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 ♪


 カナダはトロント。俺はコーチとともに、グランプリシリーズカナダ大会に出場するためにやってきたのだ。

 グランプリシリーズは、多くのトップ選手にとってシーズン最初の試合になる。

 俺にとってもこのカナダ大会がシーズン初戦だ。これまでの半年積み上げてきたものがが、ある程度の形となるのだ。

 今日は、男子シングルのショートプログラムが行われる。既に会場には、世界中から派遣された12人の選手たちが集まっていた。

 ショートプログラムでは、ジャンプ3つ、スピン3つ、ステップシークエンス2つ、合計8つのエレメンツ(要素)をこなす。

 フリーと違って失敗した技はやり直しできない。技の数も少ないので、一つの失敗が演技全体の評価に直結するシビアな戦いだ。

 さて、そろそろウォームアップを始めようとした時、一人の少年が話しかけてきた。

「やぁ、勝也くん」

 ――白河悠人。

 彼もこのカナダ大会にエントリーしている。SNSによると、今日はオリンピックの代表権をかけたライバル対決、とのことだが――。

「調子はいいの?」

 この<ライバル>白河だが、妙に俺に対して馴れ馴れしい。俺は、別に友達同士というつもりはないのだが、試合のたびにめちゃくちゃ話しかけてくる。

「まぁまぁかな」

「ショートの曲、『アラビアのロレンス』なんだってね。すごい楽しみだよ」

 どうもコイツは俺のことを<尊敬>している節がある。憧れの選手的なカンジなのだろう。……まぁムリもない、なにせジュニアの頃から、俺は常にコイツの上をいっていたのだから。

「それはありがとう」

「あと……」

 と、白河は急に接近してきて、俺の太ももを撫でてきた。

「やっぱ、筋肉増えたよね」

 俺はゾッとして思わず一歩下がった。コイツ、やっぱり<あっち>なんじゃないか。

 美しさを競うという面があるからだろうか、実はスケート界にはあっち系の男が少なくない。隠すどころか、むしろそういったニュートラルさみたいなものを演技のウリにしている選手もいる。

 そして――白河もその一人だ。

「気安く触るってんじゃねぇよ!」

「いいじゃん、減るもんじゃないし」

 ガチで貞操が狙われている気がして、鳥肌が立った。

「だいたい、もうすぐ戦うんだから」

 俺が戦いという言葉を出すと――少しだけ白河の眼が真剣になった。

「お楽しみは明日のフリー後にとっておこうかな」

 ……なんだよお楽しみって

「じゃ、リンクで。お互いベストを尽くそう」

「ああ」

 

 ♪


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