダ大会に出場するためにやってきたのだ。
グランプリシリーズは、多くのトップ選手にとってシーズン最初の試合になる。
俺にとってもこのカナダ大会がシーズン初戦だ。これまでの半年積み上げてきたものがが、ある程度の形となるのだ。
今日は、男子シングルのショートプログラムが行われる。既に会場には、世界中から派遣された12人の選手たちが集まっていた。
ショートプログラムでは、ジャンプ3つ、スピン3つ、ステップシークエンス2つ、合計8つのエレメンツ(要素)をこなす。
フリーと違って失敗した技はやり直しできない。技の数も少ないので、一つの失敗が演技全体の評価に直結するシビアな戦いだ。
さて、そろそろウォームアップを始めようとした時、一人の少年が話しかけてきた。
「やぁ、勝也くん」
――白河悠人。
彼もこのカナダ大会にエントリーしている。SNSによると、今日はオリンピックの代表権をかけたライバル対決、とのことだが――。
「調子はいいの?」
この<ライバル>白河だが、妙に俺に対して馴れ馴れしい。俺は、別に友達同士というつもりはないのだが、試合のたびにめちゃくちゃ話しかけてくる。
「まぁまぁかな」
「ショートの曲、『アラビアのロレンス』なんだってね。すごい楽しみだよ」
どうもコイツは俺のことを<尊敬>している節がある。憧れの選手的なカンジなのだろう。……まぁムリもない、なにせジュニアの頃から、俺は常にコイツの上をいっていたのだから。
「それはありがとう」
「あと……」
と、白河は急に接近してきて、俺の太ももを撫でてきた。
「やっぱ、筋肉増えたよね」
俺はゾッとして思わず一歩下がった。コイツ、やっぱり<あっち>なんじゃないか。
美しさを競うという面があるからだろうか、実はスケート界にはあっち系の男が少なくない。隠すどころか、むしろそういったニュートラルさみたいなものを演技のウリにしている選手もいる。
そして――白河もその一人だ。
「気安く触るってんじゃねぇよ!」
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
ガチで貞操が狙われている気がして、鳥肌が立った。
「だいたい、もうすぐ戦うんだから」
俺が戦いという言葉を出すと――少しだけ白河の眼が真剣になった。
「お楽しみは明日のフリー後にとっておこうかな」
……なんだよお楽しみって
「じゃ、リンクで。お互いベストを尽くそう」
「ああ」
♪




